~そばにいるだけで~
「・・・へえー、じゃあ今月に結婚式挙げるんだ」
「うん。・・・二人とも、凄く幸せそう」
村から瞬間移動で帰宅し、リィとレイルはベッドに座って話していた。
「二人は一緒に王都に帰ってきたのか?」
「テセウスはわりと自由だけど、あれでも王子だからね」
「・・・なんかリィ、急に殿下に対して言うようになったよな・・・」
これからはテセウスの義姉になるのだ。いちいち気にしていられない。
「気のせい気のせい。家はいいけど、国王陛下が何と言うかね。まあ、テセウスのお父上なんだから、多分大丈夫だろうけど」
「国王陛下にまで・・・あでも、親戚になるんだよな。あれ、妻の妹の夫の親って何て言うんだ?」
暫し沈黙し考えるが全く思いつかない。
「・・・そのまま、かな」
思いつかないものは考えていても仕方ないと割り切って、思考を変える。
サクリ達は結婚式まで大変だろう。
「何か、手伝えることはないかなぁ・・・」
「リィは自分の仕事がある。今日はもともとの休みだったから仕方ないけど、イリスがふてくされてるよ」
「うっ・・・」
言葉に詰まるリィの肩をレイルはぽんぽんと叩いた。それから、ふっと真顔になる。
「レイル・・・?」
「なぁ、リィ」
レイルは躊躇いがちに言った。
「───僕は、リィの助けになれてるだろうか」
何を馬鹿なことを、と笑って済まそうとしたが、レイルの真剣な表情を見てやめた。
その代わり───
「えいっ!」
「痛っ!何故いきなり頭突き⁉」
レイルの額に思い切り頭突きしてから、リィはレイルの鼻先に指を突き付けた。
「何馬鹿なこと言ってるの」
結局言ってしまったが、もう後には引けない。笑みではなく苛立ちを浮かべ、
「助けなんてもう貰ってるわ」
「でも、僕は・・・」
赤くなり始めてるレイルの額を指で突く。
力を込めたつもりはないのだが、レイルは奇妙な声をあげ、額を押さえて後ろに倒れる。涙目で起き上がったレイルを引き寄せ、
「───そばにいてくれるだけで、私は充分救われてる」
レイルは驚いたように身じろぎすると、体の力を抜いた。
二人の息づかいだけが響く。
先に無言の時間を破ったのは、レイルだった。
「・・・リィ」
「何?」
「・・・額、痛いんだけど」
「・・・ごめんなさい。ちょっとやりすぎた」
「ちょっとっていうレベルじゃない気が・・・」
「治癒魔法を・・・何か言った?」
「いいえ何でも」
リィは不思議に思って首を傾げるが、レイルは目を逸らしてしまった。
「何て言ったの?」
「いや」
「もう、教えてよ!」
「・・・むにゃ・・・」
大きい声を出してしまい、リュナがもそもそと動いた。慌てて口を塞ぎ、息を殺す。
「んうー・・・」
リュナは起きることなく寝返りを打つと横向きの姿勢で落ち着いた。
「「はぁー・・・」」
二人同時にため息をついて、
「・・・そろそろ、寝るか」
横になると思いのほか疲れていたようで、すぐに意識がすうっと吸い込まれそうになる。
・・・あ、レイルに治癒魔法かけるの忘れてた。
最後にそう思ったが、曖昧な意識は思考を放棄して、深い眠りの中へと──
翌日。
「副騎士長・・・。今度は何をやらかしたんですか」
「何でやらかした設定なんだ⁉」
額にたんこぶを拵えたレイルはロートの呆れたような視線に必死に弁明している。
「今はリィの助けが欲しい・・・。リィもロートに言ってくれ・・・」
「しょうがない、レイルだから」
「ですね。副騎士長ですから」
「二人とも、何わかり合ってるんだ・・・。いやそれよりも、僕だからってどういうことだよ・・・」
ショックを受けてうなだれていると、レイルの肩に誰かの手がおかれた。エイスだ。
「エイス・・・ありがとう・・・!」
レイルとエイスが絆を深めている横で、リィは手を叩いた。
「はい!仕事始めるわよ!」
リィはイリスを呼びにいくためにドアを開け、朝の空気を思い切り吸い込んだのだった。




