~戦うものと、願うもの~
1
人々は、途切れることなく斬りかかってくる。
それを、ヴェールは後方から風魔法で吹き飛ばしていた。
腰の剣は、まだ一度も抜かれていない。
他の騎士達は剣と魔法を用いて戦っているのに、ヴェールは剣を握れない。
怖い。
結局、レイルの言った『覚悟』を見つけられないまま、戦いは始まってしまった。
剣の存在を知覚するだけで、全身に震えが走る。崩れ落ちて、もう立てなくなってしまいそうになる。
傷つくのは怖い。
傷つけるのは怖い。
怖い。怖い、けど。
「仲間が・・・皆が傷つくのを見るのは、嫌なんだ─────────ッ!」
叫び、唇を強く噛んで鉄の味に意識を集中させ、腿を叩いて勇気を奮い立たせる。
剣を引き抜き、駆け出した。
無意識に剣に風の魔力が流れ、刀身が淡い緑色をおびる。
間合いに入るや、剣を一閃。
衝撃波が人々を後ろに下がらせ、手から離れた剣は手の届かない地面に突き刺さった。
剣を失った者たちは後方に戻っていく。息をつく暇もなく、次の者達が飛びかかってきた。
───これは好都合かもしれない、と思った。
戦闘中に間がなければ、余計なことを考えなくてすむ。ふとした瞬間に沸き上がってくる、恐怖を押し返していられる。
隣で戦うロートが、ちらりとヴェールを見た。
大丈夫だと答えるかわりに、人々を薙ぎ倒す。
ヴェールの変化に気付いて、確かめるように見てくれて。
───ヴェールの友は、なんていいやつなのだろうか。
本人に言っても、きっと誤魔化されてしまうけれど。
でも、この戦いが終わったら、伝えようと、伝えたいと、そう思った。
2
テセウスは王族の住居───『エトワール』と呼ばれている───の一室で、椅子に腰掛けていた。表からは絶えず悲鳴と剣戟が聞こえている。
「・・・リュナ。大丈夫か?」
「・・・うん」
隣に座ったリュナは気丈に頷くが、肩が微かに震えていた。
怖くないわけがない。リィやレイルが戦っていて、傷ついているかもしれないのに、落ち着いてなどいられるものか。
「・・・みゃ」
テセウスの肩の上にいたルアがぴょんとリュナの膝に飛び乗った。ふわふわの毛並みに、リュナの唇が緩む。ルアの行動にテセウスは内心で舌を巻いた。
賢い猫だ。リュナが不安に苛まれていることを悟り、自らのほうに意識を向けさせたのだ。ルアには敵わない。
そっと手をのばし、リュナの左手を安心させるように握った。驚いたようにこちらを見上げるリュナに、
「───リィもレイルも、他の者達もきっと無事に戻ってくる」
リュナがテセウスの手をきゅっと握りかえした。リュナの頭を撫でながら、テセウスは心の中で話しかけた。
───リィ。生きて、戻ってこい。
騎士達も衛兵達も、人々も、全員欠けないまま。
これが、どれだけ難しいことか、テセウスも分かっている。それでも、願う。
だって、リィは『流星』なのだから。
人々の願いを背負い、夜空をかける流星だから。
ただひたすらに、信じて、願う。
それだけが、無力なテセウスがリィのためにできること。
───サクリも、今ごろ自分に任された役目を果たしていることだろう。
ルアが、ぺろりとテセウスの手をなめた。
首もとを掻いてやると、ルアは気持ちよさそうにごろごろと喉を鳴らした。
「・・・案外、猫も悪くない」
強ばっていた肩の力をぬく。
テセウスの手に頭をこすりつけていたルアが、不安を払拭するように「みゃっ!」と鳴いた。




