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はじまりの岸  作者: インフィ
集団生活編

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第33話 生まれた時間



獣を食べた翌日から、拠点には新しい仕事が増えた。


細く切り分けた肉は、風通しのよい場所へ吊るされた。骨は何度も鍋で煮込まれ、皮は水で洗われてから、戸田が内側に残った脂を削っている。腱も捨てずに束ねられ、使い道が決まるまで火のそばで乾かされた。

一頭の獣は、腹を満たしたあとも、形を変えながら人々の暮らしに残り続けた。


結衣の体調も、日を追うごとに良くなった。

初めのうちは寝床から身体を起こすだけでも息を切らしていたが、数日が過ぎると、自分で食事の場まで歩いてくるようになった。

さらに何日か経った朝には、水を入れた容器へ手を伸ばし、紗良に止められた。



「まだ私が持つよ」


「もう平気。これくらい持てるから」


「平気な人は、そんなに意地にならないの」


「ずっと寝てる方が疲れるんだって」



結衣は紗良から容器を取り返し、そのまま歩いていった。

途中で一度だけ立ち止まり、誰にも見えないように小さく息を整える。


紗良は気づいていたが、追いかけなかった。

完全に元へ戻ったわけではない。それでも結衣は、守られるだけの場所から、自分の足で普段の生活へ戻ろうとしていた。


肉の保存作業にも、何人かが加わった。

切った肉を紐へ結び、枝と枝の間へ渡していく。一人の男が作った結び目は、手を離すと肉の重みで緩んだ。



「そこ、反対から巻いた方がいいよ」



近くにいた女性が、男の手から紐を受け取った。

一度ほどいてから、ゆっくりと巻き直して見せる。



「最後にここを引けば、落ちないから」


「……こうか?」


「そう。それで大丈夫」



女性は笑うと、次の肉を取りに戻った。

男は結び直された紐へ触れ、同じ形を確かめるように指を動かした。


夜の空気も、少しずつ変わった。

以前なら、食事が終わると誰もが早々に寝床へ戻った。空腹を紛らわせるように眠り、一日を少しでも早く終わらせていた。


今は器が空になっても、人が火のそばに残った。



「戻れたら、最初に何食べる?」


「焼き肉」



高瀬が即答すると、三浦が呆れた顔をした。



「今も肉を食べてるでしょう」


「全然違う。白い飯がある」


「俺はラーメンだな」



戸田が言うと、黒田が笑った。



「もっとまともなものを選べよ」


「黒田さんは?」


「ビール」


「食べ物じゃないじゃん」



笑い声が火を囲んだ。

腹が満たされているだけで、食べられない物の記憶さえ、苦痛ではなくなるらしい。


話はやがて、獣を捕らえた日のことへ移った。

高瀬が斜面で足を滑らせかけた話。戸田が道具を抱えたまま木の根につまずいた話。相希の指示が細かすぎて、動く前に日が暮れるかと思ったという話。

その場にいた者同士では、最後まで説明しなくても通じた。

短い言葉だけで、直人、相希、黒田、高瀬、戸田は同じ光景を思い出して笑った。


直人が獣へ刃を入れた瞬間だけは、誰も口にしなかった。



「もう、その五人だけでなんとかなるんじゃないか?」



輪の外にいた一人が、冗談めかして言った。

昼間、女性に紐の結び方を教わっていた男とは別の男だった。

火のそばに笑いが起きる。



「無理無理」



直人は手を振った。



「俺たちだけだったら、肉を焼いて終わりだよ。保存もできないし、味もつかない。寝床だって、雨が降ったら全部びしょ濡れだ」


「直人は味つけしても分からなそうだけどね」



紗良が言う。



「分かるよ。塩があるかないかくらいは」


「塩なんてないけど」


「そういう話じゃないだろ」



再び笑いが広がった。

最初に言葉を投げた男も笑っていた。

