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『孤児院から逃げた私は、希少スキル《回復魔法》で世界を渡り歩く』  作者: 楓真パパ
第1章

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第16話

 緑色の鉱石を採取し終えたあと、私たちはさらに奥へ進んだ。


通路は細く、壁の黒い光沢はより濃くなり、まるで“生き物の体内”に入っていくような感覚が強くなる。


足元には細い亀裂が走り、時折、白い霧のようなものがふわりと立ち上る。


「……空気が重いね」


「うん。魔力が濃いんだと思う。奥に行くほど魔物が増えるって聞いた」


ソウマはつるはしを肩に担ぎ、私は杖を握りしめて後ろを歩く。


昨日よりも足取りは軽い。でも、胸の奥には静かな緊張が残っていた。


通路を抜けると、天井が高く開けた広間に出た。


中央には黒い岩の塊が突き出ていて、その表面には――


蒼光鉱石が二つ、並んで埋まっていた。


「……あった」


ソウマがつるはしを構える。


「ノエル、周囲を見ててくれ」


「うん」


私は広間の周囲を見渡しながら、杖を握りしめた。


ソウマはつるはしを振り上げ、蒼光鉱石の周囲を慎重に削っていく。


カンッ……カンッ……


つるはしの音が広間に響き、鉱石の亀裂が徐々に広がっていく。


やがて――


パキッ


蒼光鉱石が岩から外れた。


「取れた!」


ソウマは鉱石を専用布袋に入れ、続けて二つ目の鉱石へ向かう。


私は周囲を見渡しながら、胸の奥の緊張をゆっくりとほどいていく。


――ゴブリンとの戦闘。

――ソウマが傷ついた。

――私は動けなかった。


その反省が、胸の奥に静かに残っていた。


さらに奥へ進むと、通路が少し広くなり、やがて第三の広間へ出た。


そこには――


蒼光鉱石が二つ、岩の表面に散らばるように埋まっていた。


「これで……五つ集まるね」


「うん。この広間で全部採れれば、依頼達成だ」


ソウマはつるはしを構え、私は周囲を見渡す。


広間は静かだった。魔物の気配はない。


ソウマは慎重に岩を削り、蒼光鉱石を一つずつ取り出していく。


カンッ……カンッ……


つるはしの音が響くたび、鉱石が少しずつ露出していく。


やがて――


パキッ


四つ目の鉱石が外れた。


「よし……これで五つだな」


ソウマは布袋を閉じ、深く息を吐いた。


「ノエル、帰ろうか」


「うん」


私たちはダンジョンの入口へ向かって歩き始めた。


ダンジョンの入口を抜けると、外の空気が一気に肺へ流れ込んだ。


「……外の空気って、こんなに暖かかったんだね」


「ダンジョンの中が冷たすぎるんだよ。魔力のせいだと思う」


ソウマは肩のつるはしを軽く叩き、街へ向かって歩き始めた。


私は杖を握りしめながら、胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じた。


――蒼光鉱石五つ。

――緑色の鉱石一つ。

――スライムの核。

――ゴブリン討伐。


昨日よりも確実に前へ進めている。


ギルドへ戻ると、受付嬢リリアが私たちに気づいて微笑んだ。


「おかえりなさい。ダンジョン採取、どうでしたか?」


ソウマが布袋を差し出す。


「蒼光鉱石五つと、緑色の鉱石一つ。それから……スライムの核です」


リリアは驚いたように目を見開いた。


「こんなに……!発生直後のダンジョンとはいえ、奥まで行かれたんですね」


「はい。魔物は弱い個体が多かったので、なんとか」


リリアは鉱石を丁寧に確認し、報酬を計算する。


「蒼光鉱石五つで銀貨二十枚。緑色の鉱石は希少なので銀貨十枚。核は銀貨一枚。合計で……銀貨三十一枚になります」


ソウマは驚いたように息を呑んだ。


「銀貨三十一枚……!」


「頑張りましたね。これだけあれば、荷台の購入にも近づけると思います」


私は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。


――少しずつ、前へ進めている。


その時――


ギルドの扉が勢いよく開いた。


「誰か!治療を!俺たちの仲間がケガをしたんだ!」


冒険者が叫びながら、血まみれの男性を担いで入ってきた。


胸元が深く裂け、血が止まらない。


「中堅パーティの人だ……!」


リリアが駆け寄る。


「どうしたんですか!」


「鉱石ダンジョンの奥で……新種の魔物に襲われた!なんとか逃げてきたが……こいつが俺をかばって……!」


男性は意識が朦朧としていて、呼吸が浅い。


私は胸の奥がぎゅっと締めつけられた。


