~祈り~
1
「どうしよう。緊張する・・・」
「リィが緊張してどうするんだよ」
「だって、明日は!」
「明日はサクリとテセウスの結婚式なんだよ!」
結婚式の前日で、リィは何だか落ち着かない気分を味わっていた。自分の結婚式より緊張している気がする。
「そんなに緊張しなくても、サクリちゃんは大丈夫ですよ」
その場をぐるぐる回り始めたリィに声をかけたのはロートだ。
「でもさぁ・・・」
「それより、早く訓練場に行きましょう。イリス様も待ってます」
素直に頷いて歩き出したリィの足が、ずるりと滑った。
「きゃっ」
倒れ込むまではいかなかったが体勢を崩したリィに、
「・・・騎士長、落ち着いてください。サクリちゃんの前に、俺はあなたが心配です」
「まったくもって同感」
ロートとレイルは互いの肩に手を置き、何やら通じ合っている。今度は滑らぬように、ゆっくりと訓練場に向かうリィだった。
2
イリスが自身の回りに虹色の結界を張った。リィの魔法に耐えきれることを確認し、
「うん。魔力量の調整もしっかりできてる。・・・今度は『強化』してみて」
強化とは、対象に虹の魔力を注ぎ込み、一時的にステータスを上昇させるのだ。
虹の魔法は破壊というものではなく、万物に力を与えるものだ。守り、強化する。バファーにぴったりな魔法だ。
イリスの強化で、リィの体は淡い虹色に包まれている。試しに軽く地面を蹴ると、そのまま数メートルを一瞬にして移動してしまう。
「イリス!凄いわ!」
思わずイリスに駆け寄ってハイタッチしてしまう。
兄の作り出した魔法を、イリスに伝えることができた。
これが、誰かの役に立ちますように。
リィは頭上を見上げ、祈った。
3
翌日。
雲一つない青空の下、式は行われた。真っ白なウェディングドレス姿のサクリは眩しくて、小さかったサクリが結婚するという事実が迫ってきた。
式が無事終わり、披露宴に移る。
披露宴が進み、料理も食べ終えた頃。
「新婦のお姉様、一言お願いします!」
「へ?わ、私?」
リィは慌てて立ち上がると、
「私は、サクリの姉のリィと申します。まずは、二人共、結婚おめでとう」
緊張した様子を見せず、堂々と話し始めた。
「私は十五歳で王都に来たので、幼い頃のサクリの印象のほうが強いです。だから、こうしてドレス姿のサクリを見ると、不思議な気持ちになります。自分がいない間にサクリも大人になったんだなぁと」
「二年間ほったらかしにしたのに、再会したとき、お姉ちゃんって呼んでくれて、とても嬉しかった。ありがとう」
次いで、テセウスの方を向き、
「テセウス。私は、あなたに何度も救われてきました」
テセウスと呼び捨てにするのに驚いた皆が眉を上げる。ただ、騎士団の面々はだまって聞いていた。
「レイルとの結婚式のとき、テセウスは一番最初におめでとうと言ってくれて。友と呼んでくれて。今度は、私が祝福する番です」
「───」
「───本日は妹と我が友のためにお集まりいただき、誠にありがとうございます。そして」
「サクリ、テセウス、本当に結婚おめでとう。───末永く、お幸せに」
リィが一礼し、席に着くと割れんばかりの拍手が響いた。誰もがリィのスピーチに聞き入っていたのだ。リィは隣のレイルだけに聞こえる声で言った。
「緊張、した・・・」
「そんな風には見えなかったよ」
「足が震えて・・・おかしな事言ったらどうしようって」
スピーチでは言わなかったが、リィはずっと、テセウスに申し訳なく思っていた。テセウスの想いに応えられないのに、友だと言い、辛いとき、悩んでいるときはいつだって励ましてくれた。テセウスに何か返したいと考えていた。
でも、今日の二人を見て。
サクリとテセウスを祝い、応援することが、何よりのお返しだと気付いた。
二人の幸せそうな顔を、目に焼きつける。
私は神や運命を信じないが、今、この瞬間だけは。
───新郎新婦の道筋に、光があらんことを。