そのあと、ほんの一瞬だけ視線を落としたことに気づいたのは、紗良だけだった。

火の向こうでは、昼間に紐の結び方を教えていた女性が、黒田の器を見ていた。


残っていた肉を一切れ取り、そっと足す。



「今日はあまり食べてないでしょ」


「君こそ、自分の分はいいのか」


「私はもう十分だから」



黒田は何か言いかけたが、結局その肉を口へ運んだ。

二人のやり取りに気づいた者は少なかった。


紗良は一度だけ二人を見て、何も言わずに視線を戻した。

少し離れたところでは、女性に紐の結び方を教わっていた男が、その様子を見ていた。

女性が黒田の前から離れたあとも、その視線はしばらく空になった器へ向けられていた。


森では、新しい罠を仕掛ける場所探しが始まっていた。

前の罠があった場所を、そのまま使うことはできない。

獣が暴れた跡が残り、血の匂いが地面へ染みついている。人も何度も行き来し、枝を折り、周囲を踏み荒らした。


そこへ別の獣がすぐ近づくとは考えにくかった。

また最初から、獣の通り道を探さなければならない。

高瀬が足跡や糞、土を掘り返した跡を見つけ、相希が進行方向を確かめる。戸田は罠を固定できる木があるか、周囲を調べて回った。

獣の痕跡が濃い場所を見つけても、都合よく木が立っているとは限らない。



「ここは駄目だな」



戸田が細い木を押すと、幹は簡単にしなった。



「これじゃ、掛かった瞬間に持っていかれる」



別の場所には、十分な太さの木があった。

しかし足跡はその手前から斜面へ逸れ、獣が木のそばを通るとは思えなかった。



「道はいいのに、木がない」



高瀬がこぼした。



「木がある場所には、獣が来ない」



直人が言うと、相希は地面を見たまま答えた。



「自然が、俺たちの都合に合わせる理由はない」



候補地を見つけても、すぐに罠を置けるわけではなかった。

獲物の大きさを想定して縄の長さを変える。地面の傾きに合わせて作動部分を調整し、どこを踏ませるかも考え直す。

一度組んでは外し、別の木へ移して、また試した。


その間にも、吊るされた肉は少しずつ減っていった。

森から戻るたび、誰かが声を掛ける。



「罠、できた?」



最初のうちは、直人が説明した。



「まだ場所を探してる」



別の日には、高瀬が答えた。



「良さそうな道はあった。でも、仕掛けられる木がない」



さらに何日か経つと、戸田が首を振った。



「形にはなったけど、あれじゃ軽すぎる。調整が必要だ」



聞いた者たちは、納得したようにうなずいた。

誰も彼らを責めなかった。

それでも、表情には小さな落胆が残った。


火の上では、獣の骨から取った汁が湯気を上げていた。

吊るされた肉も、まだなくなってはいない。

それなのに人々の目は、まだ完成していない罠の向こうに、もう次の獲物を探し始めていた。


翌朝、森へ入る者は、これまでより一人増えた。

直人たちが出発の支度をしていると、昨夜「五人だけで何とかなる」と口にした男が、少し離れた場所から様子を見ていた。

肩には短く切った縄が掛かり、手には先端を削った枝が握られている。



「俺も行っていいか」



その言葉に、高瀬が顔を上げた。



「森へ?」


「場所を探すだけなら、人が多い方が早いだろ」



高瀬はすぐに答えず、相希を見た。

相希は男の靴代わりに巻かれた布と、持っている道具を順に確認する。



「人数が増えれば、探せる範囲は広がる。ただ、同じ場所を歩けば痕跡を消す可能性もある」



男の顔がわずかに曇った。



「邪魔になるってことか」


「そういう意味じゃない」



相希は淡々と続けた。



「同じ場所を全員で歩く必要はない。痕跡を見つけたら、近づく前に声を掛けてほしい」



直人が笑って、男の肩を軽く叩いた。



「じゃあ一緒に行こう。俺も最初は、足跡なんか全然分からなかったから」


「今も大して分かってないだろ」



高瀬が言う。



