第二話 自称守護女神
まだ梅雨が明けていない、六月二五日。私は仕事が終わって会社から自分のマンションの部屋に戻ると、取りあえずソファに寝ころんだ。やはり、疲れていたからだ。そうして休んでいると、お腹が空いていることに気づいた。それじゃあ何か作って食べようかなと考えたが、止めた。その前に、ちょっとテンションを上げて元気を出したかった。
今、私のテンションを上げるモノといえば音楽と乙女ゲームだった。まずスマホで9Lanaの『TURN OVER』を聴いてから乙女ゲーム、『誰でもプリンセス』にログインした。私は今まで貴族の令嬢、友好国の王女、敵対国の王女でハッピーエンドを迎えた。つまりゲームキャラのカイト第一王子と、婚約した。
さて次は、どのキャラを選ぼうかな。うーん、よし。次はお城のメイドの、オルコにしよう。メイドなのに第一王子と婚約できる可能性があるって、このゲームは夢があるなあ。そう思いながら私は、ゲームを始めた。すると私の目の前に、三センチくらいの光の玉が現れた。それはふわふわと浮いていたが、何とそれから声がした!
「あ! いたいた! ラッキー! 見つけた!」
は? 光の玉がしゃべった? 私はポカンとしていたが、光の玉は話し続けた。
「いやー、良かった良かった。これで何とか今月のノルマも達成できそうだよー。達成できなきゃ、また上司に怒られるからねー」
は? ノルマ? 訳が分からなさすぎるので、私は恐る恐る聞いてみた。
「あのー。取りあえずあなたは一体、誰ですか?」
「あー、ごめんごめん。これで今月のノルマが達成できると思ったらテンションが上がっちゃって、私だけしゃべっちゃったー。えー、こほん。実は私は、この地球の守護女神の一人でーす!」
は? 守護女神? ますます訳が分からない。でも自称守護女神は、そんな私を無視して話し続けた。
「で、私の仕事はこの地球に住んでいる人々を満足させることなんだよねー」
「は、はあ……」
「で、お姉さん。お姉さんはどう見ても、今の状況に満足してないよねー。もう今の仕事に、疲れたっていう顔してるもん」
「は、はあ……」
「だからね、私がお姉さんが満足する仕事に就かせてあげるよー」
は? 私が満足する仕事に? つまりこの自称守護女神は、私を転職させてくれるの? 一体、何に?
と私が疑問に思っていると、光の玉の光は大きくなって私を包み込んだ。
「お姉さんがしたい仕事は、お姉さんを見てれば分かるよー。さあ、お姉さん! 存分に好きな仕事で満足してねー。それが私の仕事だからー」
そして気が付くと私は、乙女ゲーム『誰でもプリンセス』の悪役令嬢のエマになっていた。はあ、何てことだ……。と落ち込んでいると、この部屋のドアがノックされて声がした。
「エマ様、お目覚めでしょうか? 朝食の支度ができております」
そう言ったのは、おそらくメイドだろう。はあ、朝食か。そして私は、お腹が空いていることに気づいた。そう言えば昨日の夜から、何も食べてない。でも今は悪役令嬢のエマに転職したショックで、朝食を食べれるとは思えない。でも私は、食堂に行くことにした。ただこの部屋にいても、仕方が無いと思ったからだ。
そして食堂に行き自分の席に着いた私は、目の前の朝食をがっついていた。うま! このパン、外はカリっと中はモッチリでうま! このコーンスープも、トウモロコシの風味が豊かでうま! ウィンナーは噛むと肉汁があふれて、うま! 目玉焼きは黄身にコクがあってうま! 気づくと私は朝食を全て、平らげていた。いやー、美味しかった。やっぱり食事は、生きていく上で基本よね。お腹が空いてたら、元気も出ないもんね。
とそこで私は、気付いた。だああああ! お腹はいっぱいになったけど、問題は何一つ解決していない! 私は悪役令嬢のエマに転職してしまって、これからどうすればいいのかという問題が一切解決していない! と私が落ち込んでいると、目の前に座っている男女が話しかけてきた。男性は丸顔でたれ目で、いかにも人が良さそうだ。女性は目は丸い印象で、上品そうな顔立ちをしていた。
「はっはっはっはっ、エマよ。今朝はまた、良い食べっぷりだなあ」
「そうねえ。でも、食事は大事よ。しっかり食べて体力をつけて、明日のカイト第一王子との婚約披露パーティーに出席しなさい」
私はそれを聞いて、だいたい理解した。なるほど。明日は私とカイト様の、婚約披露パーティーなのか。すると今日はその、前日か。なるほど、なるほど。すると私は、とんでもないことに気づいた。マ、マズイ! 婚約披露パーティーはマズイ! なぜなら悪役令嬢のエマはそこで、自分の方がカイト様の婚約者にふさわしいと言うゲームのキャラと対決するからだ。
そしてその対決に負ければエマは婚約破棄、国外追放、そして最悪は死刑が決定するからだ。マ、マズイ。これは何とかしないと。でも一体、どうやって?! おのれー! こうなったのも全て、昨夜私の部屋に現れたあの自称守護女神のせいだ! どうせ転職させるなら、最終的にカイト様と婚約するキャラに転職させてほしかった。なのに何でよりにもよって、悪役令嬢のエマに転職させるのよー!




