~幸せな夢~
1
「リュナ!ちょっとこっちに来て!」
呼ぶとリュナはとてとてと近付いてくる。
「なあに?」
朝で眠そうな表情のリュナの髪に髪留めをとめた。
「わぁ・・・!」
鏡を見たリュナが歓声をあげる。
「リュナ、外にいる間はこの髪留めを外さないで。約束だよ」
「うん!はずさないよ!」
リュナの頭を髪が乱れないようにそっと撫でる。嬉しそうな表情の彼女を見ていると、こちらもほわんとした。
「よし!じゃあ今日はお買い物、行こっか!」
2
大勢の人々の中を、リュナと手をつないで歩く。
リュナのための洋服と食料を買って瞬間移動させた。いつもはこんなことで魔法を使わないのだが、今日はリュナがいる。はぐれないために両手は開けて───
「リュナ?」
───先程まで隣にいたはずの、リュナがいない。
あたりを見回すが、リュナの姿は見えなかった。
3
リュナは猿轡をはめられ、両手両足を縛られて馬車の中に転がされていた。馬車はガタガタと揺れる。
やがて、揺れが止み、男達に引きずり下ろされた。そのまま横に担がれてしまう。
「ん───!んん───‼」
必死で抵抗するが屋敷の中に押し込められそうになる。一度入れられれば出られないと直感し、小さな体を懸命にのばし、縛られた手でどうにかドアの枠を掴む。
「大人しく───‼」
「───大人しくするのは、あなた達のほうよ」
「なっ・・・!何でここが分かって・・・!いや、こっちは馬車なのに・・・‼」
「答えは簡単。リュナの髪留めは、私の魔力で作ったもの。だから、リュナがそれをつけている限り、私には居場所が分かるの。もう一つは」
「瞬間移動」
言ったと同時にリィは動き、一瞬でもとの位置に戻っていた。その腕にはリュナが抱かれている。リィは安心させるように微笑みかけると、男達を睨んだ。今の動きを目で追えなかった男達がぽかんとリィを見ている。
「五人か。───楽勝ね」
軽く地を蹴り、リィの姿がかき消えた。一気に肉迫してきたリィに反応できず、速やかに意識を刈り取られた。三人の男達も唖然としている間に地面に倒れる。最後の一人は、
「や、やめてくれ!そ、そうだ、金ならいくらでも払───」
「金で釣り合うほど、私の怒りは軽くない」
いつの間にか握られていたレイピアの柄で、男の顎を強打した。
「執拗に傷付けることをせずに、一撃で済ませたことを幸運と思いなさい。───後遺症は残るかもしれないけど」
男達五人を気絶させると、リィはリュナを地面におろし、猿轡を外してやった。
「おねえちゃん!」
飛びついてくるリュナを抱き締めて、
「良かった・・・リュナが無事で・・・」
「こわかった・・・こわかったよ・・・‼」
リィは、リュナがいないと気付いてまず髪留めを通じて位置を確認した。移動速度から馬車だと見当をつけ、どこに向かうのか魔力を追い続けた。一度停止し、移動速度が落ちたことから目的地についたと判断し、瞬間移動でリュナの近くに飛んだ。目を閉じ、気配を探ると屋敷の中に人がいないと分かる。そこまで調べてから、リィは男達の前に姿を見せた。
「そのせいで、助けるのが遅くなってごめんね」
「おねえちゃんが、たすけにきてくれるってしんじてた・・・」
「───」
『信じてた』。たったそれだけの言葉が、心を震わせる。
リュナを強く抱きしめ、
「ありがとう。・・・信じてくれて、ありがとう」
4
リィは男達を縄できつく縛ると、騎士控室前まで瞬間移動した。
「あれ、リィ、今日は休みじゃ・・・って、どうしたんだそいつら!リュナまで!」
驚くレイルにリィは気絶したままの彼らを一瞥し、
「こいつら、リュナを誘拐した」
「「「誘拐──────⁉」」」
部屋にいる騎士達が同時に叫んだ。ちょうど目を覚ましかけていた男が大音量の叫びを聞いて再度失神する。リュナは両手で耳をおさえていた。
「煩い!」
一喝すると、騎士達は慌てて口を塞ぐ。
「これから医務室に連れてく。見張りに・・・三人、お願い。五人の目が覚めたら取調室に。ロートとヴェール、聴取頼んだわよ」
「「「はっ!」」」
本当はリィが聴取したいのだが、誘拐されたリュナの保護者代わりであり、男達を連れてきたのも自分であるため公正な判断を得られないと禁止されている。
医務室に男達を放り込み、魔法で縛り付けるとリィは三名の騎士に任せてその場を去った。
目が覚めた男達は、誰でもいいから攫って連れて帰ろうとしたと話した。リィの意識がリュナから外れた瞬間彼女の口を塞ぎ無理矢理馬車にのせ、猿轡を噛ませたらしい。その話の内容をロートから聞かされたリィは激怒し、木の机を拳で叩いて放射状のひびをいれた。リィは本当にリュナを───家族を大切にしているのだと思った。それはそれとして、机にひびをいれる力は恐ろしいが。
リィは怒るとともに反省してもいた。リィが目を離しさえしなければリュナに怖い思いをさせることはなかったのだ。
幸いリュナには大きな怪我はなかったので、次から気をつけようとリィはしっかり心に刻んだ。
5
リュナは、走っていた。どれだけ走っても、目の前のリィのそばに行けない。後ろから、手が伸びてくる。男達の手が。
「いや・・・いやぁっ!」
「・・・ュナ!リュナ!」
肩を揺さぶられて目が覚めた。
「嫌な夢?うなされてたよ」
リュナはリィにぴったり体をくっつけ、しがみついた。リィが優しく背中を撫でてくれて、いつの間にか眠っていた。
もう怖い夢は見なかった。
リィやレイルと暮らしている幸せな夢を見た。