「そういうこと言うなよ。せっかく先輩ぶろうとしたのに」



男は小さく笑った。

その表情には、昨夜よりもいくらか力が戻っていた。


森へ入ると、自然と足音が減った。

拠点の近くでは言葉の多い直人も、ここでは必要な時にしか声を出さない。


高瀬が先を歩き、その後ろを男がついていく。直人と黒田が少し間を空けて続き、相希と戸田は周囲の木の太さや地面の傾きを見ながら進んだ。

最初に男が見つけたのは、ぬかるんだ土に残った窪みだった。



「これ、足跡じゃないか?」



男がしゃがみ込もうとしたところで、高瀬が手を伸ばした。



「待て。踏むな」



男は慌てて足を止める。

高瀬は横から回り込み、窪みの縁へ指を近づけた。



「古いな」


「なんで分かる?」


「輪郭が崩れてる。昨日の雨より前だ」


「でも、獣が通ったのは確かなんだろ?」


「多分な」



多分。

その答えに、男は少し不満そうな顔をした。

高瀬が何かを見つけるたび、断言するわけではない。


新しいように見える。

この方向へ進んだ可能性がある。

同じ獣かもしれない。


そんな曖昧な言葉が続く。


直人も初めて森を歩いた頃は、それがもどかしかった。

相希のように、見たものから明確な結論が出ると思っていた。

しかし今は、曖昧なまま進むしかないことも少し分かる。



「森って、正解出してくれないんだよな」



直人が口にすると、高瀬が振り返った。



「今さらかよ」


「いや、なんとなく分かってたけど、改めて」


「人間が勝手に正解を欲しがってるだけだ」



相希が後ろから言った。



「今日通った跡か、三日前に通った跡か。それが分からなくても、ここに何かがいるという情報にはなる」



男は相希の話を聞きながら、もう一度窪みを見た。



「じゃあ、この辺りに罠を作ればいいんじゃないか?」


「それができれば苦労しない」



戸田が近くの木を叩いた。

どれも腕ほどの太さしかない。

少し離れたところに太い木はあったが、地面は急に落ち込み、獣が好んで通るようには見えなかった。



「道と木が近ければいいってわけでもないんだな」



男が言う。



「やってみないと分からないことばかりだよ」



直人が答えると、男は息を吐いた。



「もっと簡単だと思ってた」



誰も責めなかった。

拠点から見ていれば、罠は縄と木を組み合わせた道具に見える。

一度獣を捕らえたのだから、同じものをもう一つ作ればいいと思うのも無理はなかった。

だが、同じ木も、同じ斜面も、同じ獣道も、森の中には二つとしてなかった。


その日は、最後まで設置できる場所を見つけられなかった。

それでも帰り道、男は見つけた窪みのことを何度も話した。



「古くても、何かが通ったんだよな」


「そうだな」


「明日は、もう少し奥を見てみてもいいか?」



高瀬は少し考えてからうなずいた。



「勝手に先へ行かなければな」



その短い返事だけで、男は満足そうに笑った。

拠点では、森へ出た者の分まで仕事が残っていた。

三浦は鍋の前で、煮出した骨を木の棒で押していた。もう何度目か分からない骨からは、最初ほど濃い汁は出ない。

結衣はその横で、干していた肉の向きを変えていた。



「それ、もう少し火から離して」



三浦に言われ、結衣は吊るした枝を持ち上げる。



「このくらい?」


「もうちょっと」


「細かいなあ」


「焦げたら食べられなくなるでしょう」


「焦げたところだけ取ればいいじゃん」


「そうやって何でも雑にするから、寝てなさいって言われるの」


「それ関係ある?」



結衣が口を尖らせる。

少し前までなら、そのやり取りの途中で疲れて座り込んでいただろう。

今は言い返しながら、最後まで枝を掛け直した。


紗良は少し離れた場所で縄を編みながら、その様子を見ていた。

結衣が戻ったことで、以前より手が空く時間が増えた。

水を運ぶ者へ付き添う必要もない。

