~準備~
「戦いが起こる・・・⁉どういうことですか・・・?」
リィは、ついさっき見てきた光景を皆に話す。
「フリーデン王国の人々と、リーシア王国の人々との壁が取り払われたのはいいけど、不作によって争いになる」
「でも、それだけなら・・・」
ギルの呟きに首を振って、
「───最悪の場合、国に叛意を抱く可能性がある」
「叛意って・・・」
作物は採れない。合併して隣国だった人々と関わりを持つようになり、土地を譲れと言い合いになる。国は広くなったはずなのに、自分達の土地は増えない。その不満はやがて、合併を決定した国へと───
「そ、それってつまり、俺達が守るべき民と戦うってことじゃ・・・」
ヴェールが裏返った声で叫ぶ。普段ならからかうところだが、今はそんな余裕が誰にもない。
「───私達は最悪の事態に対応しなきゃならない。これからしばらく、書類仕事はなし。その分、訓練に費やす。あと、最低限の武術も叩き込むから、そのつもりで」
リィはレイルに顔を向けると、
「私は、村にいるルッカを連れてくる。すぐだから大丈夫だと思うけど、何かあったら・・・」
「空に信号弾を放つよ」
「ん。お願い。───じゃあ、ちょっといってきます!」
瞬間移動したリィを見て、リーシア王国の騎士達は固まった。
「い、今消えた・・・」
「どんな魔法なんだ・・・⁉」
「人と人との、戦い・・・!」
一人だけ少しズレていたが、誰も気にしない。
「───俺達の騎士長は規格外なんだ。そう思ってないとやっていけない」
エイスの言葉に畏れと呆れの表情を浮かべ、
「と、とりあえず、訓練場に行こう」
「ああ、そうだな・・・」
「騎士長が、消えた・・・⁉」
やっぱり一人だけズレていた。
・・・彼の状況判断の遅さが命取りにならないことを切に願う。
そのころ、リィは村に降り立っていた。
家のドアを開け、叫ぶ。
「ルッカ!ルッカ、来て!」
「どうしたの、お姉ちゃん」
奥の部屋から出てきたルッカに、事情を説明する。
「そんな・・・話し合いは出来ないの?」
「多分、状況が悪化するだけだと思うの。私が行った村の人は、騎士に対して憎しみに近い感情を抱いてた。それを刺激するわけにもいかなくて・・・。だから、ルッカに・・・」
「私に来てもらいたいと。───分かった」
ルッカはすぐさま支度をした。
「お母さん、ちょっとお姉ちゃんと王都・・・じゃない、都に行ってくる!」
「えっ・・・今から⁉」
「あとで詳しく話す!」
顔を出した母に言い、リィとルッカは転移した。
あとに残された母は、
「瞬間移動って、本当だったのね・・・」
何度も目をこすっていた。
シュヴァリエに戻ってきたリィを見て、騎士達は微妙な顔をした。それを見て見ぬふりし、
「皆、悪いけど騎士服脱いで」
「「「「はっ⁉」」」」
「馬鹿、宿舎の自分の部屋で私服に着替えて、脱いだ騎士服を持ってこいって意味!ほら早く!」
騎士達のもってきた騎士服をリィはルッカに差し出して、
「ルッカ、お願い!」
ルッカは目を閉じて、騎士服に触れる。
ルッカの手と騎士服が発光し、すぐに消えた。
「できたよ、魔力付与」
「え、魔力付与───⁉」
───時は、一年前に遡る。
リィは本当に何気なく、ルッカに魔法の属性を聞いた。
「う・・・ん。よく分からないの」
「分からない?」
「何て言えばいいのかな・・・魔力が、無色なの。無色透明」
魔力が無色。つまりそれは、何の属性にも属さないということだ。今まで、聞いたことはなかった。
「魔力が属性に属さないなら・・・逆に言えば、何にでも対応できるはず・・・!」
そう考えたリィがルッカに試させたのが、『魔力付与』だった。
魔力付与とは、武器や防具などに特殊効果を付けることである。有名ではあるが、簡単に行えることではない。魔力の属性が弱い人───つまり、無色に近い人でなければ成功しないのだ。それでも失敗することは多い。
ならば、完全に無色の魔力を持つルッカが魔力付与を行えば、成功率は百パーセントになるのではないか、と。
リィの考えはあたり、ルッカは見事百発百中で成功させたのだった。
「・・・で、今皆の騎士服に『防御』と『ダメージ軽減』、『耐久力』の効果を付与してもらったの」
「「「「・・・」」」」
皆唖然として、普段騒がしい部屋は静まりかえった。
「私達の剣と、あと元リーシア王国の騎士達にも万が一のために剣を用意してあるから、それにも魔力付与してくれる?」
「分かった!」
───このとき、騎士達の考えは全員共通していた。
あそこだけ、世界が違うと。
自分達は、別世界の光景を見せられていると。
あんなに次から次へと魔力付与しているのは、普通じゃない。
「なぁ、俺夢でも見てるのかなぁ・・・」
「大丈夫だ。それなら皆仲良く夢の中だよ」
───止める方法が思いつかないなら、最善を選ぶための選択肢を増やす準備をしよう。
誰も失わないし、失わせないために。
そう心に決めるリィなのだった。




