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流星と寄り添う夜  作者: 璃依
本編
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59/92

~通りすがりの流星~

   1


───荒い呼吸を繰り返し、フロルは走っていた。

服は破け、泥で汚れている。周囲が嫌そうな表情で避けていく。

走って、走って───


「どう、したの?」

フロルは金色の輝きに出会った。



   2


フロルはソファーに座っていた。あれからリィと名乗る女性に連れてこられたのだ。シャワーを貸してくれ、新しい服まで渡してくれた。

「それで、どうしたの?」

「・・・私は、フロルと言います」

名乗ってから、話し始める。

「私は、王都の近くのロサード村に住んでました。私の家は近所の家より少し裕福で、羨ましがられてました・・・」

突然。本当に突然だった。

───幸せな暮らしが消え去ったのは。

「両親はたまたま王都に来ていて・・・馬車の事故に巻き込まれて」

何もかもを失い、哀しみに沈むフロアに対する、周囲の態度が豹変した。

会えば笑顔を向けてくれていた人々は、いい気味だと、冷たい笑いを───否。

冷たい『嗤い』を浮かべていた。

これは、まだいいほうだった。

村の子供達には石を投げられ、男達には暴力を振るわれた。

「もう、村にはいる場所がない。・・・行くあてもなく王都をさまよっていたときに、リィさんに救われたんです」

リィはしばらく無言だったが、不意に立ち上がる。

「許せない。何だそれ」

「───」

続く言葉はフロルにとって予想外のものだった。

「これからロサード村に殴り込みに行く。───道案内をお願い」



   3


しとしとと雨が降る中、リィはフロルを連れてロサード村に向かった。

村はぼろぼろで、状態はあまり良くなかった。

村の人々がリィを物珍しそうに見ている。

「あ、ちょっとあっち行ってきていい?」

言うやいなや、リィは駆けだしていく。それをフロルは唖然と見送るしかない。

いや、それよりも。外からきたリィがいなくなったなら。

「───村を出てった時より、良い服着てんじゃねぇか」

思い切り突き飛ばされ、泥水の中に倒れ込む。

「あ・・・」

リィから貸してもらった服が、茶色く汚れてしまった。呆然と水溜まりに座りこむフロルに、子供達が石を投げる。痛みに備え、体を固くして───

いつまでたっても、痛みがやってこない。

おそるおそる、目を開けると。

リィが、フロルの前に立っていた。リィとフロルの周りには、金色の膜が張ってある。

石を投げた子供達は、腕や足を押さえて呻いている。リィの膜が石を跳ね返し、子供達に当てたのだ。当てた場所も、大怪我しないように体の末端部。

リィは膜を消すと、声を発した。

「子供達。痛いでしょう?」

子供達は痛みに涙目になりながらも、何を言われるのだろうと身構えた。

「それが、フロルの味わってきた痛みよ。あなたたちが石を投げて受けた痛み」

リィは大人達に向き直ると、

「両親をなくした彼女に、あなたがたは何か慰めの一言をかけた?あげたのは嘲笑と暴力でしょ?」

リィの一言一言で、心の中のわだかまりが解けていく。

「───ふざけるな!いい格好した女が俺達の何を知ってるって言うんだよ!苦しみも辛さも味わったことなんてねぇくせに!」

「───」

「哀しみも知らないくせに・・・偉そうな口きくんじゃねぇ!」

その言葉は、聞き流せない。

「私は、ずっと見てきたわ」


「守ると誓った相手が、目の前で命を落とすところを」

「・・・!」

「苦しみも辛さも、哀しみも、全部味わった。───だから、偉そうなことを言う」


「フロルをいじめてるのは、あなたたちの八つ当たりよ。自分の苦しみを紛らわせる、ただの八つ当たり」

「分かってる。俺達だって分かってるさ。これがただの、八つ当たりってことぐらい!」


「なら・・・なら!お前がどうにかできるのかよ!作物が上手く育たねぇこの土地を・・・!」

やれることは、彼らがやってきたのをフロルも見ている。リィにどうにかできるとは思えない。

「王都に、作物を研究している方がいる。その方に、助けてもらえないか頼んでみるわ」

村人達が、目を見開いた。

「そのかわり、心を入れ替えて励みなさい」

微笑んで言うリィに、皆は涙を浮かべて何度も何度も、頷いたのだった。



「リィさん。私は、村に残ります」

「───いいの?」

「はい。私が村人達の生活を知りながら、幸せな暮らしをしていたのは事実ですから」

リィはにっこり笑って、フロルの意思を尊重した。

「頑張ってね。困ったことがあれば、いつでも来ていいわよ」

「ありがとうございます」

村を出て行こうとするリィを、ひとりの村人が呼び止めた。

「お前は・・・あなたは、何者なんですか?」


「私?私は───」


「通りすがりの『流星』よ」

騎士とは名乗らない。何故なら、そっちのほうが格好いいから。

雲の隙間から、光が差し込む。

後ろを振り返ると、村人達が涙ながらにフロルに謝罪しているのが見えた。

雨上がりの空気を吸い込み、水滴のついた草を踏みしめて、リィは歩きさったのだった。



後に村人達はリィが騎士長だと知って驚愕するのだが、それはほんの少しだけ先の話。今はまだ、ただのリィであった。

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