第五話 前夜
それから私は、どうすれば明日の婚約披露パーティーでシズに勝てるか考えた。うーん、どうしたモノか。と考えていると、ひらめいた。そうだ、情報収集だ! シズに関する、情報を集めるんだ! 特にシズの、弱点を! シズはこの町の二番目の貴族の令嬢で有名だから、町人に聞けば何か情報が手に入るはず。よし、これだわ! 早速、シズの弱点を探るわ!
私はそう決意してこの屋敷から出ようとしたが、ふと考えた。このまま私が町中で、シズのことを探るのはマズい。私はこの町で一番の貴族の令嬢だから、当然私のことは町人の皆が知っている。その私がコソコソとシズのことを探るのは、マズイ。なので私は考えた。どうにかして私が、エマだとバレないようにしなくては。うーん、どうしたらいいかしら?……。と考えると、ひらめいた。そうだ、変装をすればいいんだ! なので私は白いほっかむりをして、屋敷を出た。うん。これで私がエマだということは、バレないでしょう。オッケー、オッケー。
そして私は町中で、シズについて町人に聞きまくった。でも聞こえてきたのは、シズが素晴らしい令嬢だと言う話だけだった。
「シズ様は、素敵な女性よ。貴族の令嬢なのに私たち町人とも、気軽に話をしますし」
「いいね~、シズ様は~。この町で一番の美人なのに、ちっとも気取ったところがないんだ」
「私はシズ様が、カイト様と婚約すれば良いと思ってるのよ~。あ、この話、エマ様には言わないでね」
くっ。シズに関する悪い話を聞いて、シズの弱点を見つけようと思ったのに全然見つからなかった。それどころか私ではなくシズがカイト様と婚約すれば良いという話まで聞いて、私のメンタルはベコベコにへこんだ。なので私は、もう自分の屋敷に帰ることにした。これ以上ここにいても、シズの弱点は分からないからだ。
自分の部屋のベットに倒れこんだ私は、考えた。このままでは、マズイような気がする。もしかすると明日の婚約披露パーティーで、カイト様が心変わりをしてシズと婚約してしまうのではないか? そうすると当然、私との婚約は破棄。私は、一人ぼっちになってしまう。いや。それどころか私はカイト様に婚約破棄された女と言う、重い十字架を一生背負わなければならない。
町中を歩けば町人たちはひそひそ話をし、子供たちは私を指差して笑って、カラスは私にフンを落とすだろう。い、嫌だー! そんなみじめな生活には耐えられないー! するとドアがノックされ、メイドの声がした。
「エマ様。カイト様が、お見えになりました」
それを聞いた私のテンションは、爆上がりした。え? カ、カイト様がいらっしゃった?! こ、これはチャンスだ! このベコベコにへこんだ私のメンタルを、癒してもらおう! 自分の部屋を出るとそこには、メイドとカイト様がいた。私はワザと、カイト様によりかかった。するとカイト様の、心配そうな声が聞こえた。
「ど、どうしましたエマさん?! だ、大丈夫ですか?!」
なので私はワザと、元気がない声を出した。
「も、申し訳ありませんカイト様。私は実は、少し不安になってしまったのです……」
「え? 不安とは?」
「はい。貴族令嬢のシズさんは、素敵な女性です。なのでもしかしたらカイト様が、シズさんに心変わりしてしまうんじゃないかと考えてしまって……」
するとカイト様は、優しい声で答えた。
「ははっ、心配ありませんよ。確かにシズさんは素敵な女性ですが、エマさんはその何倍も素敵な女性なので」
「ほ、本当でしょうか?……」
と私は顔を上げて、カイト様を見つめた。その時目に力を入れて、目を無理やりウルウルさせた。このウルウル攻撃が効いたのか、カイト様は優しく私の頭をなでてくれた。
「大丈夫ですよ、エマさん。あなたは誰よりも、素敵な女性です。自信を持ってください……」
それを聞いた私は、心の中でガッツポーズをした。よっしゃー! 私は誰よりも素敵な女性という、言質を取ったわー! しかも頭をなでなでされてるー! ラッキースケベならぬ、ラッキーなでなで! しかもカイト様から、良い匂いがした。多分、香水だろう。でも、良い匂いだなー。と私が極楽気分でいると、カイト様は話し出した。
「実は今エマさんに会いにきたのは、見せたいモノがあるからです」
「見せたいモノ? 何でしょうか?」
するとカイト様は、小箱を取り出した。ま、まさかこれって?……。カイト様が小箱を開けると、やはり中にはダイヤモンドの指輪が入っていた。そしてカイト様は、優しく告げた。
「これが私がエマさんに送る、指輪です。エマさんの要望通り、ダイヤモンドの指輪です。宝石店に作らせていたんですが、先ほどできました。明日の婚約披露パーティーに、間に合って良かったです。なので明日これを、受け取っていただけますか? そうすれば私たちの婚約は、完全なモノになるので」
それを聞いた私の目は、自然にウルんだ。何てきれいな指輪。あれ? でも私、カイト様にダイヤモンドの指輪が欲しいなんて要望したっけ? あ。きっと、ゲームの設定でそうなっているのね。とにかくこれを私が、愛するカイト様からもらえるなんて。そして私たちの婚約が、完全なモノになるなんて……。なので私は、何度も頷いた。
「ええ、ええ、カイト様。私はこの指輪を明日、喜んでいただきます……」
するとカイト様は、ホッとした表情になった。
「そうですか、良かったです。それでは明日の朝、私が迎えにくるので今夜はゆっくりとお休みください。それでは」
とカイト様は小箱を持って、この場から離れて行った。その後ろ姿を見て、私は決心した。よっしゃー! 明日はやったるでー! この国で一番の美人のシズがなんぼのモンじゃい! あの指輪とカイト様は、この私が必ずゲットしたるわい!




