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『孤児院から逃げた私は、希少スキル《回復魔法》で世界を渡り歩く』  作者: 楓真パパ
第1章

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第12話

 翌朝。

 ギルドの扉を開けると、昨日と同じ喧騒が広がっていた。

 依頼を受ける冒険者、報告をする人、酒場で騒ぐ人――

 その中を、私とソウマはまっすぐ階段へ向かった。


「二階に資料室があるって言ってたよな」


「うん。魔物の生態を知っておけば、危険を減らせると思う」


 階段を上がると、一階の喧騒が嘘のように静かだった。

 木製の扉が並び、奥には大きな本棚が見える。


「ここだな」


 ソウマが扉を押し開けると、紙の匂いと静かな空気が広がった。

 資料室は広くはないが、棚にはぎっしりと本や資料が並んでいる。


 私は棚の一冊を取り出し、テーブルに広げた。


 《スモールキャタピラー》

 分類:幼虫型魔物

 体長:大型犬ほど

 危険度:低

 主な攻撃:糸による拘束


 挿絵には、丸い体に短い脚が多数ついた魔物が描かれている。

 見た目は可愛らしいが、説明文は油断を戒めていた。


 ・鋭い牙や毒は持たない

 ・身体能力は低い

 ・しかし“糸”を吐き、相手の動きを止める

 ・糸は強度が高く、剣でも切りにくい

 ・糸を吐いた直後は、次の糸を出すまで少し時間がかかる


「……糸が厄介なんだな」


 ソウマがページを覗き込みながら呟く。


「うん。攻撃力は低いけど、動きを止められたら危険だと思う」


 さらにページをめくると、討伐方法が記されていた。


 《討伐方法》

 ・糸を吐かれたら避けるのが基本

 ・糸は狙いを定めて放つため、軌道は読みやすい

 ・吐き出された糸に“手のひらほどの石”を投げると、石に糸が絡みつき身代わりになる

 ・糸を吐いた直後は、次の糸を出すまで数秒の隙が生まれる

 ・その隙に接近し、背中側から攻撃するのが最も安全


「石を投げて身代わりにする……なるほどな」


 ソウマは腕を組み、真剣に資料を読んでいる。


「糸を避けるだけじゃなくて、石を使って対処するんだね」


「うん。糸を吐いた直後の隙を狙うのが安全らしい」


 資料を読み終えた頃、胸の奥の緊張が少しだけ軽くなった。


 ――知識があるだけで、こんなに違うんだ。


 昨日のホーンラビットのような不意の危険も、事前に知っていれば避けられる可能性が高い。


「よし、行こうか」


 ソウマが資料を閉じ、立ち上がった。


「うん。石も拾っておかないとね」


「そうだな。草原に向かう途中で集めよう」


 私たちは資料室を後にし、一階へ戻った。


 受付嬢リリアが、私たちに気づいて微笑んだ。


「おはようございます。今日はどの依頼を?」


 ソウマが依頼書を差し出す。


『スモールキャタピラー討伐:1体 報酬:銀貨6枚』


「これをお願いします」


 リリアは依頼書を確認し、頷いた。


「スモールキャタピラーですね。糸に気をつければ危険度は低い魔物です。」


「はい。資料室で糸の対処方法も読みました」


「それなら大丈夫でしょう。草原の南側に出現しやすいので、そちらへ向かってください」


 リリアは依頼書に印を押し、私たちへ返した。


「気をつけて行ってきてくださいね」


「行ってきます」


 ギルドを出て、草原へ向かう道を歩く。

 昨日よりも少しだけ足取りが軽い。


「ノエル、石はこの辺で拾っておこう」


「うん」


 道端に落ちている手のひらほどの石を数個拾い、袋に入れる。


「糸を吐かれたら、これを投げるんだよな」


「うん。糸が石に絡んだら、その隙に近づく」


「よし、準備はできたな」


 ソウマは腰のナイフを軽く叩き、草原の南側へ視線を向けた。


「行こうか」


「うん」


 昨日よりも少しだけ落ち着いた気持ちで、私たちは草原へ足を踏み入れた。


 草原の南側は、北側よりも草が高く、湿った空気が漂っていた。

 虫の鳴き声が多く、足元には小さな穴がいくつもある。


「この辺りに出るらしいな」


 ソウマが周囲を見渡す。


 私は杖を握りしめ、足元に注意を向けた。


 ――糸を吐く魔物。

 ――動きを止められたら危険。


 胸の奥が静かにざわつく。


 その時――


 ズルッ……ズルッ……


 湿った地面を這うような音が聞こえた。


「……来た」


 草むらが揺れ、丸い体の幼虫型の魔物が姿を現した。

 体長は私が両手を広げたぐらい。

 短い脚が多数あり、体をくねらせながらこちらへ向かってくる。


 スモールキャタピラーだ。


「ノエル、距離を取って」


「うん」


 私は後退しながら杖を構える。


 スモールキャタピラーはゆっくりと近づいてくるが、その動きには妙な“狙い”があった。


「糸に気をつけろよ」


 ソウマがナイフを構えた瞬間――


 ビュッ!


