第十七話 グラングラン
すると馬車はガタゴトと、石畳を走り出した。ふと馬車の中から外を見てみると、いつの間にか美しい夕焼けが見えた。ああ、もうこんな時間か。明日は私とカイトの婚約披露パーティーだから、そろそろ帰った方が良いだろう。でも私は、帰れなかった。エカデと、もっと一緒にいたいと思ってしまったからだ。
私とエカデの出会いは、最悪だった。いきなり壁ドンはするし、キスはするし。でもそんな俺様系のエカデに、私の心は揺れた。今まで、こんな男に会ったことが無かったからだ。でもその後私は、カイト様と会った。そしてカイト様の男らしさを発見して、やはり私はカイト様と正式に婚約しようと思った。
だが、だ。だがしかし。私の心はまたしてもエカデによって、揺れている。エカデは強引なだけの男かと思ったら、そうではなかった。演劇場や宝石店では、ちゃんと私をエスコートしてくれた。そして宝石店ではペンダントを買ってもらって、爽やかな笑顔も見た。
私はエカデが、ちゃんと女性をエスコートして配慮できることを知ってしまった。エカデには強引な面もあるが、ちゃんと女性に配慮できる面もある。うーん。こういうギャップに、女性は弱い。なので再び、私の心は揺れている。カイト様とエカデ、どちらを選ぶべきだろうと。
そんなことを考えていると、馬車は止まった。やはりエカデに左手を取られて馬車から降りると、目の間には赤色の大きくて立派なレストランがあった。それを見て、私は怖気づいた。こ、こんな立派なレストランには入ったことが無い! い、一体どうすれば?……。
と私が怖気づいていると、やはりエカデにエスコートされて、私はレストランに入った。そこはやはり豪華なシャンデリアがあり、一〇以上の白くて丸いテーブルがある広くて立派なレストランだった。そうしてやはり私は怖気づいたが、やはりエカデにエスコートされて私とエカデは奥にあるテーブルに向かい合って座った。するとメニューを見ながら、エカデは聞いてきた。
「エマ様。何か苦手な食べ物はありますか?」
「い、いえ。とくにありません」
「そうですか。それでは私が料理を決めてもよろしいでしょうか?」
「は、はい。エカデ様に、お任せしますわ……」
「ありがとうございます」
そしてエカデは黒服のウェイターを呼んで、料理を注文した。するとエカデは、にこやかな表情で聞いてきた。
「いかがでしたか、エマ様? 私のエマ様に対する、婚約のお祝いは?」
そう聞かれた私は、思わず本音を答えてしまった。
「え、ええ。とても素敵なお祝いでしたわ……」
「そうですか、それは良かった。それではここで食事をして私のお祝いは最後ですので、ゆっくりと楽しみましょう」
「え、ええ……」
とエカデとそんな話をしていると、黒服のウェイターが料理を持ってきた。見たところ、フランス料理のようだ。でも、具体的に何の料理かは分からなかった。するとエカデが、説明してくれた。
「まずは季節の野菜を前菜です。食欲を刺激する効果があります」
「次は、コンソメスープです。お腹を温める効果があります」
「そして、メイン料理です。今日は、鮭のムニエルですね」
「最後はデザートの、アイスです」
そうして二人で全ての料理を食べ終えると、エカデは聞いてきた。
「どうでしたか、エマ様? 今回の料理は?」
「ええ。どれも素晴らしかったです、エカデ様」
するとエカデは、ニッコリと微笑んだ。
「そうですか、それは良かったです」
そしてエカデは会計をしてきて、私はやはりエカデにエスコートされてレストランを出て馬車に乗った。エカデが御者に私の屋敷に行くように告げると、馬車は走り出した。石畳の上を、ガタゴトと。するとエカデは、私にキスをした。だが私はそれを拒まずに、私たちは長い間キスをしていた。それが終わるとエカデは、気が強そうな目で私を見つめた。
「どうだ、エマ? 俺はちゃんとこんな風に、女性に配慮することもできるんだぜ?」
「ええ、そうね……」
そうして馬車は、私の屋敷に着いた。馬車から降りた私に、馬車の中からエカデは言い放った。
「明日の婚約披露パーティーが楽しみだぜ、エマ。お前が俺とカイトの、どちらを選ぶのか!」
そうして馬車は、私の屋敷から離れて行った。おそらく、自分の屋敷に帰るのだろう。それとも私とは別の、女のところに行くのだろうか? そんなことを考えつつ、私は屋敷に入った。そして出迎えたメイドに、告げた。
「夕食は外で食べてきたから、いらないわ。お父様とお母様に、そう伝えて」
「かしこまりました、エマ様」
そして自分の部屋に入ってベットに仰向けになると、私は考え始めた。明日の婚約披露パーティーで、私はカイト様とエカデのどちらを選ぶべきなのか。私の心は、揺れていた。カイト様とエカデの間で、グラングランに揺れていた。
確かにカイト様は誠実で優しい、素晴らしい男性だ。しかもちゃんと、男らしさもある。それに比べてエカデは、問題がある。確かにエカデには、強引な面と女性に配慮できる面がある。でもそれは、自分が気に入った女を堕とすためのテクニックだろう。強引に迫っても堕ちない女には、さっきのように紳士的に配慮して堕とす。そうやって今まで何人もの女を、堕としてきたのだろう。
そしてそれは、もし私が明日の婚約披露パーティーでエカデを選んでも続くだろう。つまり私がエカデと婚約しても、エカデは他の女と遊び続けるだろう。元々エカデは、そういう男だからだ。だが私はそんなエカデに、堕ちてしまった。明日の婚約披露パーティーで、カイト様とエカデのどちらを選べば良いのか悩んでしまうほどに。そうして一晩中悩んでいたらいつの間にか、私とカイト様の婚約披露パーティーが開かれる日の朝がきた……。