――回復魔法。

――私にできること。


ソウマが私の肩に手を置いた。


「ノエル……行けるか?」


私は深く息を吸い、頷いた。


「……行く!私が回復魔法を使えます!」


私は男性のそばに膝をつき、傷口へ手をかざした。


胸元が深く裂け、血が止まらない。


呼吸は浅く、目は焦点が合っていない。


――怖い。

――でも、助けなきゃ。


胸の奥がじんわりと熱くなる。


その熱が腕へ流れ、手のひらへ集まっていく。


私は静かに《回復魔法》を使う。


淡い光が男性の胸元を包み、傷口がゆっくりと閉じていく。


血が止まり、裂けた皮膚が少しずつ繋がっていく。


男性の呼吸が少しずつ深くなり、目に焦点が戻り始めた。


「……助かった……」


男性がかすれた声で呟く。


「嬢ちゃん!!ありがとう!!本当にありがとう!」


私は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。


――助けられた。

――誰かの命を。


リリアが涙ぐみながら言った。


「ノエルさん……ありがとうございます……!この方、もう少しで……」


ソウマが私の肩を軽く叩いた。


「ノエル、すげぇよ。本当に助けたんだぞ」


私は深く息を吐き、胸の奥の震えをゆっくりとほどいた。


「……うん。でも……怖かった」


「そりゃ怖いさ。でも、ノエルは動いた。助けた。それが大事なんだよ」


ソウマの声は柔らかく、押しつけがましくなくて、ただ私を支えてくれる響きだった。


私は杖を握りしめ、深く頷いた。


治療を終えた男性は、しばらくぼんやりと天井を見つめていたが、やがてゆっくりと体を起こした。


「……助かった。本当に……助かったんだな」


声はまだ弱々しいが、その瞳には確かな光が戻っていた。


私は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。


「よかった……。傷はもう塞がってるから、しばらく安静にして下さい」


男性は私の手を握り、深く頭を下げた。


「君……ノエルさんって言うんだよな。本当にありがとう。命の恩人だ」


「い、いえ……私はただ……」


言葉が詰まる。“命の恩人”なんて言われたことがない。


男性は続けて頭を下げた。


「どうか……お礼をさせてほしい。俺はCクラスパーティ《風切りの斧》の副隊長で名前はザハトだ……こいつはムワイ。こうして助けてもらった以上、何もしないわけにはいかない」


私は慌てて首を振った。


「そんな……!私はただ、できることをしただけで……お礼なんていらないです」


「いや、いらないなんて言われても困るんだ。こいつは……君に命を助けられたんだぞ?命を救われて、何もしないなんてできない」


男性は真剣な目で私を見つめる。


その視線に押されて、私は少しだけ後ずさった。


「で、でも……」


ソウマが横から口を挟んだ。


「ノエルは気にしなくていいって言ってるんだ。気持ちだけで十分だろ?」


男性はソウマの言葉に頷いたが、それでも諦めないという強い意志が目に宿っていた。


「気持ちだけじゃ足りないんだ。こいつの命の値段は礼だけじゃ済まされねぇ!」


少しの沈黙。


男性はふっと表情を和らげた。


「……じゃあ、せめて今日の夕食を奢らせてくれ。それなら受け取ってもらえるだろ?」


「えっ……夕食……?」


「それくらいなら、いいだろ?命を救われたのに、何もできないのは……正直、胸が苦しいんだ」


私は言葉に詰まった。


――お礼はいらない。

――でも、夕食くらいなら……?


ソウマが私の肩を軽く叩いた。


「ノエル、受け取ってやれよ。この人、本気で感謝してるんだ。断り続ける方が逆に失礼になる」


男性は深く頷いた。


「もちろん高い店じゃなくていい。ギルド近くの食堂で十分だ。頼む、受け取ってくれ」


ザハトの真剣なまなざしに私はゆっくりと頷いた。


「……じゃあ、夕食だけ。それなら……受け取ります」


男性は安堵したように笑った。


「ありがとう。本当にありがとう。じゃあ、夕方にギルド前で待ってる」


そう言って、仲間に支えられながらギルドの奥へ運ばれていった。


私は胸の奥の緊張がゆっくりとほどけていくのを感じた。


ソウマが横で笑った。


「ノエル、よく頑張ったな。治療も、気持ちの整理も」


「……うん。でも、まだ慣れないよ」


「慣れなくていいさ。少しずつでいいんだよ。俺がいるしな」


その言葉は柔らかく、押しつけがましくなくて、ただ私を支えてくれる響きだった。


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