~それぞれの思い5~
1
「ルッカ。話を、しよう」
ルッカとリィは、宿舎の部屋で向かい合わせに座っていた。
「ルッカ」「お姉ちゃん」
同時に口を開いてしまう。お互いに緊張しているせいもあるだろうが。
「お姉ちゃん。・・・ひどいこと言って、ごめんなさい」
リィは目を見開いた。続いた言葉に、さらに驚かされる。
「私」
「───お姉ちゃんの過去を見たの」
2
「・・・私の過去を、見た?どうやって・・・」
言いかけ、リィは自分で答えにたどり着く。
「エイスの追体験に、陰属性の幻影魔法をかけあわせれば、他人に過去を見させることができる・・・」
つまり、リィが部屋で閉じこもっている間に騎士達は騎士達で動いていたと、そういうことなのか。
「・・・どこまで、見たの・・・?」
「・・・全部。アルクスさんのことも、ミリアさん、アルトさんとカイルさんのことも、全部」
ルッカは顔を伏せ、
「私は、ずっとお姉ちゃんがズルいって思ってた。私だって良い思いをしてもいいじゃないかって」
「───」
「でも、それは間違ってた。私は何も知らないのに決めつけて、お姉ちゃんを傷つけた。・・・お姉ちゃんだけじゃない。サクリも、騎士の人達も、皆」
「───お姉ちゃんは、強いね。・・・私は、お姉ちゃんみたいにはなれないよ」
寂しげに、ルッカはリィを見て言った。
「私は、強くなんかないよ」
「強いよ。あの光景を見て、あの哀しみに触れて、前を向いて助けを求めている人を救おうとしているお姉ちゃんは、強い」
唇を噛み、下を向いたリィに、
「───お姉ちゃんが自分の強さを否定するなら、私は肯定するよ」
「何で・・・私は、ずっとルッカを・・・」
言葉が途中で途切れたのは、ルッカがリィの唇に人差し指をあてたからだ。
「私は、私の道を歩む。だから、もう大丈夫」
リィは、目を閉じた。
「───村に、言っておくわ。ルッカは元気で、少し帰りが遅くなるって」
「手紙じゃなくて、『言う』って聞こえたんだけど・・・いいの?もう少しここにいても」
「いいの。・・・やりたいこと、見つかるといいね」
リィと二人で騎士控室にいくと、騎士全員とテセウス、サクリがいた。
「皆ごめん、心配かけて。あと、ありがとう」
「無事に、仲直りできたみたいでよかったです」
ルッカは騎士達の前に出て、深く頭をさげた。
「迷惑をおかけして、すみませんでした。お姉ちゃんの過去を見せてくれて、感謝しています」
騎士達は和やかに頷いた。それを見て、ルッカはもう一度頭を下げる。
サクリの前に立ち、
「サクリ、ごめん。私、何も分かってないのに・・・」
サクリは首を横に振った。次いで、テセウスに向き直る。
「殿下。───ありがとうございました」
「・・・余は、そなたに感謝されるどころか、見限ったのだぞ」
「殿下にはっきり仰っていただけて、良かったです。ですから、感謝申し上げます」
テセウスは目をみはり、
「───そなた、ほんの数日で驚くほど変わったな」
「変わり、ましたか?」
「ああ。───そなたはリィやサクリにはなれない。そなたは、ルッカとして生きるのだ」
言葉が出なかった。ただ、涙をこらえ、何度も頷いた。
「姉妹三人揃いましたし、これからちょっとした会を開きませんか?」
ヴェールが提案した。騎士達も顔を輝かせ始める。
「良いな。───秘蔵の酒を持ってこさせようではないか」
騎士控室に酒のボトルやらつまみやらが運び込まれ、全員がグラスを持つ。酒が飲めないリィとルッカ、サクリ、リュナは林檎ジュースだが。
「それじゃ、世界と人々の安寧を願って。───乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
リィの乾杯の音頭にあわせ、グラスをカチンとぶつける音が響いた。
酒が回り、会は混沌状態に突入した。
それぞれの思いを知り、自分を見つめ直したこの数日は、辛かったが、きっと忘れないだろう。
自分達のために、多くの人が動いてくれた数日間は。
空を見上げると、夕暮れの光の中に、一番星が輝いていた。




