~流星と寄り添う夜 完~
1
戦いが終わった後、リィは各村から二人ずつ代表を出し、その二人を都に残してあとは村に帰るよう呼びかけた。
代表はしばらく都で農業について学ばせ、知識を村に持ち帰らせる。いずれ各村に学舎を作りたいが、それはまだまだ先の話だろう。
フォリアは自室に監禁している。国に剣を向けたのだ、これくらいしないといけない。
それから仕事部屋に戻って自分の椅子に座って・・・記憶がない。
みんな、長時間の戦闘で疲れ切っていたのだろう、目が覚めると騎士達全員が机に突っ伏していた。
リィは立ち上がると騎士達の自室がある階へ行き、物置からブランケットを数十枚取り出す。
皆のもとへ戻ると、騎士ひとりひとりに起こさぬよう気をつけながら、ブランケットをかけてまわった。
「皆、お疲れ様」
2
「フォリア、ひとつ聞いてもいい?」
リィは取調室でフォリアに向き合い、問いかけた。騎士達が休んでいる間、フォリアと話をしようと思ったのだ。
「───騎士団に戻ってくる気はある?」
無言で俯くフォリアを見つめる。やがて、ぽつりと、
「・・・ボクに、騎士である資格はありません」
「資格がどうとかじゃなくて、フォリアはどうしたいの?」
「あなたと魔獣を駆り立てていた破壊衝動はもうない。やったことは消えないけど、未来は変えていける。───もう一度聞くわ、あなたは騎士団に戻ってくる?」
フォリアは顔をくしゃりと歪め、
「───どうして」
「どうして、赦すんですか?」
「ボクは、皆に剣を向けました。衝動に任せて。それなのに、どうしてまだ・・・」
フォリアは、本気でリィが何故赦すのか、分からないのだろう。自分は赦されないことをしたと、分かっているが故の疑問だ。
だからこそ、リィは赦す。
「───フォリアが、仲間だから」
「人は、間違いを犯すもの。あなたのしようとしたことは、いけないこと。でも、皆こうして生きてる」
「死者は出なかった。───それで、赦す理由には足る」
「そ、そんなの、詭弁です」
リィは己の胸に手を当て、
「詭弁じゃない。私は正しいって信じてる」
フォリアは捨て子だとエイスに聞いた。
彼女の過去が、今回の間違いに繋がったと言える。
フォリアはずっと、ヘレスだけを信じて生きてきたのだろう。
目的を達するために、ヘレス以外を無理矢理憎んで。
だって、好きになったら、信じてしまったら。
もう、目的は達成できない。
それは、ヘレスと別れることを意味する。
悪循環の中で生きてきた過去が、彼女に人を信じることを許さないのだ。
「ボクはもう・・・騎士には・・・」
「あーもうっ!」
リィは叫び、机をバンと叩いた。怯むフォリアの目をのぞき込み、
「あなたは、騎士としての毎日、楽しくなかったの⁉」
「・・・楽しかった、です」
「───なら、戻ってきなさい。これは命令よ」
額に指を突きつけ、驚くフォリアに言う。
「赦されないと思うなら、今後の働きでそれを証明してよね」
「・・・はい」
頷くのを見て、リィはフォリアを引き寄せた。
「あの、騎士長・・・?」
「すぐには、私達のこと信じられないかもしれない。それでもいい。でもね、これだけは」
「私にとって、あなたは大事な仲間なの。フォリアが裏切ったとしても、私はあなたを信じてる」
「───ぁ」
自分より少し身長の低いフォリアを抱きしめ、安心させるように背を撫でる。
フォリアの肩が細かく震え始め、鼻を啜る音が聞こえた。
「ごめ、んなさい・・・ごめんなさい・・・っ」
涙声で謝るフォリアの頭に手を置き、
「私は赦したんだから、謝らなくていいの」
フォリアの泣き声が小さくなって途絶えるまで、リィは抱きしめ続けていた。
3
フォリアを連れて仕事部屋に戻ると、騎士達は起きて強張った体をほぐしていた。
「あ、騎士長・・・って」
「───フォリアは、また騎士団に戻るわ。まあ、仲良くやって」
