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流星と寄り添う夜  作者: 璃依
本編
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84/92

~一滴の雫~

   1


───長い。

「ふっ!」

戦闘が始まって、どれくらいたったろうか。

ぎらつく目で自分を殺そうと飛びかかってくる人々。

人々の波が途切れ、リィはレイピアを地に突き立て、それに体重を預けて喘いだ。

「はぁ・・・っ」

どうにか崩れおちるのを堪え、顔をあげようとすると、人の気配を感じた。

「リィさん!」

駆け寄ってきたのは、リィより少し若い少女。

「フ、ロル・・・?」

───フロルと、ロサード村の人々がそこにいた。

「皆・・・どうして」

「・・・一年くらい前から、私達の村に黒いフードを被った女性が来るようになりました。そして、私達に剣や簡単な魔法を教えて去って行くんです」

「なっ・・・!」

一年前から、フォリアは人々に剣と魔法を。


何のために。


「最近は、国に対する不満を煽るような言動をとって・・・何をしたいのか分からなくて、取りあえず言うとおりにしてたんです。でも、国に剣を向けろと言われて」


そんなことはできない。逆らう勇気もない。


「戦場になってしまえば、いちいち私達のことなんて気にされないと思って、リィさんのところに来ました。───私達も、リィさんと戦わせてください!」

「───」

「一年前、俺達はあなたに救われました。その恩返しをさせてください!」


ロサード村の人々の気持ちがなにより嬉しくて、胸が熱くなる。今、人手も力も足りない。

彼らの言うとおり、戦ってもらって───


「ごめんなさい。それだけは無理」

「何故・・・!」

「私は、あなた達が傷つくところを見たくないの」

「ならば!」

フロルが感情を露わにして叫ぶ。

「ならば、ただ後ろで膝を抱えて、あなたの重荷になれというのですか⁉」

「───ッ」

「・・・そんなの、私達だって嫌です。私は弱い。弱いからこそ、意志だけは曲げない!」


リィは、村人達を見渡した。

「あなた達は、それでいいの?」

「勘違いしないでください。───俺達がそれを(・・・)したいのです」


リィはため息をつく。もう、何を言っても村人達は意見をかえないだろう。

「・・・分かった。ただし、無理はしないで」

「そのままそっくりお返しします。リィさん、傷だらけじゃないですか」

「流石に全部は避けきれなくて。・・・あそこの、シュヴァリエっていう建物の一階で怪我の治療をしてる。怪我したら、そこに行けばいいわ」

「それも、そっくりお返ししますよ」

望んで厳しい戦いに足を踏み入れる村人達は、そう言って笑った。



   2


フロル達を見送り、リィはレイピアを地から引き抜いた。呼吸を整え、駆け出す。


───自分ではまだまだやれるつもりだったのだが、体は思いのほか限界に近付いていたらしい。

疲労が判断力の低下を招き、反応が遅れた。

ドスッという鈍い衝撃を感じ、次いで焼け付くような痛みが走る。

「ぐ・・・うっ」

呻き声を奥歯を噛んで押しとどめる。視線を落とすと、脇腹に太い氷の矢が突き刺さっていた。

油断した。フロルが剣と簡単な魔法を教わったと言っていたではないか。人々の中に、得意な者がいてもおかしくない。

唇の端から血を零し、感覚が薄れてくる手足に力を込める。

軽く治癒魔法を使うが、出血は止まらない。

これ以上治癒魔法を使おうとすれば、戦う分の魔力がなくなる。それは避けねばならない。

力が抜ける。全身が凍るように寒い。

こんなところで、気を失うわけにいかないのに。

地面に倒れ込み、朦朧とする意識の中、顔に影が落ちた。冷たい鋼の切っ先が、空に向けられる。相手の顔は見えないが、恐らく私を殺そうとしているのだろう。

体は、動かない。

刃が振り下ろされるまでの僅かな時間、震える口を開く。


「レ、イル・・・」


囁きとともにこぼれ落ちた一滴の雫は、地面に跡を残して、消えた。

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