第九話 逆転
会場の雰囲気が自分に味方し出したことに満足したのだろう、シズは得意げな表情で話し続けた。
「とにかくエマさんの金銭感覚は、問題だと思います。仮にこの国の財政状況を知らないのなら、それも問題です。私ならカイト様から、庶民の間で一般的な金の指輪をいただきます。いえ、私ならカイト様からいただけるなら、鉄の指輪でも構いませんわ」
すると会場は、盛り上がった。
「おお~! いいぞ、シズ!」
「ホントよね~。カイト様には、シズがふさわしいんじゃないかしら?」
「そうだ、そうだ!」
くっ、これはマズい。私は金銭感覚に問題がある、悪役令嬢になってしまった……。そしてふとカイト様を見てみると、腕組みをして唸っていた。後ろにいる国王も、「うーむ」と唸っているようだ。マ、マズイ! このままでは私はカイト様から、婚約破棄されてしまう! そしてあろうことかカイト様は、シズとこの場で婚約してしまうかも知れない!
私がふとシズを見てみると、してやったりという表情をしている。くっ! 負けないわ! あんな女なんかに負けないわ! あんな女なんかにカイト様を取られてたまるか! でも、どうしよう。この会場はほとんど、シズの味方になっている。そしてあろうことか国王もカイト様も、揺らいでいるようだ。マ、マズイ。これは本当にマズイ……。
くっ、どうにかしてこの会場の雰囲気を変えないと。シズはおそらく、ハッタリをかましただけだから。本当にカイト様と婚約することになったら、鉄の指輪で満足するハズがない。それを証明できれば、この会場の雰囲気を変えることができるかも知れない。でもそれには一体、どうすれば……。
と考えた私は、ひらめいた。これだ、これしかない! これでこの会場の雰囲気を変えるしかない! 私は近くにいた、お城のメイドに指示した。
「針金! 針金を持ってきて、早く!」
するとメイドは一瞬、ポカンとした表情になったが私の必死の表情を見て会場から出た。そしてすぐに、針金を持ってきてくれた。
「こ、これでよろしいでしょうかエマ様?!」
私は針金を受け取ると、頷いた。
「ええ。これでいいわ、ありがとう」
そして私は針金で、指輪を作った。よし、これでいい。これでシズの化けの皮を剥いでやるわ! 私は針金で作った指輪を、シズに突き出した。
「さあ、あなたが望んだ鉄の指輪を用意したわ! あなたはこの指輪でも、受け取れるんですよね?!」
するとシズの表情が一瞬、曇った。まさか本当に鉄の指輪を用意するとは思わなかった、という表情だ。うん、やっぱりさっきのシズの発言はハッタリだ! この勝負、もらった! だが次の瞬間、何とシズは私とカイト様に近づいてきた。そしてカイト様に、一礼した。
「もちろん私の発言に、二言はありません。もしこの指輪をカイト様からいただけるなら、私はもちろん喜んでいただきます」
とシズは、左手を差し出した。くっ。この女、そこまでやるか……。なので私は、最後の手段に出た。これでどうだ!
「あーら、シズさん。カイト様から、素敵な鉄の指輪をいただけるようで羨ましいわあ。私なんてカイト様から、ダイヤモンドの指輪しかもらえなかったから。それにこれは、歴史に残るでしょうねえ。シズさんはカイト様から、鉄の指輪をもらったと。そして私は、ダイヤモンドの指輪をもらったと。これはまいったわ~。完全にあなたの勝ちね、シズさん?」
するとシズは、鬼のような形相になった。ここで鉄の指輪をもらうことに我慢はできても、それが事実として歴史に残ることまでは我慢できないようだ。そしてシズは、言い放った。
「ふん! 誰がそんな針金でできた鉄の指輪なんてもらうもんですか! それにこんなに財政が苦しい国の王子の妃なんかになるもんですか!」
よしよし、やっと本性を現したわねシズ。なので私は、とどめを刺した。私はこの会場にいる皆に、語りだした。
「確かに今、この国の財政は苦しいです。それなのにカイト様から、ダイヤモンドの指輪をもらったことは間違いかも知れません。なので私は、これを教訓にしたいと思います。私はこれから贅沢をしないことを、ここにいる皆さんに誓います。もちろんそれは国のため、そして国民のためです」
すると、この会場は盛り上がった。
「おおおお! 素晴らしい宣言だ、エマよ! やはりカイト様と婚約して妃になるのは、お前しかいない!」
「ええ、ええ。ホントよねえ」
「それに比べてシズは、ただのウソつきだ!」
とこの会場の雰囲気は一転して、私の味方になった。それに耐えられなかったシズは、顔を真っ赤にすると振り返ってこの会場から出て行った。それを見届けた私は、心底ホッとした。あ、危なかった。危なく私はカイト様に、婚約破棄されるところだった。でも所詮は、若さだけが取り柄の小娘の浅知恵ね。ざまあ見なさい! 三一年間独身の女の、酸いも甘いも嚙み分けた人生経験をナメるな!
と私がシズとの対決に勝ってホッとしていると、突然カイト様は強く私を抱きしめた。
「申し訳ありません、エマさん」
「え? カイト様?……」




