~狂気的な光~
1
───もともと、国同士の境界部分にあった村と村の結界は分かれていました。人々はわざわざ魔獣の彷徨く結界の外に出るはずもなく、隣り合った村ながら関わりは皆無でした。
ところが合併により、境界線付近の村だけ二つあった結界は一つに繋がりました。彼らの不満はある者の手により広がって、争いのきっかけになったのです。
後の世の人々はこう考えました。
結界は、魔獣達から守るだけではなく、周囲の村々との関わりを絶ち、村が孤立したひとつの世界にして、争いが起きぬようにするために、作られたのではないか、と───
2
「・・・ねぇ、レイル」
「どうかした?」
訓練する騎士達を少し離れたところで眺めながら、リィはぽつりと呟いた。
「私・・・怖いの」
「怖い?」
リィの横顔は、普段とは打って変わって弱々しい微笑を浮かべていた。
「誰かを傷付けたくなんかないのに・・・状況がそれを許さない」
他の騎士達も、同様の恐怖を抱いているだろう。その不安を払拭するために、騎士長であるリィはまっすぐ立っていなければならない。
───では、リィは誰に縋って、誰を見て勇気を奮い立たせれば良いのか。
「私は誰を信じて戦えばいいの・・・?」
レイルはリィの儚げに揺れる瞳をのぞき込み、
「僕を。───共に戦う、仲間達を」
「リィは、一人で戦うわけじゃないよ。皆がついてる」
リィは目を閉じ、
「・・・本当に、レイルまだ記憶戻ってないの?」
「まだ、ね。───前も似たようなこと言ってた?」
「うん。・・・ありがと」
刻々と、恐れていた戦いの足音が近付いてくるのを感じながら、リィはそっとレイルの手を握った。
そして、その時はやってきてしまった。
シュヴァリエの二階から様子を見たリィ達は絶句する。
───何故なら、村人達の手には、剣や盾が握られていたからだ。
リィの村の中でも、剣を持つ者はいた。でもそれは、魔獣達から村を守る衛士だけだったはずだ。
だが、どう見ても彼らの立ち姿は二日三日で覚えた付け焼き刃のものではない。───少なくとも一年以上は修練した者達の姿だ。それが、数万人もいるのだ。
先頭に立つ、黒いフードを被った人物に目が吸い寄せられる。細い手足に起伏のある体は女性のものだ。
早く外に出ないと、と思うが、体は困惑に縛られて動かない。
だって、あれは、あの人物は───
フードが持ち上がり、赤い瞳がリィを射抜いた。若草色の髪の毛が、日の光にさらされる。
「嘘・・・嘘よ・・・」
「フォリア、なの・・・?」
───騎士の一人、フォリアは狂気的な光を瞳に浮かべ、仲間達に剣を向けた。




