第4話 星空
「直人、起きろ」
肩を揺すられ、直人はゆっくりと目を開けた。
薄暗い客室の中で、相希がベッドの脇に立っていた。
「……何時?」
「お前が星を見に行くって言った時間」
直人は眠そうに目をこすりながら、枕元のスマートフォンへ手を伸ばした。
「ちゃんと起こしてくれたんだな」
「起こせって言ったのはお前だろ」
「いや、絶対お前も寝てると思ってた」
「人を巻き込んでおいて、自分だけ寝過ごすなよ」
相希が呆れたように言うと、直人は小さく笑いながら身体を起こした。
「悪い悪い。じゃあ行くか」
「本当に行くんだな」
「ここまで起こしておいて、それ言う?」
二人は上着を羽織ると、静まり返った客室を出た。
廊下にはほとんど人の姿もなく、聞こえるのは船の低い駆動音だけだった。
二人は足音を抑えながら通路を進み、甲板へ続く扉を開けた。
冷たい風が一気に吹き込み、直人は思わず肩をすくめた。
「寒っ」
「だから上着を持ってこいって言っただろ」
「持ってきてるじゃん」
直人はそう返しながら、甲板へ出た。
そこには、同じように星を見に来たらしい乗客が、ちらほらと立っていた。
ただ、その数は多くない。
離れた場所で静かに空を見上げる人や、写真を撮る人の姿がある程度だった。
頭上には、街では見ることのできないほど多くの星が広がっていた。
海と空の境目は暗闇に溶け、まるで船だけが夜の中を進んでいるようだった。
「すごいな」
直人は手すりの近くまで歩き、空を見上げた。
「これは起きて正解だっただろ?」
相希も隣に立ち、しばらく黙ったまま夜空を眺めた。
「ああ。まあ、悪くないな」
「素直じゃないな」
「お前が調子に乗るからだよ」
二人は小さく笑い、そのまましばらく星を眺めていた。
やがて、相希がスマートフォンで時間を確認した。
「俺はそろそろ戻るぞ」
「もう?」
「明日の朝も早いんだから、少しでも寝ておきたい」
直人は名残惜しそうに、もう一度空を見上げた。
「じゃあ、先に戻ってて。俺もすぐ行く」
「長居するなよ」
「分かってるって」
相希は直人へ軽く手を上げると、甲板を離れて客室へ戻っていった。
直人はその背中を見送ったあと、再び手すりへ身体を預けた。
夜空には、数え切れないほどの星が静かに瞬いていた。
数分後、直人も手すりから身体を離れた。
甲板にはまだ何人か残っていたが、先ほどよりも人影は少なくなっていた。
冷えた手をポケットに入れながら、直人は船内へ戻る。
扉が閉まると、強い風の音が途切れ、代わりに船の低い振動が足元から伝わってきた。
静かな通路を客室へ向かって歩いていると、どこか遠くで、鈍い音が響いた。
直人は足を止めた。
「……何だ?」
次の瞬間、船体が大きく横へ揺れた。
壁に肩をぶつけながら、直人はとっさに手すりをつかんだ。
通路の奥から、何かが倒れる音と、乗客の悲鳴が重なって聞こえた。




