~レイル~
1
───レイルには、十歳以前の記憶がない。周囲の話では井戸に落ちたのだという。
レイルに声をかける人々は、皆加減していた。
記憶のことにふれぬように、傷つけぬようにしているのが分かるのだ。普通に接してほしかった。いつしかレイルは一日のほとんどを近くの森で過ごすようになった。
強く、なりたかった。周りの反応を切り捨てられるくらい、強く。
森でひたすら棒きれを振り、存在を知った魔法を独学で学び続けた、五年後。レイルは村を出て、王都へ向かった。騎士団の試験で騎士と模擬戦をし、難なく勝利した彼は入団することになった。魔法に長けた騎士長を上回る実力の持ち主として───さすがに騎士長にはならなかったが───知られるようになった。だが、『最強の騎士』と噂されるレイルに近付く者はいなかった。
自分より強い者はいない。そんな自分に声をかけてくれる者もいない。
レイルは、『孤独』だった。
寂しかった。
それを感じなくなるようにするために強くなったはずなのに、これでは。
───村にいたときと、何も変わっていなかった。
2
誰か、気楽に話せる人がいてほしい。
寄り添ってくれる人がいてほしい。
───それは、十歳のときから押し隠してきた、レイルの『弱さ』。
剣の練習に集中することで誤魔化してきた、『願い』でもあった。
だから、レイルはリィの剣技を見たとき思ったのだ。
───彼女なら。彼女なら、同じ立場の人間として扱ってくれるのではと。
3
リィが自分のことを追いかけてきたとき、レイルは疑問しかなかった。王子との面会という任を放り出してまで、自分のところにくる理由が分からない。その彼に、リィは言った。
「ありがとう」
自分に対して、真摯に、そしてどこか気軽に言われて。
気がついたら、リィを後ろから抱きしめていた。
───初めて、人のあたたかさを知った。
強くなろうと努力した道の先で、彼女に出会い、このあたたかさを知れたから。
無駄じゃなかった。報われたと、震えるほどに思った。
4
リィは、二つ名のとおり、『流星』だった。
だって、彼女は自分の願いを叶えてくれたのだから。
レイルは『流星』に願う。
───自分が彼女からもらったものと同じだけ、返せますように。




