~『鬼』士長の癒し~
1
いつものように訓練をしていると、レイルによばれた。
「リィ、新しい闇魔法、作ってみたんだ」
「おー、やってみて!私にやっていいから!」
「ああ。・・・まずは、普通に走ってみてくれるか?」
言われたように走り、振り返る。レイルは頷き、リィに手をかざした。
黒い靄のようなものがリィの足にまとわりつく。
何が変わったのか分からず首をひねるリィにもう一度走るように言った。
「あっ・・・!」
見るからに速度が落ちている。それでも速いが。
リィの魔法を解くと、レイルは近づき、
「移動速度を一時的に下げる阻害魔法だよ」
「凄いよ、レイル!」
個々に訓練をしていた騎士達が集まってくる。
「実はもう一つあるんだ」
魔法が発動する。すると───
「───く」
リィが膝をついた。それだけでは耐えきれず、両手で支える。
「騎士長⁉」
「重い・・・っ」
「リィの体にかかる重力を、強くしたんだよ」
「せ、説明は、いいから早く、解除して・・・!潰れる・・・!」
魔法が解けてもリィはその体勢のまま荒い息を繰り返していた。
レイルの手を借りて立ち上がったリィは汗で張り付いた髪を整える。
「あの鬼・・・じゃなくて、厳しい騎士長がそこまで・・・」
「何か言った?ヴェール?」
「い、いえ何も」
「レイル、ヴェールも体験したいって。お願い」
レイルの魔法を喰らったヴェールが地面に張り付く。必死に腕をあげようとするが震えるだけで動かない。
解放されたヴェールがゆっくり上体を起こし、
「訂正。・・・騎士長だから、膝と手をついただけで済んでる」
騎士達の表情が驚愕から納得と呆れへと変化していく。
「これはともかく、移動速度低下は訓練に使えるかも」
「・・・騎士長の『き』は『騎』ではなく、『鬼』のような気がします」
幸いなことに、ロートのそんな呟きはリィに聞こえなかったようだった。
2
「ただいまー!」
ドアを開けると、ガチャバタンという音がしてリュナが小走りに駆け寄ってきた。その後ろにはひとまわり大きくなったルアの姿がある。
ルアはリィの足にすりすりと柔らかい毛をこすり付ける。その隙を狙ってレイルがルアに手を伸ばすが───
ペしっ。
猫パンチされた。
しょんぼりするレイルにリィは、
「爪を出していないだけ、マシでしょ」
爪ではなく、肉球でやるあたり、ルアも加減しているのだ。さすがに悪いと思ったのか、ルアはぴょんとレイルの肩に跳び乗り、しっぽで頬をさっと撫でた。
「ルア・・・!」
レイルの声にびくっとすると、ルアはリュナの足元に戻った。
くあっと欠伸してころんとお腹をみせるルアはリィ達の癒しなのであった。