 白い糸が一直線に吐き出された。


「来た!」


「ノエル、石!」


「分かった!」


 私はあらかじめ袋から取り出していた石を、糸の軌道へ向かって投げた。


 ビチャ!石に糸が絡みつき、白い束が石を包み込む。


「よし、ナイス!」


 スモールキャタピラーは糸を吐いた直後で、体をくねらせながら次の糸を準備しているようだった。


「今だ!」


 ソウマが一気に距離を詰める。


 私は杖を握りしめ、魔物の背中側へ回り込んだ。


 スモールキャタピラーは糸を吐いた直後で、短い脚をばたつかせながら体勢を整えようとしている。


「ソウマ、背中!」


「任せろ!」


 ソウマがナイフを振り下ろす。


 ズッ


「ノエル、もう一撃!」


 私は杖を振り上げ、魔物の背中へ力いっぱい叩きつけた。


 ゴッ


 スモールキャタピラーは体を大きく震わせ、短い脚をばたつかせながら必死に体勢を立て直そうとする。


 その瞬間――


 ビュッ!


「ノエル!糸だ!」


 魔物は背中を攻撃されているにもかかわらず、反射的に口を開き、白い糸を勢いよく吐き出した。


 狙いは私だ。


 糸は一直線に伸び、草を切り裂きながら迫ってくる。


「ノエル、避けろ!」


 ソウマの声が飛ぶ。


 私は横へ跳び、糸は空を切る。

 しかし、糸は大きく広がり勢いを失わず、私の腕に向かってくる。


 ――避けただけじゃダメ。

 ――石で絡め取らないと。


 私は腰の袋のまま、迫ってくる糸へ向かって投げた。


 ビチャ!袋に糸が絡みつき、白い束が包み込むように巻きついた。


「よし、躱せた!」


 ソウマがすぐに距離を詰める。


 スモールキャタピラーは糸を吐いた直後で、体をくねらせながら次の糸を準備しているようだった。


 短い脚がばたつき、体の動きが一瞬だけ鈍る。


「今だ!」


 ソウマが背中側へ回り込み、ナイフを構え直す。


 私も杖を握りしめ、魔物の背中へ踏み込んだ。


「いくよ!」


「合わせる!」


 ソウマがナイフを振り下ろす。


 ズッ


 刃が背中に深く刺さり、魔物が大きく痙攣する。


 私は続けて杖を叩きつけた。


 ゴッ


 スモールキャタピラーは体を大きく震わせ、短い脚が数度痙攣し――やがて動かなくなった。


 草原に静寂が戻る。


「……倒した」


 ソウマが息を整えながらナイフを引き抜いた。


 私は杖を握りしめたまま、しばらく動けなかった。


 ――糸をもう一度吐かれたら危険だった。

 ――知識がなかったら、確実に捕まっていた。


 胸の奥の緊張がゆっくりとほどけていく。


「ノエル、よく袋を投げれたな。あれがなかったら危なかったね」


「……うん。もし資料室で読んでなかったら……避けるだけだと捕まっていたかも」


 ソウマは穏やかに頷いた。


「知識って大事だよな。今日みたいに、事前に知っていれば危険を減らせる」


 私は深く息を吐き、杖を握り直した。


「……討伐完了だね」


「うん。ギルドに戻ろう」


 私たちは魔物の死体を担ぎ上げて草原を歩き始めた。


 スモールキャタピラーは幼虫型の魔物とはいえ、体長は大型犬ほどあり、見た目以上に重い。


 私は杖を片手に、もう片方の手で魔物の脚を支えながら歩く。


 草原の風は心地よいはずなのに、肩にかかる重さがじわじわと体力を奪っていく。


 それでも――


 私は自分の足が昨日より少しだけ軽くなっていることに気づいた。


 ――討伐は怖い。

 ――でも、知識があれば落ち着いて動ける。


 胸の奥に静かに広がる実感が、足取りを支えてくれていた。


 だが、数分歩いたところでソウマが苦笑した。


「……ノエル、これ思ったより重いな」


「うん……幼虫型だから軽いと思ってたけど、全然そんなことないね」


 スモールキャタピラーの体は水分を多く含んでいるのか、持ち上げるたびにずしりと重さが腕にのしかかる。


 ソウマは肩に担ぎ直しながら、少し息を吐いた。


「討伐系を続けるなら……荷台、考えた方がいいかもしれないな」


「荷台……」


 私は歩きながら周囲の冒険者の姿を思い返した。


 討伐帰りの冒険者の中には、木製の簡易荷台を引いている人が何人もいた。


「確かに、荷台があれば楽だよね。魔物を担いで歩くのは……正直、かなり疲れるし」


「うん。俺はまだ持てるけど、ノエルに負担をかけたくないしな。荷台なら魔物を乗せて引くだけで済むし、討伐が増えるなら必要になると思う」


 ソウマの声は柔らかく、押しつけがましくない。

 ただ現実的な判断をしているだけの、落ち着いた調子だった。


 私は魔物の重さでしびれ始めた腕を少し振りながら頷いた。


「……そうだね。荷台、買うことを考えよう。討伐報酬が銀貨六枚なら、今度から少しずつパーティ貯金をしない?報酬の3割をパーティ貯金にして残りを分けるとか?」


「そうだね!これからも色々な物が必要になるしそうしようか!とりあえず荷台がいくらするかギルドの近くに道具屋があったよな。帰ったら値段を聞いてみよう」


 ソウマは魔物を担ぎ直し、歩調を整えた。


「討伐は慣れればもっと安全にできる。でも、こういう“運搬の負担”も考えないといけないんだな」


「うん……戦うだけじゃなくて、終わった後のことも大事だね」


 草原の出口が見えてくる頃には、腕の疲労がじわじわと肩まで広がっていた。

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