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流星と寄り添う夜  作者: 璃依
本編
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47/92

~Not Alone~

   1


「あれ・・・?ねぇ、誰かエイス見てない・・・?」

「見てないけど・・・もうそろそろ時間なのに、珍しいな」

聞くと誰も見ていないという。

「騎士長、ちょっといいですか」

ロートと共に控室を出る。

廊下の壁に背をあずけ、ロートに話を促した。

「実は・・・昨日のエイスの目が、気になってまして」

「目?」

リィはロートの話を聞くと、眉をよせた。しばらく俯いて考えると、顔を上げる。

「確かに、それは気になるわね。・・・ロート、エイスの家分かる?」

「エイスは宿舎にいるのがほとんどです。奥さんもいますが、今は離れて暮らしているみたいですよ」

リィは頷き、控室のドアを開けて、

「ごめん!エイスの様子みてくる!昨日の今日で悪いけど、お願い!」

「分かりました!・・・イリス様は⁉」

「魔力を操る練習をするようにと伝えて!なるべく早く戻るから!」

そう言って走り去っていくリィとロートの姿を見て、騎士達は思った。

・・・ああ、すぐには帰ってこないな、と。



   2


エイスの部屋は宿舎の奥だった。

コンコンとノックしても返事はない。

「エイス、いるの?入るわよ」

ドアノブをひねるがカギがかかっていて開かない。リィは目を瞑り───

ガチン、と音をたててドアが開いた。

「えっどうやったんですかそれ」

「イメージ力」

この場は追求しないことにして、部屋の中に入る。

部屋の中は無人に見えた。だがすぐに棚の陰に薄青の髪を見つけた。

「エイス」

エイスの目がリィを見る。

「・・・ろ」

「エイス・・・?」

「・・・めろ・・・やめてくれ・・・」

エイスの目は確かにリィに向けられているのに、彼はどこか別の場所を見ているようにみえた。

「なんでみんな・・・俺を、おいて・・・っ・・・なんで」

「エイス‼」

リィはエイスの頬を両手で挟み込み、彼の目をのぞき込む。

ずれていた焦点が合い、エイスは掠れた声を絞り出した。

「騎士・・・長?」



   3


「それで・・・説明、できそう?」

エイスが落ち着いたのを見て、リィが声をかけた。エイスはびくりと体を震わせ、話し始める。

「俺は・・・他者の過去を見ることができる」

「他者の・・・過去を?」

「見るというよりは、追体験に近い」

エイスが言うには、普段はなんともないのに突然他者の映像に意識を奪われるらしい。そのときは自分が『エイス』ではなくなり、記憶の持ち主になる。

追体験。

記憶として流れ込んでくるわけではなく、視覚・聴覚・嗅覚など、全てあるのだという。

「エイス。辛いかもしれないけど、聞いていい?」

「───」

「あなたは、誰の過去を追体験したの?」

エイスの視線が、リィからそれる。

「・・・ロート」



   4


ロートは、衝撃を受けていた。

あの場面をエイスは追体験したというのか。

あの哀しみを、後悔を、怒りを、エイスは同じように味わったというのか。

隣のリィも同じ考えにたどり着いたらしく、微かに肩を震わせている。

草が生い茂り、人の気配のない村が、否応なしに思い出されて───

再び、エイスの瞳が焦点を失った。

リィはぱちんとエイスの頬を張って『エイス(自分)』に戻すと、

「もしかして」


「近くにいる誰かが過去を思い出すと、それを追体験、しているの・・・?」



   5


重い沈黙が空間を支配していた。

「エイス。・・・やってみたいことがあるの」

リィは目を伏せ───

エイスの目がうつろになり、過去を体験しているのが分かる。

「騎士長?何を・・・」

「まあ、見てて」



エイスは森を歩いている。いや、俺は───『(リピア)』だ。

私は兄と並んで森を歩き、花を見つけてつい結界を出てしまった。

魔獣が私に襲いかかる寸前、兄がかわりに牙を受けた。

「何で・・・何でよ・・・」


「私の・・・私のせいだ」



場面がとぶ。

「ごめん・・・ごめんね・・・あともう少し早く手を伸ばしていれば・・・」


「守れなくて・・・私が弱いせいで、ごめんなさい・・・」


「また・・・助けられなかった。あれだけ繰り返して、まだ、私は・・・っ」

後悔の、謝罪の、自己嫌悪の、声が。

延々と零れ続ける。

どこから?

自分の、口から。

もう、見たくない。

救えなかったものの広がるこの光景を、見たくない。

見たくない。聞きたくない。嗅ぎたくない。感じたくない。知りたくない───


温かい感覚に、包まれた。

「リピア」

アルクスの体。

手を、握られた。

(リピア)の父と母。

背を、撫でられた。

「リィ」

(リィ)の母。

サクリ、ルッカ。

テセウス。

騎士団の皆。

イリス。

リュナ。

そして、レイル。


「あなたは、ひとりじゃない」

「───」

「寄り添ってくれる人がいる」


恐怖ではなく、温もりを持って。

『私』は───『(エイス)』へと、帰還した。

「エイス?大丈夫?」

「大丈夫」

目を閉じ、温もりを思い出す。

この温もりがある限り。

どんなに辛く、苦しい過去を見ても、もう怯えない。

だって、俺には頼れる仲間がいるのだから。

ひとりじゃないと、言われたばかりなのだから。

まっすぐリィを見て、言った。

「俺は、大丈夫だよ」



   6


「あっ騎士長!エイスも!」

「何で俺は呼ばないんだ・・・」

ロートがぼやくが誰も聞いていない。かわいそうな奴め。

それはともかく、エイスは皆の前に立つと、

「・・・迷惑かけて、悪かった」

「───」

「それと、俺は弱い。だから・・・頼って、いいか・・・?」


「何を言ってるんだよエイス。俺達は、仲間だろ?」

ヴェールがエイスの肩に手をのせ、言った。

エイスは顔を泣き出す寸前のようにくしゃりと歪めると、頭を下げて、

「あり、がとう・・・本当に・・・」

俺は、ひとりじゃない。だから、前を向ける。

過去なんて思い返す暇なんかないぐらい、楽しい未来を、俺は仲間と歩むのだ。

雲の間から光が差し込み、皆の顔を照らしていった。

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