食事のたびに、結衣がどれだけ口へ入れたか数えることもなくなった。


それでも無意識に視線が向く。

結衣が重い物を持っていないか。

息を切らしていないか。

顔色が悪くなっていないか。

自分でも、それが癖になっていることに気づいていた。



「見すぎ」



結衣が振り返らずに言った。



「見てないよ」


「見てる。背中がむずむずする」


「まだ無理してないか確認してるだけ」


「それを見てるって言うんでしょ」



結衣は振り返り、少し笑った。



「大丈夫。きつくなったら言うから」



紗良はしばらく結衣の顔を見てから、手元の縄へ視線を戻した。



「絶対だからね」


「はいはい」



その日の午後、肉を吊るす作業には、先日と同じ男女が並んでいた。

男は前よりも手際よく紐を巻き、結び目を強く引いた。



「これで合ってる?」



女性は手元を確かめる。



「うん。もう一人でできるね」


「教えてもらったからな」


「私じゃなくても、誰かが教えればできたでしょ」



女性はそう言って、別の枝へ向かった。

途中で、縄をうまく結べずに困っている別の男を見つけると、同じように隣へしゃがみ込む。



「そこ、一回ほどいた方がいいよ」



先ほどの男は、自分の結んだ紐を持ったまま、その様子を見ていた。

女性は誰に対しても同じように笑っていた。

同じように手元をのぞき込み、同じようにできたことを褒めた。


男は少しだけ眉を寄せた。

けれどすぐに、女性が自分へ言った言葉を思い返した。


もう一人でできるね。


誰にでも言う言葉かもしれない。

それでも、自分が先に教わった。

自分の方が長く話している。

そう考えると、胸に生まれた小さな引っ掛かりは消えた。


夕方近く、黒田たちが森から戻ってきた。

黒田の腕には、細い赤い線が走っていた。

枝へ引っ掛けただけの浅い傷だったが、女性はすぐに気づいた。



「それ、どうしたの?」


「大した傷じゃない」


「見せて」


「放っておけば治る」


「汚れたままだとよくないでしょ」



黒田は困ったように笑い、腕を差し出した。

女性は濡らした布で、傷の周囲についた土を拭った。

黒田は何も言わず、その手元を見ている。


二人の間に特別な言葉はなかった。

それでも、紗良には、女性がほかの者を手当てする時より少しだけ丁寧に見えた。

高瀬も横目で二人を見たが、何も言わなかった。

肉を吊るしていた男は、少し離れた場所から二人を見ていた。


女性が黒田へ触れる手。

黒田が拒まずに腕を預けている姿。

男は何も見なかったように、視線を逸らした。


翌日も、その次の日も、場所探しは続いた。

最初の日に同行した男だけでなく、別の者も一度ずつ森へ入った。

全員を連れていけば獣道を荒らす。

だから二人か三人ずつ交代で、高瀬や相希から痕跡の見方を教わった。


ある者は、踏まれた葉を見つけた。

別の者は、木の根元に付いた泥へ気づいた。

だが、それが獣によるものなのか、雨や風によるものなのか、すぐには判断できない。



「これは?」


「分からない」



相希が答える。



「分からないって、相希でも?」


「見ただけで何もかも分かるわけじゃない」


「でも、可能性はあるんだろ?」


「ある。ない可能性もある」



質問した男は、困ったように直人を見た。

直人も答えを持っているわけではなかった。



「とりあえず、覚えておこう」


「何を?」


「こういう跡があったってこと」


「それだけ?」


「それだけでも、次に同じものを見つけた時に比べられるだろ」



直人がそう言うと、男は完全には納得しないままうなずいた。

その様子を見ていた相希が、帰り道で直人へ言った。



「ずいぶん簡単にまとめたな」


「相希よりは分かりやすかっただろ」


「分かりやすくしたというより、情報を減らしたんだろ」


「最初から全部言われても覚えられないんだよ」


