~赤髪の騎士と緑髪の騎士~
1
フォリアは建物の屋根の上に立ち、戦いの様子を見ていた。
「死者はなし・・・か」
不満げに呟き、ある一点に目をとめる。
『流星』と『夜』が戦っている場所を。
「行ってこよう」
何の躊躇いもなく足を踏みだし、地面に降り立った。
物音がして、リィとレイルは振り向いた。
「フォリア・・・」
リィとレイルに人々が襲いかかろうとするのをフォリアは手をあげて制し、
「これはボクの───獲物だ」
フォリアから溢れ出す鬼気に、人々はびくりと体を震わせ、その場を離れる。
「一度、やってみたかったんですよ。───互いの命を賭けた、戦いを」
狂気をおびた瞳でリィを見て、フォリアは笑った。
2
「フォリア・・・どうして?」
「騎士団に・・・私に、不満があったから?」
リィの問いかけに、フォリアはきょとんとした表情をして───
「・・・ぷっ」
「あははっ!はははははっ!」
吹き出し、大声で笑うフォリア。
「ははは・・・はーぁ。そんな生温い理由なわけ、ないじゃないですか」
「・・・じゃあ、何?」
フォリアの瞳に浮かぶ、赤い光が強さを増す。
「───騎士団も、王族も、人々も関係なく、全てを消すため」
笑顔でそう言ったフォリアを、リィは本気で怖いと思った。これ以上、彼女と話していたくない。
「・・・リィ」
「行くよ」
駆け出し、フォリアに向けて剣を突き出す。
だが、斬りたくないという躊躇いをのせた細剣は容易く避けられ、フォリアの一撃が───
間一髪のところでレイルが跳ね返し、リィとレイルは距離をとった。
はず、なのに。
「こんなものですか、騎士長の力は」
「・・・っ!」
声が間近できこえ、咄嗟にレイピアを盾代わりに───
横から割り込んだ影があった。レイル、ではない。
「ロート、ヴェール・・・」
赤髪と緑髪の騎士が、フォリアの攻撃を跳ね返し、リィの前に立っていた。
数メートル下がったフォリアは舌打ちし、
「・・・邪魔、するのか」
ロートとヴェールの返答はフォリアに向けた切っ先だった。
正眼の構えをとる二人を見て、
「仕方ない、こっちから片付けよう」
こっちからも何も、この場には四人しか───
不意に、途轍もない重力がリィとレイルを襲った。
「く・・・っ」
耐えきれずに二人とも地面に張り付くような格好になってしまう。
「騎士長!副騎士長まで⁉」
声の様子をみると、ロートとヴェールは大丈夫だったらしい。
「───副騎士長が考案した、闇魔法の重力を強める阻害魔法」
ヴェールが呟いた。
「レ・・・イル、か、解除・・・出来ないの・・・?」
「・・・無理だ。力が、強すぎる・・・」
フォリアの闇がリィとレイルの髪の毛を掴み、無理矢理顔を上げさせられる。さらなる苦痛に耐える二人に、
「仲間が殺されるところを、見ていて下さい」
フォリアは楽しげに笑うと、ロートとヴェールに向けて剣を繰り出した。
初擊はロートが受けきった。生まれた隙に、ヴェールが───
「遅い」
フォリアはヴェールの剣を避け、足を払った。体勢を崩したヴェールに、フォリアのつま先が突き刺さる。
「か、は・・・っ」
吹き飛ばされたヴェールは受け身もとれず、地面に転がった。
「ヴェール!」
「馬鹿っ、よそ見を───」
振り返ったロートに、ヴェールが咳き込みながら注意を促す。が、遅い。致命的な隙が生まれてしまった。剣はロートの首筋を切り裂く軌道を描き───
フォリアの攻撃に気付くが、間に合わないと悟った、覚悟と諦念、僅かばかりの恐怖の表情。
自分のせいで生まれた隙で、友人が傷付けられる絶望の表情。
彼らの表情が、姿が、かつて手が届かなかった騎士二人に、重なった。
『アルト、悪いな。巻き込んじまって』
『お前の重い体を一人では投げ飛ばせないからな、カイル』
声が、聞こえた。
今度は、絶対に。
「アルトとカイルは、死なせない──────‼」
叫ぶと同時にリィの全身から光が迸り、直後重さが消えた。
本来間に合わない距離を駆け抜け───
フォリアの剣を片手で掴み止め、掌が裂けるのも構わず右手のレイピアを突き出した。
脇腹に深々と刺さったレイピアを抜くと、フォリアは血に濡れた唇の端を持ち上げ、笑みを刻んだ。
ふらりと数歩下がると、
「さす、がは騎士長・・・。でも、まだまだです」
とだけ残して、消えた。
「消えた⁉・・・フォリアも、まさか瞬間移動を・・・⁉」
呆然としてから、ロートとヴェールに駆け寄る。
「大丈夫⁉」
「・・・えぇ、大丈夫です」
それを聞いて、リィはぺたりと座りこんだ。
「騎士長・・・⁉どうかし・・・」
「───良かった」
ロートの言葉が途中で途切れる。リィの白い頬に涙が伝うのを見たからだ。
「やっと・・・やっと、助けられた・・・!」
涙で滲んだ視界に、二人の顔が見える。
一人は、燃えさかる炎のような赤い髪。もう一人は、深い緑色の髪をもった人物。
『助けてくれて、ありがとう、リピア』
『もとはと言えばカイルの提案だったもんな。───ありがとう』
声に、私は───
「アルトも、カイルも・・・皆助かって、良かった・・・!」
『な、何だよ、泣くなよ。どうしたらいい、アルト⁉』
『・・・自分で考えろ』
『───リピアの剣技は、やっぱり流星』
「ミ、リア・・・!」
ミリアはにこりと笑い───
アルトも、カイルも、ミリアも、光に溶けて消えた。
リィは涙を拭い、ロートとヴェールを見て───
「ありがとう」
心からの笑顔で、礼を言った。
「何で騎士長が礼を言うんですか・・・」
「教えなーい!」
「えー・・・」
言葉にすると、きっと感謝が薄れてしまうから。
「アルト、カイル、ミリア・・・見てて」
───あの日の誓いを、守るところを。
『───絶対に、誰も失わせない。絶対に、誰にも守れなかった後悔を、失った哀しみを味わわせたくない』
見ていてくれる限り、私は何度だって立ち上がれる。
何があろうと、仲間達と前を向ける。
だから───
空の下、しっかりと前を見据えて。
「───往こう」
雲間から光が差し込み、リィの進む先を明るく照らしていた。




