第十二話 二週目
だが私は、キッパリと断った。
「いえ。私はあなたと、付き合うつもりはありません。私はカイト様を、愛しているので」
するとエカデは、ため息をついた。それを見て、私はホッとした。良かった。これでエカデもきっと、私のことをあきらめるだろう。だが、そうではなかった。エカデは何と、私にキスしてきた! な、なななな何を?! と私は動揺したが、ドキドキもした。このドキドキって一体?……。
と私が動揺しているのを見透かしたように、エカデは聞いてきた。
「エマ。お前は今、俺のことしか考えてないだろ? カイトのことなんか、考えてないだろ?」
な、そ、そんなことは……。だが私は、「違う、そんなことはない」とは答えられなかった。エカデが言ったことは、図星だったからだ。だから私が何も言えずに黙っていると、エカデはニヤリと笑った。
「ふっ、図星のようだな。それなら俺にも、まだチャンスがあるってことだな。俺とお前が付き合う、チャンスが」
そしてエカデは、私から離れた。
「まあ今回は、ここまでにしておいてやる。でも俺は、またお前に会いにくるぜ。その時はきっと、俺とお前は付き合いうことになるぜ。それじゃあな」
とエカデはスタスタと、この屋敷の出口に向かって歩き始めた。それを見届けた私はへなへなと、廊下に崩れ落ちた。な、何なのあの男? ホントに、何なの?! するとメイドが、心配そうに聞いてきた。
「だ、大丈夫ですかエマ様?!」
本当は、大丈夫ではなかった。エカデという男が現れたショックは、大きかった。でも私は、何とか立ち上がった。メイドに、聞きたいことがあったからだ。
「ええ、大丈夫。それよりも、聞きたいことがあるの。あのエカデという男は一体、何者?」
するとメイドは、心配そうな表情をしながらも答えてくれた。
「は、はい。エカデ様は、この町で三番目に裕福な貴族のご子息です。でもあまり、良いウワサは聞きません。何でも毎晩のようにパーティーに行って、女たちと遊んでいるようです……」
なるほど。エカデは、遊び人か。そして実際、モテるのだろう。イケメンのエカデにあんな風に強気に迫られたら、堕ちる女も多いだろう。つまりエカデは、俺様系だな……。そこまで考えた私は、メイドに口止めした。
「エカデのことを、教えてくれてありがとう。でも今、エカデがここにきたことは誰にも言わないでくれる? もちろん私が、キスされたことも」
するとメイドは、真剣な表情で頷いた。
「はい。お任せください、エマ様」
私はそれを確認すると、メイドに告げた。
「ありがとう。それじゃあ私は、自分の部屋でちょっと休むから」
、
そして私は自分の部屋に入って、ベットに仰向けになった。そして、考えた。何なの一体?! 一体、何が起こっているの?! 私が乙女ゲーム『誰でもプリンセス』をプレイした時には、エカデなんていうキャラは出てこなかった。そしてこの世界にきて前回はシズと対決して勝ってカイト様と正式に婚約したが、やはりエカデなんていう人は現れなかった。
でもさっき、エカデは確実に私の目の前に現れた。しかも私と、付き合おうとしている。どうなっているの、本当に?……。と考え続けていると、ある答えが出た。それは私がこの世界にきて、今が二週目だと言うことだ。『誰でもプリンセス』は貴族令嬢、友好国の王女、敵対国の王女、お城のメイドなどからキャラを選ぶことができる。
でもキャラを変えて何度もゲームをクリアすると、選べるキャラが増えると言う話を聞いたことがある。いわゆる、隠しキャラだ。それならゲームにも、隠しキャラが登場するのではないか? だから私がこの世界にきて二週目なので、隠しキャラのエカデが現れたのではないか? もちろんこの考えには、何の証拠もない。それこそ私がこの世界にくることになったきっかけの、自称守護女神に聞かなければ分からないだろう。
だがエカデが二週目に現れる隠しキャラという考えは、妙にしっくりくる。説得力がある。エカデは私と、付き合いたがっている。つまり私とカイト様の婚約を、邪魔しようとしている。つまりこの二週目をクリアするための難易度を上げるために、エカデが私の前に現れたという考えは妙にしっくりくるし説得力がある……。
もしかしたらエカデと付き合うことになっても、そういうエンドになるのかも知れない。つまり二週目も、このゲームをクリアできるのかも知れない。でも私は、首を左右に振った。嫌だ。エカデと付き合ってこのゲームをクリアするのは、嫌だ。
確かにエカデは、イケメンだ。それにカイト様にはない、男らしさもあるかも知れない。でも、それでも嫌だ。やっぱり私はカイト様と婚約して、このゲームをクリアしたい。うん、そうだ。やっぱり私は、そうしたい!
と決心したはずの私だが、やはり私の心は揺らいでいた。エカデが持っている、カイト様にはない強引な男らしさに。ああ、なんて複雑な乙女心! え? 三一歳でも乙女心がありますが何か? と私の心が揺らいでいると、ドアがノックされてメイドの声がした。
「エマ様。午前一〇時の、お茶の時間です。そして本日も、カイト様がお見えです」
え? カ、カイト様が?! とエカデのことを考えていた私は、動揺した。




