第十一話 貴族令息エカデ
私はまず、朝食にがっついた。腹が減っては戦はできぬと言うから。そうだ。この乙女ゲーム『誰でもプリンセス』は正に、カイト様を奪い合う戦だ! 私、丸山あさ美が転職した悪役令嬢のエマと対決するのは貴族令嬢、友好国の王女、敵対国の王女、お城のメイドなどだ。
私は前回、貴族令嬢のシズと対決して見事にカイト第一王子と正式に婚約した。つまり、ゲームをクリアした。なのでこのゲームの世界から元の世界に戻れるかと期待したが、そうはならなかった。時間は再びゲーム開始直後、つまり私とカイト様の婚約披露パーティーの前日に戻ってしまった。
なので私は、覚悟を決めた。こうなったら元の世界に戻れるまで、何度でもゲームをクリアしてやろうと! そう考えて私は、朝食を平らげた。するとエマの父親と母親は、少し引いていた。
「う、うーむ。見事な食べっぷりだな、エマ……」
「そ、そうね。何だか、たくましいわ……」
でも私はそんなことは気にせず、二人に挨拶をした。
「ごちそうさまでした、お父様、お母様。それでは私は明日に備えて、自分の部屋に戻ります」
そう言い残して私はこの食堂を出て、自分の部屋に戻った。そしてベットで仰向けになり、考えた。次の対決相手は一体、誰だろうかと。前回は貴族令嬢のシズと対決して勝ったので、おそらく彼女ではない。となるとおそらく友好国の王女、敵対国の王女、お城のメイドの内の誰かだと考えられる。うーむ。一体、誰だろう?……。
と考えていると、ドアがノックされてメイドの声がした。
「エマ様。お客様がお見えです」
お客様?! きっとカイト様だわ! きゃー、愛しのカイト様ー! 私は喜びを抑えきれずに、部屋のドアを開けた。するとメイドと、見知らぬ男が立っていた。あれ? カイト様じゃない。っていうかこの男、一体誰? 『誰でもプリンセス』をプレイした時は、見たことないけど……。
私は自分の部屋を出てドアを閉めて、その男がいる右側に移動してその男をまじまじと観察した。その男は金色の髪を首まで伸ばして、気の強そうな目をしていた。でも精悍な顔つきで、イケメンだった。そして、白の正装だった。いやいやいやいや、ホントに誰? この男?
するとその男は私に一歩近づき、右手を壁に勢いよくついた。だから小さく、ドンという音がした。か、壁ドン?! そしてその男は、私に顔を近づけた。ち、近い、近い! 顔が近い! 更にその男は、その気の強そうな目で私を見つめた。するとなぜか私は、ドキドキしてしまった。え、何このドキドキは?……。
と私がこの男にドキドキしている理由を考えていると、その男は話し出した。
「やれやれ、エマ。その顔は、俺のことを忘れたっていう顔だなあ……」
だ、だから私はあんたなんか知らないって! それに私を呼び捨てにするな! カイト様はちゃんと、『さん』をつけて呼んでくれるんだぞ! と私がそう抗議しようとすると、再びその男は話し出した。
「やれやれ。俺の名前は、エカデ・タチヤだ。貴族令息だ。思い出したか? 一カ月前、城で行われたパーティーで会っただろう?」
だ、だから知らないって! ホントに知らないって! ホントにここ、『誰でもプリンセス』のゲームの中なの?! エカデなんていうキャラは知らないし、一カ月前にお城でパーティーが行われたっていうことも知らない! と私が混乱していると、エカデは再び私を見つめた。
「単刀直入に言うぞ、エマ。お前、俺の女になれ」
カッチーン。その言葉に、私はブチ切れた。私のことを呼び捨てで呼ぶのは、百歩譲るとしよう。でも今の言葉は、許せない! なので私は、言い放った。
「だ、誰が、あんたの女なんかになるもんですか! 私がカイト様と婚約していることを知らないの?!」
するとエカデは、冷静に答えた。
「知ってるさ。今の婚約はまだ仮の段階で、明日の婚約披露パーティーで正式に決まることも。だからまだお前は、俺の女になれるんだぜ?」
「だ、だから私はあんたの女なんかにならないって!」
と私が答えると、エカデはため息をついて話し出した。
「はあ、全く。カイトみたいな優男の、どこがいいんだよ。あんな男よりも、男らしい俺を選べって。お前だって一カ月前のお城でのパーティーでカイトと、初めて正式に会ったんだろ? それでカイトがお前に一目ぼれして、付き合うことになったんだろ? そして一カ月たった今、仮の婚約をした。でもお前は、俺の本当の魅力を知らない。だから俺と付き合ってみろって、な?」
それを聞いて、私は納得した。なるほど。私とカイト様は、一カ月前のお城のパーティーで正式に知り合ったのか。そしてカイト様が私に一目ぼれして、そして付き合うようになったのか。そして更に現在、私とカイト様は仮の婚約中か。なるほど、なるほど。これはおそらくゲームの設定だろうけど、どうやって私とカイト様が知り合って付き合うことになったのか知ることができて、私は嬉しくなった。そうか。カイト様は私に、一目ぼれしてくれたのか……。
と私がカイト様のことを考えて余韻に浸っていると、またエカデは話しかけてきた。
「だからまず俺と、付き合ってみろって。そうすれば俺の男らしさが分かるから、な?」