「それは分かる。ただ、省いた部分があることは伝えた方がいい。あれだけで判断できると思われると危ない」


「じゃあ次は、そこも言うよ」



直人は笑いながら返したが、その声にはわずかな疲れが混じった。

相希はそれ以上言わなかった。


少し先を歩いていた高瀬が、新しい足跡を見つけて二人を呼んだ。

跡は土の柔らかい場所から始まり、低い藪の間へ続いていた。

輪郭が比較的はっきりしている。



「これは新しい」



高瀬の声に、全員が集まった。

相希は藪の先を見てから、少し離れた木々へ目を向けた。


獣道は悪くない。

地面も大きく傾いてはいない。

だが、近くにある木はどれも細かった。


少し離れた場所には、二人で抱えるほど太い木が立っている。

戸田は獣道と木の間を何度か往復した。



「距離がありすぎるな」


「縄を長くすれば?」



同行していた男が言う。



「長くすれば、その分だけ力が逃げる」



戸田は地面へ枝で線を引いた。



「ここからこっちへ引くとしても、このままじゃ途中で木に擦れる。向きも悪い」


「じゃあ、ここも駄目なのか」



男の声には、はっきりと落胆があった。

高瀬は足跡を見たまま言った。



「獣がここを通ってることは分かった」


「でも罠は作れないんだろ?」


「今までと同じ形ではな」



相希が、太い木と獣道の間へ立った。

周囲を見回し、地面へ落ちていた長い枝を拾う。



「通り道を変えさせることはできるかもしれない」


「獣を誘導するのか?」



直人が聞く。



「完全に塞げば警戒する。だが、通りやすい方へ寄せる程度なら可能性はある」



相希は枝を地面へ置き、獣道の片側へ低い壁を作るように並べた。

戸田も隣へしゃがみ込む。



「木まで少し寄せられれば、縄は短くできる」


「でも、枝を置いたら気づかれないか?」


「不自然に見えないようにする」


「そんなことできるの?」



直人が聞くと、相希は顔を上げた。



「できるかは、試してみないと分からない」



その答えに、直人は少し笑った。



「相希でも、そう言うんだな」


「何がだ」


「分からないって」


「分からないものを分かると言う方が問題だ」



全員がその場でしばらく考えた。

すぐに罠を置くことはできない。

獣の通り道を変えられるか確かめる必要がある。


枝や石を少しずつ置き、数日後に再び跡を見る。

警戒して別の道へ移れば、この場所も使えない。

それでも、初めて試す価値のある場所が見つかった。


拠点へ戻ると、誰かがいつものように尋ねた。



「罠、できた?」



直人は一瞬考えてから答えた。



「まだ。でも、置けるかもしれない場所は見つかった」



その言葉に、周囲の顔が明るくなる。



「じゃあ、もうすぐ捕れる?」



別の誰かが聞いた。

直人は答えに詰まった。

場所が使えるかも分からない。

罠の形も決まっていない。

設置できても、獣が来る保証はない。



「捕れるかは、まだ分からないよ」



そう答えると、明るくなった顔が少しだけ曇った。

すぐに誰かが別の話を始め、空気は元へ戻った。

直人も笑って、その輪へ加わった。


夜が更け、人が寝床へ戻ったあと、戸田と相希は火のそばに残った。

地面には、長さの違う縄と、削り直された枝が並べられている。

以前の罠に使った形を思い出しながら、二人は何度も結び目の位置を変えた。


直人は少し離れたところで、その様子を眺めていた。

獣肉を得たことで、人々には時間が生まれた。


話す時間。

笑う時間。

新しいことを試す時間。

誰かを気に掛ける時間。

そして、まだ手に入ってもいない次のものを待つ時間。


火のそばには、前の獣を捕らえたものとは違う形の罠が、少しずつ組み上がり始めていた。



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