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流星と寄り添う夜  作者: 璃依
本編
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65/92

~日常の変化~

   1


王都は大勢の人で賑わっていた。さまざまな店が建ち並ぶこのエリアは買い物客がほとんどだ。

「やっぱり人多いね」

「そうだな。・・・いつも思うけど、村とは比べものにならないな」

リュナと出会った日から、リィとレイルは頻繁に王都の見回りに来ていた。

突然、穏やかな昼下がりの空気を切り裂いて、悲鳴が上がった。見れば、大きな荷物をのせた馬車が道を外れ、人々の中に突っ込もうとしている。

リィはどうするべきか、迷った。迷ってしまった。───その刹那の逡巡を、後にリィは後悔することになる。

立ち尽くしたリィは、レイルの行動に反応が遅れた。レイルの方に手をのばすが指は空気をきった。

人も、馬車も、すべてがゆっくりと動く中、レイルの姿が掻き消え、猛スピードの馬車の先にいる人を突き飛ばし───


どすっ。

衝突の音は、やけに鈍く響いた。衝撃に吹き飛ばされるレイルが宙をまい、店先を破壊して止まった。

リィは声にならない声を上げて、レイルの傍に駆け寄った。

普段の冷静さを欠いたリィがレイルを揺するが、意識のない体はガクガクと不自然に揺れるのみ。

「・・・レイル!レイル、しっかりして!レイルぅ・・・!」

指先が金色の燐光を放ち、額から大量の血を流すレイルに力を与え続ける。

ようやく出血が止まり、リィはレイルを抱き上げてふらりと立ち上がると、他に重傷者がいない事を確かめて、群衆を押しのけ走り出した。

息を切らして騎士控室に駆け戻り、ドアを開ける。

「早かっ・・・副騎士長⁉何が・・・いえ、とにかく医務室に!」

医務室にレイルを運び、騎士達総出で治療を行ってどうにか容体が安定したのは、日も沈み、夜の帳が下りたころだった。



   2


コンコンと音がして、医務室のドアが開いた。

入ってきたのはロートとリュナ。ロートが呼びに行ってくれたのだろう。だが今は、感謝する余裕がない。

「レイルおにいちゃん・・・」

リュナが呆然と呟く。賢いリュナだから、何があったのか察したはずだ。

夜が更けても、リィはレイルを見つめ続けた。



一晩明け、太陽が眠るレイルの顔を照らす。

握ったレイルの手が、ぴくりと動いた。

レイルの瞼がゆっくり持ち上がる。朝の光に眩しそうに目を細めると、リィを見た。

「良かった・・・!レイル・・・‼」

安堵のあまり、自分の額にレイルの手を押し付けるリィに、

「・・・あの」

レイルは何度か瞬きし、それから言葉を発した。その様子に違和感を覚えながらリィは耳を傾け──










「───あなたは、誰ですか?」



   3


「・・・どうやら、記憶を失ってるみたいなの」

早朝の控室、集まった騎士達は一様に沈鬱な表情を浮かべていた。

「・・・何も、覚えていないということですか・・・?」

答えは顔を伏せたリィを見るまでもなく明らかだった。

「私が・・・私がもっと上手く・・・」

「騎士長・・・」

「また・・・まただ。アルクスにミリア、カイル・・・アルト・・・今度はレイルか」

己の足に爪を突き立て、血が滲むが、誰もそれを止められない。


「───レイルは、自分からそうしたのだ。リィが行動していても、レイルがリィにかわるか、両方になるかだろうな」

誰もが沈黙する中、いつの間にか入ってきていたテセウスが言った。その隣にはサクリの姿もある。

「記憶をなくしても、レイルはレイルだ。その本質は、変わらない」

リィは奥歯を噛みしめていたが、勢いよく立ち上がると、

「今一番不安なのはレイルだわ。──皆、いつも通りにレイルに接して」

打って変わって強い光を瞳に宿すリィに、

「───リィ。無理はするな」

最後に囁きかけてくるテセウスに頷いて、リィはレイルのもとに戻るために部屋を出た。

リィの横顔は強張っていたが、先程までの追い詰められた色はない。

幸せな日常は大きな変化をとげた。でも、まだ取り戻せる。取り戻せるはずだ。

───絶対に、こぼれ落ちないように。

不安と孤独の中にいるだろうレイルに寄り添う。

たとえ、私が分からなかったとしても、一人じゃないよと、あなたのことを大切に思う人がいるんだよと、伝えるために。


───『流星(リィ)』は、『(レイル)』に寄り添い続ける。

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