第2話 旅の行き先
「それで、どこに行くんだよ」
直人が尋ねると、相希はポケットからスマートフォンを取り出した。
「まずは、船で行く」
「船?」
「せっかく時間を取るんだ。移動も含めて旅にしたい」
そう言って、表示された旅程を直人の方へ向ける。
画面には、港から始まる航路と、その先に続く移動予定が並んでいた。
船を降りたあとは、電車や車を使いながら、いくつかの場所を巡るらしい。
「向こうでは普通に観光する。あとは一泊か二泊、自然の中で過ごすつもりだ」
「キャンプ?」
「そう。テントとか寝袋みたいな基本的な道具は、現地で借りられる」
「なにそれ、グランピングってこと?」
「そこまで快適じゃないよ」
相希は、直人の言葉をすぐに否定した。
「道具を借りられるだけで、設営も火起こしも料理も自分たちでやる。せっかく自然の中に行くんだから、ちゃんと堪能しないとな」
「わざわざ不便を堪能するの?」
「そういうのを楽しむのがキャンプだろ」
「いや、キャンプが嫌いなわけじゃないけどさ」
直人は、少し呆れたように笑った。
「せっかくの旅行なんだから、そこは普通にホテルでよくない?」
「そう言うと思った。だから、あえて連れていくんだよ」
相希は、再びスマートフォンの画面へ視線を戻した。
「念のため、雨具とライトは持ってこい。あと、歩く場所もあるから、靴もちゃんとしたやつな」
「とりあえず、普段どおりで大丈夫だろ」
「本当に楽観的だな」
相希は、思わず笑った。
「だって、何か足りなかったら、向こうで買えばいいじゃん」
直人が軽く言うと、相希は呆れたように首を振った。
「やっぱり、お前は変わらないな。まあ、そういうところが、お前らしいけど」
「じゃあ、日程が決まったら送ってくれ」
直人はそう言って、残っていたチューハイを飲み干した。
「もうほとんど決まってる。あとは、お前が休みを取るだけだ」
「俺は全然問題ないけど、むしろお前の方がよく一週間も空けられたな」
「忙しいことで有名な会社だけど、ブラック企業ではないからな?」
相希が笑うと、直人もつられるように笑った。
◇ ◇ ◇
数週間後。
夕方の潮風が吹くなか、直人は港のターミナル前に立っていた。
肩には、小さめのボストンバッグが一つ。
一週間の旅行にしては、明らかに荷物が少ない。
「やっぱり、それだけなんだな」
背後から声をかけられ、直人が振り返った。
相希はキャリーケースを引きながら、背中には大きなアウトドア用のリュックを背負っていた。
「何が?」
「荷物だよ。一週間行く人間の量じゃないだろ」
「着替えと財布と充電器。十分じゃん」
直人はそう言って、相希の荷物を上から下まで眺めた。
「逆にお前は持ってきすぎだろ。キャンプは一泊するだけだろ」
「一泊するから持ってきたんだよ」
「道具は向こうで借りれるんじゃなかったの?」
「全部借りられるわけじゃない。それに、借りられるからって何も持ってこなくていい理由にはならないだろ」
直人は相希の大きなリュックを見ながら、少しだけ笑った。
「お前、旅行じゃなくてサバイバルしに行くみたいだな」
「備えて損はないだろ」
相希は気にした様子もなく、リュックの肩紐を軽く直した。
「何も起きなければ、それでいい」
「起きないって。普通の旅行なんだから」
直人はそう言って、ターミナルの向こうへ目を向けた。
夕暮れの海を背に、これから二人が乗る大きな船が港に停泊していた。
船は日が沈んだ頃に出航し、目的地へ到着するのは翌朝の予定だった。
二人は時間を確認すると、他愛のない話を交わしながら、並んで船へ乗り込んでいった。




