~それぞれの思い4~
1
リュナは、見知らぬ部屋にいた。付け加えれば、高そうな調度品の置かれた部屋、だ。
「リュナ、何かあったの?」
と聞いてくるのはサクリ。その横にはテセウスの姿もある。
───そう、ここは王城の、テセウスとサクリの部屋だった。
「リィおねえちゃんが、ずっとへやにとじこもってて・・・どうしたらいいのかわからないの」
二人が目を見開いた。
「お姉ちゃん・・・」
サクリが目を伏せ、テセウスが鼻を鳴らす。二人の反応の理由が分からないリュナは首を傾げた。
テセウスは瞑目し、黙って考えていたが───
「───リュナ、暫く王城にいるがよい」
「え、でもテセウス・・・いいの?」
サクリの驚いたような声に、
「リィはレイルに任せる。少し二人きりにさせてやるのもよかろう」
テセウスはリュナに近付き、クリーム色の髪をくしゃりと撫でる。
「サクリと二人で寝れるよう、部屋を用意させる。・・・リュナはそれで良いか?」
こくりと頷き、
「あの・・・ありがとう・・・」
微笑んで礼を言うと、テセウスが硬直した。
「・・・サクリ」
「どうかした?」
「───子供は・・・良いな」
やけにふやけた顔で、第五王子殿下はのたまったのだった。
2
レイルは寝室のドアをゆっくり開けた。薄暗い部屋で目をこらすと、リィが毛布にくるまって膝を抱えているのが見えた。
壁に近付き、魔道具に手をかざすと部屋に取り付けられているランプに光が灯った。
「リィ」
毛布の塊が僅かに身じろぎする。リィの脇に腰を下ろした。
「何か食べないと、体壊すよ」
「・・・レイル」
掠れた声が耳に届く。
「私は・・・何?私はリィになって、何をしてきたの・・・?」
レイルは答えられない。リィと共に過ごした記憶を、失ってしまったから。
「ルッカの、言うとおり・・・私は、楽しく毎日を過ごしてただけ・・・」
「違う!」
───何故か、強く否定しなければいけない気がした。根拠もない。だが、胸の奥で何か熱いものが主張し、レイルは声をあげていた。
「違う。どこからそう思うのかも全然分からないけど、それだけは絶対違う」
「でも、私は・・・」
「───楽しく毎日を過ごすだけなんて、どこの誰にもできないよ」
「───」
「どんな人でも、苦労を抱えてる。その苦労は他人と比べるものじゃない。自分だけのものだよ」
胸の熱さに任せ、唇から言葉を紡ぐ。
たった十年間の記憶しかない自分だけど、伝わるものがあると信じて。
「誰が何と言おうと、リィはリィだけの道を歩いていけばいいんだ」
リィの瞳が潤み、光の粒が宙に散った。
「僕をつなぎ止めて、寄り添う。そう言ってくれたよな。───僕も、リィをつなぎ止める。お互いに、寄り添って生きていこう」
あの日、レイルはリィの言葉にこれ以上ないほど救われたから。
同じ言葉で、返す。自分と同じように、助けになることを祈りながら。
大粒の涙を零すリィを引き寄せ、包み込む。
リィとの思い出はわずかでも、体が、心が知っている。こうして抱きしめるのは初めてではない。
「・・・ありがとう」
今までも、リィと支えあってきたのだろう。
これからも、そうだ。
ずっと。
二人の道が、寄り添い続ける限り。
3
宿舎のドアがノックされた。鍵をあけるとそこにいたのは───
「お姉ちゃん・・・」
「ルッカ。───話を、しよう」
もう、逃げない。
真っ正面からルッカに向き合って、話をする。
私に対して、ルッカも言いたいことがたくさんあるだろうから。
そして、今まで放っておいた分、寄り添ってあげたい。
───ひとりじゃないと、支えてくれる人がいると気付くことは、何よりの助けになるのだから。




