~予兆~
1
合併してよかったと思うことがひとつある。
騎士団専用の建物ができた。
とにかくなにもかも広い。
そして、そんな新しい騎士団の一室で───
二日酔いの騎士達は机に伏せていた。
酒を飲めないリィと、あまり飲まなかったレイル以外は、全員である。
「急に出動する事態になったら、どうするの・・・」
リィは騎士達全員の机にカップを置いてゆく。
中身は蜂蜜とすりおろした生姜をお湯で割っただけのものだ。
「ああ・・・蜂蜜の甘さが五臓六腑に染みわたる・・・」
「それ飲みながら、仕事頑張って」
リィは騎士達を見渡すと、
「あれ、フォリアは・・・?」
「フォリアなら、数日前に休日申請してたからしばらく休みだよ」
「・・・フォリアって、休みの日何してるんだろ・・・」
首をひねり、リィは手をぱちんと合わせた。
「それよりも!二日酔いだからって、仕事も訓練も容赦しないからね!」
二日酔いの騎士達のために蜂蜜生姜湯を用意したリィが言うと、皆は苦笑いした。
───こうして、初日からリィへの好感度は急上昇したのだった。
2
合併してよかったと思うことがひとつある。
それは───
「騎士長、かっこいいし、優しいし、好みだなぁ・・・」
あの少女とともに仕事ができることだ。
元リーシア王国の騎士、ギルは宿舎のベッドで今日の出来事の数々を思い出していた。
そして、がばっと起き上がると───
「明日、さっそく告白しよう!」
もし、彼のまわりに人がいたらひいていたことだろう。そのうえで、言っていただろう。
「えっ、お前頭の中お花畑なの?」と。
残念ながら、ここはギルひとりの部屋。
彼の決意は止められないまま、朝を迎えたのだった。
で、今。
騎士達は微妙な表情をしていた。
「お願いしますっ!付き合ってください!」
「「お前、抜け駆けするつもりか・・・!」」
「「「え?」」」
皆の前で告白する騎士、抜け駆けに怒りを抑える騎士数人、それに驚く騎士達。
フリーデン王国の騎士の面々は、必死で笑いを堪えている。
「・・・あの」
「───」
「・・・ごめんなさい」
リィの謝罪に、部屋が静かになる。
「分かり、ました。でも、最後に」
「理由を教えてもらえませんか・・・?」
リィは嘆息した。
「───私、結婚してるの」
ギルだけじゃなく、リーシア王国の騎士達が沈黙した。
ギルが、震える声で問う。
「・・・誰と?」
「・・・レイルと」
驚きに目が見開かれる。
「「「なんでだあああああ!」」」
絶叫する騎士達を見て、ロートがヴェールに言った。
「・・・なあ、この光景どっかでみたよな?」
「ああ、見た。どこだったかは思い出せるようで思い出せないし、深く思い出したくない悲しい記憶だったろうと思うけど、どっかで見た」
「やっぱ、どこも一緒なんだな。急にあいつらに親近感わいてきたよ」
───気まずい空気の中で、一日は始まり、仕事がひと段落するころには皆疲れ果てていたのだった。
3
合併から一週間たち、リィはロートとともにフリーデン王国とリーシア王国の境にある村の様子を見に来ていた。
村に近付くと、なにやら怒鳴り声が聞こえてきた。
「こっちは俺達の村だ!」
「俺達のとこは、作物が採れない!少しくらい分けてくれたっていいだろう!」
「それは俺達だって同じだ!」
リィ達は言い合いをしている男にかけよると、
「何を争ってるの?」
男はリィの服装と騎士の証であるペンダントに目をとめ、
「お前・・・騎士なんだろう・・・?わざわざこんなとこを見に来て笑ってるのか?」
その瞳に浮かんでいるのは、憎悪に近い感情だった。そのまま、突き飛ばされそうになる。
「出て行け!見下されるために、俺達は生きてるわけじゃない!」
リィは息をのみ、
「・・・今日は、帰りましょう」
帰り道、リィは一言も喋らなかった。
そのまま騎士団の建物───通称『シュヴァリエ』───に入り、書類仕事場にしている部屋のドアを開ける。
「おかえり・・・どうかした?」
レイルがリィの強ばった表情に気付き、声をかけた。
「このままだと・・・」
「「「このままだと?」」」
騎士達の声が揃う。
「戦いが起こる・・・。人と人との、争いが・・・」
───部屋に、重い沈黙が落ちた。




