第三話 眼福
と自称守護女神に怒りを覚えた私だが、冷静に考えてみた。とにかく私は乙女ゲーム『誰でもプリンセス』の、悪役令嬢のエマに転職してしまった。転職と言うことは、ずっとこの世界にいる訳ではないだろう。何かの条件を満たせば、元の世界に帰れるだろう。その条件は、あの自称守護女神から聞き出すしかない。なので私は食堂を出ると、この屋敷の中で自称守護女神を探しまくった。だが、見つからなかった。お、おのれ。あの自称守護女神め……。
すると私は、自称守護女神の言葉を思い出した。私が元の世界に満足していないようだから、転職させると。つまり私がこの乙女ゲームの中で満足すれば、元の世界に戻れるのでは?! うん、きっとそうだ。そしてこの世界で満足するには……。うん、やっぱりアレしかないだろう。私が明日の婚約披露パーティーで女性キャラと対決して勝って、第一王子のカイト様を奪われないことだ! うん、きっとそうだ! そうすれば元の世界に戻れるはずだ! よし、がんばるぞー!
と私は何をするべきかハッキリしたので、心に余裕ができた。するとこの屋敷に、庭があることにも気づけた。なのでちょっと、庭に出てみた。すると赤、黄、白色などのバラが咲いていた。ちょっと香りをかいでみると、甘い香りがした。ふーん。ここはゲームの中なのに、ちゃんと花の香りも嗅げるんだ。そう言えばお腹も空いたし、そして朝食を食べたらお腹がいっぱいになった。朝食の味も、ちゃんとした。うーん。ゲームの中なのに、不思議だ……。
と私が考え込んでいると、ふと名前を呼ばれた。振り返ってみると黒い衣装を着たメイドと、何とカイト様が立っていた! メイドは、冷静に告げた。
「エマ様。午前十時なので、お茶の時間です。そして本日も、カイト第一王子がお見えになっています」
そう告げるとメイドは一礼して、この庭から離れた。その代わりに、カイト様が近づいてきた! スタイルはスラリとして身長が高く、紺色の正装だ。そして髪は黒で、軽くパーマがかかっている。目は切れ長で涼し気で、どう見てもイケメンだ! なので私はそんなカイト様を、ガン見した。うーん、眼福、眼福。目の保養、目の保養。私はちょっと近眼だが、何だか目が良くなった気がする!
と私がカイト様をガン見していると、カイト様は爽やかに微笑みながら私の隣に立った。そして赤いバラを一輪ちぎり取って、私に差し出した。私がそのバラを受け取ろうとすると、しかしカイト様はそのバラを引っ込めた。
「エマさん。あなたにこのバラを差し上げようと思いましたが、止めました。あなたの美しさの前ではこのバラもかすんでしまうので、憐れに思えたからです……」
その言葉に、私は舞い上がった。え、何ここ? ホストクラブなの? カイト様は実は、ナンバーワンのホストなの? 何、ドンペリ? ドンペリを入れればいいの?! と私がドンペリを入れるために黒服を探していると、カイト様は私の右手を取った。
「さあ。それではいつものように二人きりで、紅茶を楽しみましょう」
「は、はい……」
と私とカイト様は、この屋敷の客室に向かった。丸くて白いテーブルを挟んで座ると、メイドが紅茶をカップに注ぎにやってきた。だがメイドは誤って、私の黄色のドレスに紅茶をこぼしてしまった。私はハンカチを出して紅茶を拭きながら、恐縮しているメイドに告げた。
「あ、いいの、いいの。紅茶は私が拭くから。それよりもあなたは、紅茶をカップに注ぎなおして」
「は、はい! すみません!」
するとメイドは紅茶を入れて深く頭を下げて、この客室から出て行った。なので私はカイト様に、紅茶を勧めた。
「さあ、カイト様。冷めないうちに、紅茶をいただきましょう」
だがカイト様は、私の右手を握って私をジッと見つめた。そして、告げた。
「ああ、エマさん。あなたは、確かに美しい。でもミスをしたメイドにまで気を遣う、心配りが素晴らしい。あなたは外見だけでなく、心も美しい。だから私はあなたと、婚約をしたのです……」
そしてカイト様に、右手の甲に優しくキスされた私は舞い上がった。この世界、サイコー! ここはゲームの世界みたいだけど、全然かまわない! 一生ここにいてもいいかも! と思えるほど。そして私とカイト様は、明日の婚約披露パーティーについて話し合った。お客さんにどんな料理を出すか、私はどんなドレスを着るかなど。それらの話し合いが終わるとカイト様は、この客室を出て行った。
「それでは明日の婚約披露パーティーを、楽しみにしています。それでは」と言い残して。カイト様を見送った私は、決心した。明日の婚約披露パーティーを、絶対に成功させてやると!
と私が意気込んでいると、再びメイドが現れた。
「紅茶を下げさせていただきます、エマ様。そしてこれからのお勉強も、がんばってください」
は? お勉強? 何それ? と疑問に思った私は、メイドに聞いてみた。
「あ、あの。お勉強って、何? 何を勉強するの?」
「はい。このカヒリ国の歴史や、現在の政治状況などです。カイト第一王子とご結婚されて妃になられるのなら、そういう教養も身に着けていただく必要があるので」
う、そういうことか。だが確かにカイト様の妃になるのなら、そういう教養も必要だろう。ゲームの世界にまできて勉強するのはハッキリ言って嫌だけど、この試練、乗り越えて見せるわ! 私とカイト様の愛の力で! オーホッホッホッホッ!




