~レイリア国の誕生~
───酒を飲む会が終わって数日たったころ、国王陛下が人々に合併を発表した。突然の合併の話に人々は戸惑っていたが、日常の変化に希望を見た表情の者も少なくなかった。
そして、テセウスは準備に忙しくなって控室にもあまり顔を出さぬようになり───
一年たった今日。
正式にレイリア国が誕生し、新しい都はお祭り騒ぎだ。それは騎士達も例外ではなく、元リーシア王国騎士団の面々と交流している。
ただ、リィにはひとつ気がかりがあった。
リーシア王国の騎士達が、レイルとは目も合わせないのだ。自国の王に忠誠を誓ったはずなのに、すぐ他国の騎士団に入ったレイルに厳しい目が向くのは、仕方のないことかもしれないが。
騎士達の顔合わせ会で飲み物片手に考えていたリィは、後ろから声をかけられ、振り向く。
「貴方がフリーデン王国騎士長だろうか」
リィに声をかけてきたのは大柄の男だった。おそらく三十代後半だろう。短い藍色の髪の人物、と記憶をたどり、思い当たる名前を探し出した。
「はい。───リーシア王国騎士長のガドル殿でよろしいでしょうか」
大柄の男───ガドルは驚いたように眉をあげた。
「どこかでお会いしたことが?」
「いえ。・・・レイルの話していた特徴と同じだったので」
二人は手を差し出すと、強く握った。
手に力が込められ、リィも負けじと握りかえす。
───魔法のみを使うガドルと、剣と魔法で戦うリィの、どちらが強いのかは言うまでもないだろう。
「・・・噂に聞くとおり、さすがだな、『流星』。レイリア国騎士団のトップは貴方とレイルに任せる」
ガドルがそう言うと、リーシア王国の騎士達の不満げな呟きが漏れた。
「あんな少女に騎士団をまかせるってのか」
───精神年齢じゃ、あなたたちは私の半分にもみたないわ。
「剣を使いたいなら衛兵隊にいけってんだ」
───剣だけじゃなくて、魔法だって使えるし。
「どうせ苦労せずに生きてきて、遊び半分で騎士やってんだろうなぁ」
その一言に、耐えていたフリーデン王国の騎士達が激発する。
「お前ら騎士長の何を知って・・・」
「───騎士長を侮辱するな」
怒鳴り声を切り裂いて、冷たい言葉が響いた。
どちらの騎士達も黙り、声の主を見る。
薄青い瞳に滅多に見せない激情の色を浮かべたエイスが、リーシア王国の騎士達を睨んでいた。
この場でただひとり、リィの過去を追体験したことのあるエイスは、
「あんな少女?騎士長のほうが実力の面でも精神的な面でもお前らよりずっと強い」
隣国の騎士達は一斉に立ち上がるが、発言をエイスのまとう冷気が許さない。
「衛兵隊に行け?騎士長の魔法はこの騎士団の中で一番凄い」
「そして何より許せないのは」
エイスの目が激しい光を宿し、
「苦労してない?遊び半分?ふざけるな。騎士長のこれまでを、そんな生易しい言葉で片付けるな」
エイスが口を閉じても、誰も身動きしなかった。
「───すまない。全ては騎士長だった私の責任だ。リィ殿、非礼をお詫びする」
ガドルが頭を下げる。
「顔を上げて下さい」
「───」
「同じ騎士団の仲間になるのに、私が信用できないというのは問題があります。ですから」
「信用は実力で勝ち取る。───魔法戦で、戦って勝ってやる」
獰猛な笑みで、自分を侮った騎士達にリィは挑戦状を叩きつけたのだった。
一時間後。
レイリア国の新訓練場で、二十人程度のリーシア王国の騎士達がのびていた。全員意識はあるが、一撃をくらって悶絶している。
リィは彼らに軽く治癒魔法を使った。
騎士達はふらふらと立ち上がり、一列に並ぶと、
「「「「数々の非礼をお許し下さい、騎士長!」」」」
プライドの高い騎士達には、実力差を理解させ、教えを請いたいと思わせることが重要だ。逆に言えば、それができれば皆自分の側についてくれる、ということでもある。
「悪かったと思うのなら、これからの訓練で証明して」
良い返事をする騎士達に聞こえぬよう、呟いた。
「まあ、最初からあんまり怒ってなかったけどね・・・」
エイスは言いたいことを言えて満足げな表情だ。自分のことであそこまで怒りを露わにしてくれて実は嬉しかったりする。
───この日は夜遅くまで酒を飲み、翌日使い物にならない騎士が続出したのだった。




