~『流星』と『夜』~
「───信じて、私に全てを預けてくれる?」
「やろう、リィ。二人で」
レイルの体がリィに預けられ、二人の輪郭がぼやけていく。
突然、凄まじい光が膨れ上がった。
騎士達も、人々も、目を押さえて蹲る。フォリアも光を避けるようにフードを深く被った。
やがて、光が収束すると、闇は完全に消えていた。
光の中心にいたのは───
金色の長い髪と、夜空のような青い瞳を持つ一人の少女。
騎士達とフォリアは理解した。
───リィとレイルは、フォリアと魔獣と同じように、『同化』したのだと。
「でも、同化したとして、騎士長は何をするつもりなんだ・・・?」
ギルが呟く。
「分からないのか?───騎士長と副騎士長の属性は、陽と陰なんだ」
陽と陰、それぞれの属性が魔力に濃くあらわれている二人が同化すれば、どうなるか。
───二つの真逆の属性によって、三つの属性を持つサクリを遥かに超える魔力量を得ることができる。
「レイル、上手くいった!」
『そうだな、リィ』
成功したのは嬉しいが、喜んでいるばかりではいられない。
「フォリア」
己の陰魔法を破られたことに動揺を隠せないフォリアに呼びかける。
「その様子だと、さっきの陰魔法があなたの切り札だったのね」
「───もう、これで終わりにしましょう」
リィは、レイピアを引き抜いた。
同化と言っても、二人とも溶けてくっつくわけではない。片方の器の中に、もう一人を溶かす、そういうイメージだ。この場合は、リィの中にレイルの意識が入ったため、髪や体つきはリィのまま、瞳だけレイルの光が宿った。
とは言っても、二人が一つになったことには変わりなく、リィの能力とレイルの能力が合わさって、今なら一度の跳躍で雲の上まで跳べそうな気がする。
これまでにない全能感を味わいながら、リィは気を引き締めた。
「レイル」
『───大丈夫』
レイルの声に背中を押され、リィはレイピアを構え、剣の間合いに入った。
「な、速っ───」
徐々に、攻撃の速度を上げていく。
まだ、上に行ける。全力にはほど遠い。
もっと。もっと、この先を───
両手剣が、フォリアの手から離れた。
リィは、剣をなくした相手を斬ることを、躊躇わない。
陽の魔力を全身に纏い、リィのレイピアは───
滑らかに、フォリアの右肩を突き抜けた。
リィの纏う光が、強くなる。
フォリアの体の中にある、黒い靄のようなものが薄れていくのを感じた。
───フォリアは己の肩に深々と突き刺さったレイピアを呆然と見た。剣を伝って、陽の魔力が流れこんでいるのを。
消えて、消えてしまう。自分の中にいる魔獣が。
否。
───唯一、自分の傍にいてくれた存在が。
『ヘレス、見て!綺麗でしょう?』
『見てもなにも、常にお前の目を通しているのだが』
『上手く陰魔法使えるようになったよ、ヘレス!』
『ああ、知っている』
『もう、いつもヘレスは素っ気ないんだから』
それが、お決まりのやり取りで。
いつから、だろう。───ヘレスと呼ばなくなったのは。
ずっと、ヘレスはフォリアとともにあった。
「やめて、やめてよ・・・一人にしないで」
「ヘレス、おいていかないで・・・!」
『フォリア』
初めて、魔獣がフォリアの名前を呼んだ。
『フォリアと過ごせて・・・楽しかったよ』
「───」
『───巻き込んで、悪かった』
その瞬間、あったはずの繋がりが、切れたのを感じた。
リィは、ぺたりと座りこんだフォリアを見ていた。
フォリアは確かに、悪いことをした。
でも、リィは、全てを助けると決めた。
全て、最善を尽くすと決めた。
全部の中には、フォリアだっている。
だから───
「力貸して、レイル」
『自由に使って』
フォリアの体の外に出て、空気中に漂う靄になって消えていく魔獣。
リィは靄を風魔法でかき集めた。
陽魔法で黒い靄を浄化し、同時進行で成形してゆく。
成形の光が消えると───
白い毛並みを持つ、犬がいた。
「ヘレ、ス・・・?」
フォリアが手を伸ばす。
『これは・・・』
「魔獣に植え付けられてる破壊衝動という名の・・・呪い、かな。それを解呪した。もう魔獣じゃないよ。ただの喋る犬」
『・・・リィ、ただの犬は喋らないよ・・・』
レイルはぼそりと呟いたが、リィは気にしない。
フォリアはヘレスを抱き上げ、
「良かった・・・ヘレス・・・!」
ぽろぽろと涙を零すフォリアの瞳から赤い光は消え、かつての緑色が戻ってきていた。
「フォリア、魔法も剣も使えないように、拘束する。あとで聞きたいことがある」
フォリアは頷き、されるがままになった。
多分何かすることはないだろう。
ヘレスと叫んだときのフォリアは演技なんかじゃなかった。
我ながら甘すぎると思ったが、冷徹ならば、犠牲を無視して人々を無力化していたはずだ。
『リィはそのままでいいよ』
同化しているレイルだ。リィの考えなど、筒抜けだったに違いない。
「ありがとう。───最後の大仕事、しないと」
黄金の膜に包まれ、宙に浮く。
広い、レイリア国を見渡し───
金色の、雨が降った。
雨は怪我を癒し、戦意を奪って土に染みこんでゆく。
地面が金色を帯び、枯れかけた作物が急激に力を取り戻した。
膜と風魔法の維持を己の中のレイルに任せ、リィは魔力を注ぐことに集中する。
レイリア国の土地に力を与え、リィは目を開けた。
高度を下げ、息を吸う。
「今の雨で、当分作物は育つでしょう!数年の不作は解消されるはず!」
レイルの陰魔法の『幻惑』を皆に軽く使い、リィは遠く離れた人々にも直接声を届けた。
人々のどよめきと喜びの声が消えるのを待ち、
「でもそれでは、同じようなことが起きる!そうならないために、学んでください!」
「これから、国と私達騎士は、誰もが学べる環境をつくります。今まで見てこなかった現状を直視し、変えていきます!」
人々は剣を落とした。そして、額を地面に触れさせる。
───彼らも分かったのだ。
国は、貧しい今は変わると。
感謝の声を上げる人々に微笑みかけ、
「顔を上げて。あなたたちの暮らしを知らずにいたのは、私達のほうなのだから」
幻惑魔法を解除し、地面に向かって降りながら、リィはささやいた。
「これで、終わったんだよね」
『終わったよ。ここからが大変だけどな』
着地し、リィとレイルは『同化』を解いた。
二つの体に戻ると途轍もない疲労感が襲ってきて、二人は互いに背を預け、ずるずると座りこんだ。
駆け寄ってくる騎士達になんとか片手をあげる。
人々の不満に対し解決策を提示したリィとレイル。
『流星』と『夜』として、語り継がれる伝説になることを二人はまだ知らない。
───戦いは、終結した。




