~ロートの災難~
1
控室は、張り詰めた空気が流れていた。
「───やれ、ロート」
「嫌だ」
「お前がやらないなら、誰がやるんだよ」
「・・・ヴェールがやればいいだろう」
「俺はロートがやったほうがいいと思う」
互いに意見を変えず、部屋の温度が下がっていく。
「ロート‼いい加減諦めて───」
「女装しろ!」
事の始まりは騎士長と副騎士長が休みをとって居ない日の休憩時間、三日後に迫ったリィの誕生日に何かサプライズをしようとヴェールが言い出したことだ。そこでヴェールが提案したのが───女装。誰にさせたいか多数決をとったところ、自分以外の全員がロートを指した。
多数決なんて公平じゃない。少数の意見は聞き入れてもらえず、いつだって『数』に負ける。
多数決が良い方法だと思えるのは、大勢と同じ意見に属している者だけだ。
ロートは今まで多数決で良い思いをしたことはない。自分は人と変わっているのだろう。いつもそう思って諦めてきた。
───だが。
今だけは全力で抗わねばならない理由がある。絶対に女装などするものか。
そして、最初に戻る。
「どうしても、嫌だって言うのか」
「・・・ああ」
「分かった」
ヴェールが目を閉じ、頷いて───
「なら、エイスと二人で女装だ」
「「はぁ?」」
「よし、決定!」
ロートとエイスを除く面々が拍手した。
───あいつら、覚えてろよ。
三日間はあっという間にすぎ、リィの誕生日になった。いつものように出勤してきたリィを待ち構える。足音が近づき、ドアがガチャリと───
「「「騎士長、ハッピーバースデー‼」」」
騎士達にリィが囲まれているころ。
ロートとエイスは控室の隣の空き部屋にいた。二人の前には二人分のワンピースとメイク道具。
「・・・やりたくない。やりたくはないが・・・」
エイスとため息を交わし、
「やったろうじゃねぇか‼」
少々荒っぽく気合いを入れると鏡に向きなおったのだった。
2
リィはドアを開けると同時に大声を浴びせられ、心臓が止まるかと思った。ばくばくいう鼓動を深呼吸で宥めつつ、騎士達からプレゼントを貰い、雑談をしていた。ふとあることに気付き、ヴェールに声をかける。
「あれ、そういえばロートとエイスは?」
「今日は休むそうです。心配しなくて良いと」
レイルが僅かに眉を上げたが何も言わず、リィは休みだという言葉をすぐに信じた。
それから、いつも通りに仕事をして。
お弁当を広げ、いざ食べようとしたとき。
コンコン、と扉がノックされた。リィは首を傾げながらドアを開け───
「───」
全員が、息をのんだ。
水色の長い髪の毛。薄く唇に朱が入り、凜とした雰囲気を醸し出している。紺色のワンピースもよく似合っていた。
「───エイス、なの・・・?凄く、綺麗・・・」
リィの一言で騎士達が我に帰った。それほどまでに、エイスは美しかった。
エイスはワンピースの裾をつまみ、片足を斜め後ろに引いてカーテシー。流れるような動作に目を奪われる。
「・・・エイス、前にも女装したことあったのか?」
思わず呟いたヴェールの額に向けて氷の飛礫が放たれた。
女装エイスに見とれていると、再びドアがノックされる。
「・・・まさか」
リィがゆっくりドアを開ける。
「・・・ぷっ」
「あははっ・・・!ロ、ロート、それ・・・!」
リィが堪えきれずといったように笑う。リィの笑い声を聞いて、他の騎士達も吹き出した。
「お、おま・・・ロート、面白すぎる・・・!」
端的に言おう。
全然似合ってない。
もともとロートは男っぽい顔つきなのだ。その顔のまま───多少化粧はしてるものの───赤いワンピースを着て、ヒール靴を履いているのだ。これが笑わずにいられるか。
レイルはちょうど水を口にしたところらしく、気管に入れてむせていた。ヴェールは机をバンバンと叩いて爆笑中。エイスでさえもテーブルに伏せて肩を震わせている。ロートは顔を真っ赤にすると、ヴェールの足を細いヒール部分で踏みつけ、ドアへ向かった。が、慣れない靴で転ぶ。靴が脱げた。爆笑。
部屋を出て行ったロートを見送り、騎士達は息をついた。腹の底に可笑しさが残っている。
騎士達は顔を見合わせ、また吹き出す。そうしてひとしきり笑ってから、ロートを慰めるために立ち上がった。
ロート的には不本意だろうが、リィにとっては楽しい一日になったのだった。




