~I believed~
「フォリア、なの・・・?」
リィは呆然と呟いた。
黒フードの女性───フォリアは、剣を頭上に掲げ、叫んだ。
「皆の敵は、もう目の前にいる!───全力で戦え!」
人々も剣を振り上げ、シュヴァリエのほうへと向かってきた。
レイリア国の都は、国の中心部に位置している。今はまだ旧王国の国王二人が実権を握っているが、いずれは国民が政治を行えるようにしようと考え、都には大きな会議場が作られた。その横に王族が暮らす建物とリィ達のいるシュヴァリエがある。そして、都の周りに村々が広がっているのだ。
会議場と王族の住居、シュヴァリエのまわりは高い塀で囲まれていて、入り口は一つしかない。王族の住居には隠し扉がついていて、王族だけが通れる逃げ道があるが、そちらはおそらく大丈夫だろう。
騎士と衛兵達は出入口に集まり、人々と戦闘が始まった。
───死者をださぬように。
これは騎士達と衛兵達の共通の意見だ。
ただ、それをすることは、大きな隙を与えることでもあるのだ。
もし、この戦いが魔獣に対するもので、相手を無力化するだけなら、騎士達の勝利だったろう。だが、今血走った目で剣を振るのは魔獣ではない。本来守るべき民なのだ。
相手を殺してしまわぬよう加減しながら戦うものと、殺す気で斬りかかってくるものでは、どちらが有利かは自明の理だろう。
徐々に、騎士と衛兵の傷が増えていく。
リィ自身も前線で戦いながら、疲労が蓄積していくのを感じていた。
集中が途切れかけた瞬間、視界の隅に銀色の光をとらえた。咄嗟に首を傾けたが、首の皮を薄く削られる。
「さすがは騎士長、勘が鋭いですね」
「フォリア・・・」
黒いマントを翻し、フォリアは着地した。
リィの呼吸に合わせ、瞬時に距離をつめてくる。
「・・・っ!」
フォリアの剣の軌道をそらし、レイピアを───
できない。
仲間と思っていた相手を、傷つけることなんて、できない。
硬直したリィの胴にフォリアの蹴りが入る。
当たる瞬間、自らその方向に飛び衝撃を和らげるが、全部は殺しきれず膝をついた。フォリアはリィを見てふっと笑うと、
「騎士長、信じてました」
「な、にを・・・」
「───あなたはボクを、斬れないって」
フォリアの言葉は事実だ。リィは斬れない。斬れるはずがない。
「リィ!」
「まあ、頑張って戦ってください。またあとで来るので」
レイルが駆け寄ってくるのを見て、フォリアは跳躍した。そのまま人々の中に紛れ込んでしまう。
「リィ、大丈夫か⁉」
「・・・うん」
レイルの手を借りて立ちあがったリィは、
「皆、動きが目に見えて緩慢になってる・・・」
「大丈夫。───助っ人に、来てもらったから」
レイルにつられて上を向いたリィは、シュヴァリエの二階に誰かが立っているのを見た。
遠目でも分かる、虹色の髪。すらりとした長身に、真っ白な肌。
元リーシア王国王女のイリスだ。
『虹の女神』が手をかざすと、騎士と衛兵達に虹色の雫が降り注いだ。
どんどん体が軽くなるのが分かる。
「イリス・・・!」
イリスのステータス上昇のおかげで、まだ動ける。戦える。
───戦いはまだ、始まったばかりだった。




