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流星と寄り添う夜  作者: 璃依
本編
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44/92

~婚約~

   1


「サクリ、話があるの」

母にそう言われたとき、サクリは物凄く嫌な予感がした。

「村長の息子の、ダングスさんが」


「あなたと結婚したいって」



   2


結局、サクリはそれを断れずにお見合いをすることになった。母は私がここにいることを望んでいる。母の思いを、否定などできなかった。

お見合いは、サクリの家で行われた。

ダングスはサクリよりも十歳年上で、

「僕の名前の意味は、『(そら)』なんです」

彼は自分のことをひたすら話し続けた。サクリは顔に笑顔をはりつけて頷くだけ。

(から)だ、と思った。

ダングスの言葉も、話も、行動も、何もかもが空虚。

彼は村長の息子として、ずっともてはやされてきたのだろう。その結果空っぽの自信が出来上がった。

王都に行く前のサクリなら、何も思わなかったはずだ。

でも───私は、出会ってしまった。

苦しいとき、辛いときにそばで寄り添ってくれる存在に、出会ってしまった。

彼の、心に響く言葉が。

待っているという言葉が。

私は───


「ダングスさん。あなたとの婚約」

微笑んで、ダングスを見る。彼は顔を輝かせ───


「私は、お受けすることができません」

にっこりと笑って拒否したサクリに、部屋の空気が凍り付いた。

「サクリ、何で・・・」

そのとき。

「ただいま───!」

玄関のドアが開く音。

「ほう、ここがリィとサクリの実家か」

もう聞き慣れた声。

自分を送り出してくれた声。

「ああ・・・」


「ただいま・・・って、あっ」

姿を見せたリィが部屋の中を見て固まった。その後ろから───


「テセウス・・・」

「おお、サクリ!息災であったか!」

「で、サクリ。今ってもしかして・・・お見合い?」

「うん」

テセウスが微妙な表情で硬直した。

「うわあっ、ごめん!・・・やっぱり、いきなりくるべきじゃなかった・・・」

「いいの。今、断ったとこだから」

「こ、断った・・・?」

呟くテセウスに頷いて、


「何でって、聞いたよね?」

その理由は、簡単だ。

「───私には、好きな人がいるの」

「───」

「その人は、ちょっと騒がしくて、突然いなくなって、迷惑かけてて。でも、いてほしいときにそばにいてくれて、言ってほしい言葉を言ってくれるの」


「村に帰ってくる前にね、待ってるって。───私はそれにこたえたい。その人───テセウスとずっと一緒にいたい」

テセウスの目だけを見つめて。


「私は村人。あなたは第五王子。住む世界が違うのは分かってる。それでも」


「あなたと同じ道を、歩いていきたいって、心から思うの。だから、私と」


「私と・・・結婚してください」



「余で・・・いいのか?」

「テセウスじゃなきゃ、嫌なの」

テセウスは、満面の笑みを浮かべ、

「余も、サクリでなければ嫌だな」

唇が熱く触れ合った。

二人とも頬を染め、頷き合って。

───ここに、婚約が成立した。



   3


意気消沈し、とぼとぼと帰っていったダングスを見送り、サクリ達は座った。

「サクリ」


「あなたを王都から引き戻して、ごめんなさい」

「お母さん?」

「サクリがどう思っていたのか、お母さんは全然分かってなかった・・・」

それから母はテセウスに向きなおると、

「どうか、娘をよろしくお願いたします・・・」

「必ず。必ず」


「サクリを幸せにしてみせる」



   4


「ところで、リィは何で帰ってきたの?」

「何でって・・・サクリはどうしてるかなぁって」

「・・・それで来れる距離じゃないと思うんだけど」

「?来れたよ?」

首を傾げるリィに、

「歩いてきたなら、大変だったでしょう」

「いや、歩いてない」

「はい?」

「瞬間移動してきた」

一瞬の沈黙。

「えっ?」

「瞬間移動してきた」

リィの話を聞いた母は、

「何だかもう次元が違うわ・・・テセウス君もそう思うよね?」

「リィはそういう人なのだ、と思っている」

テセウスにそう返され、ため息をついた。

「そう言えば・・・サクリがテセウス君と結婚するなら、名字とかはどうなるの?」

サクリの家は普通の村人なので、名字はないのだ。

テセウスは己の胸に触れると、正式に名乗った。

「余はテセウス・フリーデンだ。だから、彼女はサクリ・フリーデンとなる」

「フリーデン・・・さっきからまさかと思ってたけど・・・」


「王子殿下───⁉」

「うん。テセウスはこの国の第五王子だよ」

「リ、リィ!そんなふうに呼び捨てにして・・・!」

「良い。余は親しいものにまで殿下と呼ばれたくないのだ。あなたも、これからはお義母様(かあさま)となる。テセウスと呼んでくれ」

「なら、テセウス君で・・・良い?」

「感謝する」



サクリは立ち上がって、夕飯の準備をするためにキッチンに入った。隣に立つ母が囁いてくる。

「良い方じゃない。テセウス君」

「でしょ?」

二人は笑い、包丁で野菜を刻み始めた。

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