~リィの苦悩~
1
「あの、騎士長」
「何?」
「聞きたいことが」
「イメージ力でどう鍵開けを行ったのか説明して下さい‼」
「ああ、あれ?」
───あれってレベルの行動じゃないんだけどなぁ。
「宿舎の部屋の鍵は全部把握してるから、それを魔力で再現して開けただけよ」
聞き捨てならないことをきいた気がする。
「ぜ、全部把握─────────⁉」
一つや二つではないのだ。数十個もある鍵を僅かな誤差もなく記憶し、合鍵を作り出すなど───
「・・・うちの騎士長は、人間の範疇を超えている」
不可能だ。あり得ない。だが確かにロートはドアが開くところを見た。
「どこまでいくんだろう、騎士長・・・」
人を超え、彼女は何になるのか。
恐ろしいと同時に、見たいと思った。
隣で、とは言わないが、後ろから追いかけていきたい。そのためには───
「俺に、剣を教えてくれませんか」
リィは目を見開く。それから、
「分かった。どのみち、皆にもやってもらおうと思ってたの。でも、昼間はイリスの訓練がある。───夜は、どう?」
「お願いします!」
2
はぁ、はぁという自分の呼吸音が響く。
「もっと速く!あと十周!」
剣を学びたいというロートにかせられたのは、『走る』ことだった。
走り終わり、地面に倒れ込む。ひんやりとしめった土が心地良い。
少し休憩し、足さばきの練習に移る。
疲れ切った足はもつれ、思うように動かない。それでも、ひたすら繰り返し続ける。もっと刻み込め。もっと───
「はっ!」
目が覚めた。見えたのは、自室の天井。
「夢・・・?痛っ・・・」
体を起こそうとすると、全身の筋肉が悲鳴をあげた。あれは夢ではない。現実だ。
「騎士長が、運んでくれたのか・・・」
昨日の夜を思い出して、げんなりした。
「ん?」
ふと窓に目をとめると、暗い。
「夜、なのか・・・?」
なら、今はいつなんだ。何時間眠っていたのか。
───そのころ。
「リィ」
「うっ・・・」
「さすがにやりすぎだ。疲れきって二日も眠り続けるような運動をいきなりさせるなんて」
「・・・ごめんなさい」
レイルはため息をついた。リィは俯き、
「思い、出したの」
囁くような声を聞いて、レイルはリィの顔を覗き込んだ。
「思い出した・・・?何を?」
「他者の過去で苦しんでたエイスを助けるために、私は・・・」
「救えなかった皆を・・・思い出したの」
3
「救えなかった、皆・・・」
「私は、弱くて・・・強くなるために、無茶なことばかりしてたの。その感覚でロートに・・・」
「リィは、弱くなんてないよ。救えなかったのも、リィのせいじゃ───」
「皆、レイルと同じように言ってくれた」
「───」
「リピアのせいじゃないって」
「でも、どんなにそう言って、ひとりじゃないって言ってくれても」
「───私が守れなかったことに、変わりはないの」
深く息を吸い、
「私は、エイスのように、それで納得できない」
同じことを、同じように感じていても、考え方はさまざま。思いは、けっして同じではない。
「・・・もし、自分が死んでも、皆が助かる道があるなら、そっちを選ぶのか」
レイルは押し殺した声で問うた。
「・・・うん」
「その結果、周りの人が───」
「だって、私は・・・っ!」
レイルの声を遮り、リィは叫んだ。
「私はもう、誰かが失われるのを見たくないんだ・・・‼」
「足掻いて足掻いて、方法がそれしかないなら・・・私の命で救われるなら、私は喜んで差し出す」
「・・・リィ」
「でもそれは、未来の話よ。もういない皆に、『もし』なんてない・・・!」
レイルはリィが、何十年とたった今でも苦しんでいたことを悟った。
レイルは何も言わなかった。
ただ、震えているリィの体を強く引き寄せた。リィは抵抗せず、むしろ縋りついてきた。
リィは、ずっとこの思いを誰にも言わず、悩んできたのだろうか。
守れなかった記憶とともに、強くなることだけ求めて、歩んできたのだろうか。
これは、誰かが教えてやれることじゃない。
リィが自分で、折り合いをつけていくしかないのだ。
震える声で誰かの名前を呟くリィを、レイルは抱き続けていた。




