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流星と寄り添う夜  作者: 璃依
本編
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63/92

~ロートの仕返し~



ロートは自室で椅子に腰かけ、数日前のリィの誕生日の騒ぎを思い出していた。



あの日、さんざん笑われて控室を飛び出したロートはヒール靴をぬぐと、裸足で走り出した。誰にも会わないことを願いながら───

「おお、ロートではないか。今ちょうど控室に・・・む?」

終わった。

何でテセウス殿下に遭遇するのだ。

殿下はロートを上から下までじっくりと眺めてから、

「・・・余は他人の趣味を否定はしない。ただ・・・そなた、そのような嗜好だったのか・・・」

「勘違いしないで下さい!これは俺の趣味では───」

「分かっておる。・・・今度、そなたのためにドレスを届けさせようではないか」

「絶対分かってませんよね⁉」

テセウスの『思い込んだら話を聞かない』スキルが発動。

リィ達によって誤解がとけるといいのだが。

とにかく、これ以上人に見られる前にと一礼して再び走り出す。

自室に転がるようにして入り、ドアをバタンと閉めると、ロートはそのままずるずると座りこんだ。全力疾走し、少し乱れた呼吸を整えているうちに、ふつふつと怒りが湧き上がってくる。

一秒でも早く着替えるため、ワンピースの背中についているチャックを下ろそうとするが───

下りない。何度やっても同じ。

着るときはエイスに閉めて貰ったのだった。このままでは着替えられない。

ロートは控室に戻ることを余儀なくされ、頭を抱えたのだった。


ヴェールはあのあと謝ってくれたのだが、笑いものにされたことへの怒りはそうそう冷めない。あえて冷たく接していた。すぐ許して貰えると思われて、何でも要求されるようになったらたまらないからだ。

そんなとき。

ロサード村の結界が破れたとの連絡が入った。

戦い自体はすぐに終わったのだが、剣についた魔獣の血を布で拭っていると、後方で蹲るヴェールの姿が見えた。負傷したのか、と思ったが、様子が変だ。

小刻みに震え、己の体を抱くその姿は、恐怖を起因としたものに見えた。

「ヴェール」

僅かに逡巡し、彼の名を呼ぶが、俯けられた顔が持ち上がることはない。ただ、ごく小さい声でロートの名前を呼んだのが聞こえた。

らしくない掠れた声に、迷いを押しやってヴェールの腕を掴み、背負う。

「な・・・んでだ」

「───確かにお前にはいろいろ言いたいことがある。主に女装の件だ。あれは本当にふざけるな」

許したわけではない。許したわけではないが───

「でも、俺とお前は友人だろ。友人が辛いときは背負うくらいするさ」

ヴェールが息をのむ音が聞こえた。

しばらく沈黙が続き、

「・・・ロート」


「悪い。───ありがとう」

ロートは振り返ってヴェールの顔を見るようなことはしない。

ただ、しょうがないなと思い、歩きだした。



ロートは椅子から立ち上がると『あるもの』を用意し、ドアを開け、廊下に出た。ヴェールの部屋のドアをノックする。昨日はリィやレイルと出かけていたが、今日はちゃんといるようだ。ドアががちゃりと開いて、出てきたヴェールに───

「くらえっ!」

「うおわっ」

見事にパイ投げ用のパイがヴェールの顔面にあたり、してやったりと笑うと、

「女装のお返しだ」

ヴェールはロートが差し出したタオルで顔を拭う。二人は目を合わせ、吹き出した。

二人で大笑いしながら、ロートは良かった、と思っていた。

───ヴェールはロートにとって大切な、気の置けない友なのだから。


その数日後、テセウスからロートのもとにドレスが届いた。王城の衣装部屋にあったものをくれたらしい。・・・やはり、誤解はとけていなかった。

ヴェールへの仕返しはもっと派手にやれば良かったと、後悔するロートなのだった。

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