~破壊衝動~
1
「騎士長!」
向こうからエイスが走ってきて、リィは足を止めた。
薄青の髪を乱し、疲労が色濃く滲んでいる。白い騎士服にも血が付着していた。
「どうしたの?」
エイスは息を整え、言った。
「流れこんできた。───フォリアの、過去が」
2
衛兵達に戦闘を任せ、騎士達は集まった。
「時間がない。エイス、追体験した過去を教えて」
エイスの能力を知らない元リーシア王国の騎士達が首をひねっているが、今は説明する時間もおしい。
「フォリアは本人が言っていたとおり、アスール村の出だ。ただ・・・捨て子なんだ」
「捨て子?」
エイスは唇を湿らせ、
「彼女は、結界の外───森の中に捨てられた。・・・本来は生き延びれないはずだが・・・フォリアは今も生きている」
「例外なく人間を殺そうとする魔獣が、フォリアを傷付けない理由」
騎士達は皆わからないようだったが、リィは違った。考えを確信に変えて、口から紡ぎ出す。
「───魔獣は、魔獣を傷付けない」
騎士ならば誰もが知っていること。それを聞いた騎士達の表情が、理解、そして驚愕に変わった。
「なら・・・フォリアは・・・」
ロートが呆然と呟く。エイスは追体験したときを思い出したのか、僅かに顔色を悪くし、
「───フォリアの中に、魔獣の意識が入っているんだ」
3
フォリアは己の脇腹を濡らす血を拭った。レイピアに刺された傷跡は完全に塞がり、跡も残っていない。
「回復力の速さは、魔獣と『合体』して良かったと思うことかな」
『殺せ。壊せ。消せ』
「もう少し待て。騎士達が意地でも死者を出さないようにってやってるから死んだやつはいないけど、ボクだって何も考えてないわけじゃないんだから」
内に響く声に語りかけ、フォリアは立ちあがった。
「一体ずつ消していくのは時間がかかりすぎる。───なら、人間達をぶつけ合えば勝手に死んでゆく。そう言ったのは、お前だろう?」
『・・・』
魔獣の意識が黙り、フォリアはため息をついた。
魔獣には、『人間を殺せ』という一言が本能として刻みこまれている。多くの魔獣はそれに盲目的に従っているだけだが、高い知能を持った魔獣は、どうすれば多くの人を殺せるか考えるのだ。
「いつも思うけど、何でボクを選んだんだ?」
魔獣は少し考えた後、
『・・・人に対して憎しみを抱いている相手の中に入れば、目的の手伝いをしてくれるからだ』
「憎しみ・・・憎しみ、ね。───確かにボクは憎んでる。自分を捨てた親を。人間を。消し去りたいくらいに」
フォリアの顔は笑っていたが、どこか寂しそうに見えた。そんな表情もすぐに消え去り、
「ようするに、お前の目的は多くの人を消し去ること。そのための方法は、予定してたものと違ってもいいだろう?」
『ああ』
魔獣はそれきり何も言わず、フォリアも何も言わない。
ただ、破壊衝動で繋がる少女と魔獣は、同じ目を通して空を流れる雲を眺め続けた。




