~準備2~
1
騎士達が訓練している間、リィはサクリとテセウスのもとにやってきていた。
「・・・何も起こらなければいいんだけど、起きたときのためにサクリに頼みたいことがあるの」
「何?」
「サクリに、回復をやって欲しい。私は手が離せないし、騎士達も衛士達も、負傷するだろうから」
サクリは納得したように頷く。
回復魔法、もしくは治癒魔法は多くの魔力を使うのだ。だから───
「───魔力量が多い私がやると、効率がいい」
リィはさっきからずっと黙っているテセウスの方を見た。その表情に、息を飲む。
「すまぬ。こうなることは、想定できたはずだ。いや、それ以前に・・・民衆の不満に気付かずいた余の責任だ」
声に抑えきれない自憤を滲ませ、テセウスは拳を強く握りしめた。
「余は何もできぬ。そなたらとともに剣を持つことも、魔法で守ることも・・・」
リィは何も言えない。手が届かない自分への怒りはリィも───否、リピアも慣れた感情だからだ。
そうして無言を貫くリィに変わって声をかけたのはサクリだった。
「───自分が届かないものは、周りの人に手伝ってもらえばいいの。元王子だって言っても、一人の人間には変わりないんだから。・・・一人の手はこの世界まるごと持てるぐらい大きくも、長くもないんだよ?」
リィも、テセウスも驚いた。
「ああ、本当に・・・サクリの言うとおりだな」
「でしょ?」
サクリの首を傾けて言う姿が可愛くて、テセウスは微笑んだ。
「テセウスに、リュナとルアをお願いしたいの」
テセウスは何故か頬をひきつらせたが、頷き、
「リィも気をつけるのだぞ」
2
リィ達が準備してまわっている頃───。
黒いマントを羽織り、フードを被った人物が立ち上がった。
「・・・やりますか」
小さく呟くと、木箱に乗り、
「これまで皆は不作が続く中、厳しい暮らしに耐えてきた!いつか必ず変わると信じて!」
村人達が大声で肯定する。
「変化はあった!だがそれは、皆の望んだものではない!ただでさえ足りない土地を、異国の民に奪われるなんてことは、断じて!」
高い声を張り上げ、フードの人物は叫ぶ。
「そんな皆を嘲笑い、良い暮らしをしているのはどこの誰だ?」
「「「「王族!騎士!」」」」
問いかけに、村人達もまた叫び声で答える。
「言葉が届かない場所にいる王族と騎士達に、不満を訴えるにはどうしたらいい?」
「「「「戦う!武力で訴えてやる!」」」」
フードの奥で、唇が弧を描いた。
「ならば、共に全力を尽くして戦おう!積み重ねてきた力で、奴等に思い知らせてやろう!」
村人達の声が響く中、誰にも聞こえないくらいの音量で、
「───せいぜい上手く踊って、ぶつかり合って、消えてください」
フードを被った『彼女』は、楽しげに笑った。
笑い続けた。