あとはフォリアが自分でやればいい。そう思って、一歩下がった。
「皆さん、今回はすみませんでした。赦されないのは分かっています。でも、私は」
「これまで、騎士として過ごしてきて、楽しかった。前には戻れないかもしれないけど・・・」
フォリアの言葉が途切れたのは、ロートが前に立ったからだ。
「───良かった。俺達と過ごした毎日を、楽しいと思ってくれてて」
「え・・・」
ロートの隣にヴェールも立ち、
「また、よろしくな」
あっという間に、フォリアは騎士達に囲まれる。
───誰も、拒絶しない。
元からの仲間も、あとから入ってきた仲間も。
「───ありがとう」
フォリアは泣き笑いの表情で、そう言ったのだった。
ヴェールはパンと手を叩くと、
「せっかくだから、皆集めて飲まないか?」
「・・・もう、二日酔いになってもしらないからね?」
リィの言葉にニヤリと笑い、
「殿下と、ルッカちゃんとサクリちゃんと・・・」
「ヴェールも『ちゃん』付けなんだ・・・」
騎士達とテセウス、サクリ、ルッカにリュナ、ルアまで席についた。ルアはテセウスの膝の上で喉を鳴らしている。
「これでみんな・・・あ」
ひとり忘れていたことに気付き、呼んでくる。
「イリス、どうぞ」
今回、イリスの虹魔法があったから長時間戦えたと言っても過言ではない。
「戦いの終結、フォリアの復帰を祝って───」
「ちょ、ちょっと待って!」
テセウスの言葉を慌てて遮る。場の雰囲気が壊されるが、ひとつ言うことを忘れていた。
「レイルの───記憶が戻ったの」
リィとレイルをのぞく全員が硬直する。
騎士達は何度か口を開閉し───
「「「「早く言えよ!!」」」」
最初の驚きが薄れ、レイルはいつ記憶が戻ったのか説明した。
レイルは元リーシア王国の騎士達に向き直り、
「騎士団を出て・・・悪かった」
謝罪し、頭を下げる。
「副騎士長・・・いや、レイル」
「───俺達はもう、怒ってない」
気まずそうな顔で続ける。
「ていうか、こんな優しい人放っておいたらぶん殴ってたよ」
やり取りを黙って見ていたテセウスが、グラスを掲げ、
「戦いの終結、フォリアの復帰、そしてレイルの記憶が戻ったことを祝って、乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
今度こそ、グラスがぶつかる音が響いた。
リィは窓辺で皆の様子を眺めていた。
「リィ」
見れば、酒の入ったグラスを片手に持つレイルが隣に立っている。
レイルはグラスを窓台に置き、リィの肩を抱いた。
テセウスとイリスは優雅にグラスを傾け、談笑している。さすがは元王族。気品がある。
ロートはヴェールとギル、フォリアにからかわれているらしい。顔が赤い。いつもどおりだった。違うのはフォリアの足元にヘレスが座っていることくらいか。
エイスは黙々と料理とつまみを食べていた。なんだか意外だ。
サクリとルッカ、リュナはルアを撫で回している。ルアも嫌ではないらしく、ふわふわのお腹を上にして転がっていた。
皆、無事に帰って来れてよかった。この光景を見れてよかった。
「レイル。出会ってからいろいろあったけど・・・楽しかったね」
「そうだな。これからも、楽しくやっていこう」
無言の時間が続く。張り詰めたものではなく、穏やかな時間。
リィはレイルを見て、
「愛してる、レイル」
「僕も、リィを愛してる」
二人は微笑み、同時に顔を近づけ、唇を触れさせた。
リィとレイルの様子を見たギルと数名の騎士達が撃沈する。
唇を離し、そちらに向かおうとしたリィをレイルがひょいと抱え上げた。
「もう・・・」
頬を染めるリィと寄り添って、レイルは歩き出した。
───大切な、仲間のもとへ。
ありがとうございました。
これからは番外編を投稿していきますので、よろしくお願いいたします。




