~I will see you around~
1
家のポストをあけると、一通の手紙が入っていた。サクリ宛ての手紙だ。封筒を裏返すと、拙い字で住所がかかれている。───ファス村。
リィとサクリの故郷からの手紙だった。
2
手紙に目を通すサクリを、リィはじっと見つめていた。サクリは読み終えると、無言で差し出す。
内容は、リィ達の母が怪我をして、次女であるルッカだけでは家事の全てを行えないため、サクリに戻ってきてほしいというものだった。
「サクリ・・・」
躊躇いがちに声をかけると、サクリは勢いよく顔を上げ、
「大丈夫。リュナもひとりでいられるようになったし。私一人いなくても問題ないよ。・・・私、今日はもう寝るね」
一気に言うと、早足でその場を去ってしまった。
サクリがそれを望んでいないことは、取り繕った笑顔を見るまでもなく明らかだ。
「私が・・・騎士じゃなければ・・・」
リィは目を瞑り、胸元のペンダントを強く握り締める。
───途切れた言葉がリィの口から紡がれることはなかった。
3
手紙がきた翌日、サクリは王城へとやってきていた。テセウスに別れを告げるためだ。
ノックすると、すぐにドアが開いた。
「サクリ!よく来てくれたな!中に入って紅茶でも・・・」
テセウスは不意に言葉を切った。勘の鋭い彼のことだから、サクリの表情に何かを悟ったのだろう。
「テセウス。私、村に帰らなきゃいけないの」
手紙の内容を大まかに話す。
「戻って・・・くるのだろう、サクリ?」
サクリは答えない。
「何故、答えてくれぬのだ・・・」
「・・・一度戻れば、いてほしいって頼まれる。私はそれを、断れない」
「───」
「私は村人。あなたは第五王子。・・・最初から、住む世界が違うの。それで、あなたは」
「あなたは私に、何を求めるの?」
涙が一筋、頬を伝った。
「あなたは私に、何を期待するの?」
「・・・私は明日、村に戻る。さようなら、テセウス」
ドアの前で一礼し、顔を見られぬよう部屋を出る。
ドアの外に立つ騎士が走り去るサクリを驚いたように見るが、気にしていられない。
走って、走って、走って。
気がつくと、サクリはベッドの上にいた。
「うっ・・・く・・・」
嗚咽を堪え、熱い雫を零す。
真っ白なシーツの上に水滴が弾け、薄く跡を残して、消えた。
4
次の日。
「また魔獣に襲われるといけないから、瞬間移動で村まで送るわ。・・・準備はいい?」
「大丈夫。荷物はちゃんと持ったから」
リィは切なそうな色を瞳に宿し、サクリを見つめた。
目を瞑る。
リィが集中し、サクリの体が浮遊感に包まれて───
その、直前。
「サクリ!」
聞き慣れた声に目を開ける。
「テセウス・・・」
後ろからレイルが慌てたようにやってきた。
「何で、きたの。昨日、挨拶したのに・・・」
「サクリ」
「───余は、そなたが帰ってくることをいつまでも待っている」
「───」
「いつでも、来たいときに来るがよい」
きっと戻れないと、そう言ったにも関わらず、待っている、とは。本当の、本当に。
「テセウスらしいね」
自然と、笑みが零れて。
「であろう?」
いつもと変わらない口調のテセウスに。
ありがとうでも、さようならでもなく。
「行って来ます!」
テセウスは驚きの表情を浮かべ、それから、
「気をつけて、行って参れ」
二人の視線が交錯し、瞬時に想いが行き交う。
テセウスの笑顔をこの目に焼きつけて。
───次の瞬間、サクリの目の前には村が広がっていた。
「あれで、よかったの?テセウス」
「余が伝えたいことは全て伝えた。だから、良い」
テセウスは村にいるサクリに思いを馳せ、空を見上げる。
名も知らぬ鳥が二羽、風を切って空高く飛んでいった。




