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流星と寄り添う夜  作者: 璃依
本編
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68/92

~笑顔~

   1


「リィ。僕に、剣と魔法を教えて欲しいんだ」

レイルにそう頼まれたのは、朝食を用意している時だった。数日前にレイルはリィ達の家に戻ってきていたので、自宅のキッチンでの料理だ。

「剣と魔法を?」

「僕は騎士だったって言ってたよね。ちょっとでも記憶を取り戻すために、使えるようになりたいんだ」

リィは何かを考えた後、一度首を振って、

「───分かった。そのかわり、手加減はしないからね?」



   2


「・・・と、いうわけで、今日からレイルも訓練に参加するわ」

「皆にとっては久しぶり、かな。僕の治療をしてくれたのは皆だってリィに聞いている。───ありがとう」

騎士達全員が、驚いていた。───レイルの変わらなさに。

「記憶がなくても、俺達にとって副騎士長は副騎士長です」

誰よりも早く言葉を発したのはロート。彼は前に出て手を差し出すと、

「───これからもよろしくお願いします、副騎士長」

レイルはロートの手を握り、

「こちらこそ。・・・皆も、よろしく」



   3


初めのうちは長いこと体を動かしていなかったせいもあり、少しの運動で息が上がってしまったが、訓練をやりはじめて三日四日立つと、騎士達についていけるようになった。

剣を練習していた記憶がないので、基礎から習う。やってみるとすんなりと動けて不思議だった。体に動きが染みついているのかもしれない。

剣の修練は順調に進んでいったが、魔法はそうはいかなかった。魔法にはイメージが大切だ。幼い頃のおぼろげな記憶だけでは上手く想像出来ないのだ。風と陰の魔法を使えるヴェールに実物を見せてもらいながら練習を続けた。

夜遅くになっても、レイルは魔法を放とうとしていた。

失敗が続く中、魔力が枯渇しかけたので練習を中断して、地面に横たわった。



リィが訓練場を覗きこむと、レイルは中央で寝転がっていた。わざと足音を立てて近付き、

「あんまり無理しないで。最初上手くいかないのは当たり前のことだもの」

リィはレイルの隣に腰を下ろした。レイルはじっとリィの顔を見上げ、

「僕は・・・焦って、いるのかな」

レイルがぽつりと呟いた。

「怖いんだ。意識は十歳のときのままなのに、体は十八歳で・・・記憶が、全くないことが」


「僕は、どんな人間だったんだろう。八年間、どういう風に生きてきたんだろう。・・・なんにも、分からないんだ。自分っていう存在が消えてしまいそうで」

───そのとき、リィにはレイルが凄く小さな子供に見えた。

レイルの腕をとり、袖をまくると深い傷痕が露わになった。事故のとき負った傷だ。完全に塞がっているが跡は一生消えないだろう。

傷を指でそっとなぞり、

「───私は、レイルに記憶があるかどうかっていうのはあまり気にしてないよ」

「え・・・」

「だって、レイルはレイルだもん。今までのレイルとの思い出は、私がちゃんと覚えてる。夢じゃなくて、現実にあったことだって分かってる」

レイルの顔を覗き込んで目を合わせ、

「自分が消えてしまいそうだって言うのなら、私がつなぎ止める。記憶の空白が怖いなら、これまでのレイルを知ってる私が、寄り添ってあげる」


「だから・・・焦らずにゆっくり進んでいこう」

にこりと笑ったリィを見て、レイルが顔を覆った。



やがて、レイルは体を起こした。背中についた砂と土を払う。リィに微笑んで、

「ありがとう、リィ」

───それはもしかしたら、記憶を失って以来初めての、心からの笑顔だったのかもしれない。

少なくとも、リィはそう思った。

もっと良い言葉があっただろう。レイルの求めていた言葉ではなかったはずだ。

でも、たとえほんの少しでもレイルの助けになれたなら。

リィは横で支えることしかできない。ならば、その役目だけでもしっかり果たそう。

レイルが笑顔でいられるように。

二人は家に帰るために立ち上がったのだった。

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