~ロートの仕返し~
ロートは自室で椅子に腰かけ、数日前のリィの誕生日の騒ぎを思い出していた。
あの日、さんざん笑われて控室を飛び出したロートはヒール靴をぬぐと、裸足で走り出した。誰にも会わないことを願いながら───
「おお、ロートではないか。今ちょうど控室に・・・む?」
終わった。
何でテセウス殿下に遭遇するのだ。
殿下はロートを上から下までじっくりと眺めてから、
「・・・余は他人の趣味を否定はしない。ただ・・・そなた、そのような嗜好だったのか・・・」
「勘違いしないで下さい!これは俺の趣味では───」
「分かっておる。・・・今度、そなたのためにドレスを届けさせようではないか」
「絶対分かってませんよね⁉」
テセウスの『思い込んだら話を聞かない』スキルが発動。
リィ達によって誤解がとけるといいのだが。
とにかく、これ以上人に見られる前にと一礼して再び走り出す。
自室に転がるようにして入り、ドアをバタンと閉めると、ロートはそのままずるずると座りこんだ。全力疾走し、少し乱れた呼吸を整えているうちに、ふつふつと怒りが湧き上がってくる。
一秒でも早く着替えるため、ワンピースの背中についているチャックを下ろそうとするが───
下りない。何度やっても同じ。
着るときはエイスに閉めて貰ったのだった。このままでは着替えられない。
ロートは控室に戻ることを余儀なくされ、頭を抱えたのだった。
ヴェールはあのあと謝ってくれたのだが、笑いものにされたことへの怒りはそうそう冷めない。あえて冷たく接していた。すぐ許して貰えると思われて、何でも要求されるようになったらたまらないからだ。
そんなとき。
ロサード村の結界が破れたとの連絡が入った。
戦い自体はすぐに終わったのだが、剣についた魔獣の血を布で拭っていると、後方で蹲るヴェールの姿が見えた。負傷したのか、と思ったが、様子が変だ。
小刻みに震え、己の体を抱くその姿は、恐怖を起因としたものに見えた。
「ヴェール」
僅かに逡巡し、彼の名を呼ぶが、俯けられた顔が持ち上がることはない。ただ、ごく小さい声でロートの名前を呼んだのが聞こえた。
らしくない掠れた声に、迷いを押しやってヴェールの腕を掴み、背負う。
「な・・・んでだ」
「───確かにお前にはいろいろ言いたいことがある。主に女装の件だ。あれは本当にふざけるな」
許したわけではない。許したわけではないが───
「でも、俺とお前は友人だろ。友人が辛いときは背負うくらいするさ」
ヴェールが息をのむ音が聞こえた。
しばらく沈黙が続き、
「・・・ロート」
「悪い。───ありがとう」
ロートは振り返ってヴェールの顔を見るようなことはしない。
ただ、しょうがないなと思い、歩きだした。
ロートは椅子から立ち上がると『あるもの』を用意し、ドアを開け、廊下に出た。ヴェールの部屋のドアをノックする。昨日はリィやレイルと出かけていたが、今日はちゃんといるようだ。ドアががちゃりと開いて、出てきたヴェールに───
「くらえっ!」
「うおわっ」
見事にパイ投げ用のパイがヴェールの顔面にあたり、してやったりと笑うと、
「女装のお返しだ」
ヴェールはロートが差し出したタオルで顔を拭う。二人は目を合わせ、吹き出した。
二人で大笑いしながら、ロートは良かった、と思っていた。
───ヴェールはロートにとって大切な、気の置けない友なのだから。
その数日後、テセウスからロートのもとにドレスが届いた。王城の衣装部屋にあったものをくれたらしい。・・・やはり、誤解はとけていなかった。
ヴェールへの仕返しはもっと派手にやれば良かったと、後悔するロートなのだった。




