~二人で~
1
「───あなたは、何ていう名前なの?」
幼い少女の声が、遠く聞こえる。
『名前など無い』
それに返す声は低く、冷たい。
少女はそんな相手の態度を気にすることもなく、
「なら、ボクが名前をつけてあげる!えっと・・・ヘレスなんて、どうかな?」
数秒の沈黙。少女が不安になり始めた頃、
『・・・悪くは、ない』
───これは、フォリアと魔獣の、始まりの記憶。
全ての始まりの、記憶だった。
2
「・・・フォリアが、魔獣と同化しているなら、どうやって止めるんですか・・・?」
ロートの質問に、ヴェールも頷く。
「そもそも、今までずっとフォリアは結界の中にいましたよね?それでどうして魔獣は消えなかったのでしょうか」
「多分・・・だけど、魔獣が完全に人間の一部になってて、外部からは影響受けないんじゃないかな」
リィの意見に、納得した様子の騎士達を見て、
「おそらく内部に陽の魔力を注げば、魔獣の意識は消える・・・と思う。ただ」
「「「ただ?」」」
リィはため息をつき、その先の言葉を押し出した。
「・・・圧倒的に魔力が足りない。問題はフォリアだけじゃないもの。───この戦いを終わらせる方法を考えないと。フォリアがいなくなれば、人々も引くなんて確証はないから」
人々の不満の主な要因は、不作だ。それを変えてやれば、きっと終わる。
不作が続くのは、土地に栄養が少ないからだ。だが、知識を得ることをしてきてないため、改善できない。
一番良いのは、一時的に陽魔法で土地に力を与え、その間に人々を学ばせるという方法。
これも、魔力が足りず、できない。陽魔法使いを集めても、広い土地全てに魔力を流すなんて不可能だ。
「むー・・・」
八方ふさがりな状況に唸っていると、ふっと周囲が闇に包まれた。
───あちこちから、空気を斬る音と悲鳴が聞こえてくる。
リィは騎士達の指先に小さな光を灯し、
「マズい、陰魔法だ。魔力が万全なら、闇を払えたかもしれないけど・・・」
空気を斬る音は、視界を遮られた人々がパニックを起こし、剣を滅茶苦茶に振り回すことによるものだろう。このままでは危険だ。───死傷者が多数出るかもしれない。
何者かが───いや、十中八九フォリアだろう。死者を出すことが、彼女の───魔獣の目的なのだから。
どうすればいい。この状況を打開し、戦いを終わらせるには。フォリアと同化した魔獣の思い通りにさせないためには───
「あ」
一つのアイデアが浮かび、リィは可能性を考える。
これなら、行けるかもしれない。
「ねぇ、レイル」
「どうした?」
「───信じて、私に全てを預けてくれる?」
「もちろん。どんなときも、リィと寄り添うって言っただろ?」
躊躇いの全くない言葉に、リィは微笑む。
そして、レイルの耳にアイデアを囁いた。
レイルは驚き、しばらく黙考したが───
「やろう、リィ。二人で」
暗闇の中、レイルはリィの前に立つ。ゆっくり、後ろに倒れ、体重を預けて───
───二人のいる場所を中心にして、膨大な量の光が弾けた。




