~十一輪の赤薔薇~
1
───もっと僕達を頼ってくれよ‼
繰り返し、繰り返し、レイルの叫び声が脳内で再生される。
───リィにとって、僕達は・・・僕は、何なんだよ‼
耳を塞ぐ。だが、声は変わらず流れ続ける。
もう、やめてくれ。お願いだから、やめて───
「っ・・・はぁ・・・」
目が覚め、喘ぐ。布団から両手を出し、額に浮かぶ汗を拭った。
慣れない医務室のベッドから体を起こし、脇にある時計を見ると、眠りに落ちてから三時間とたっていない。
荒い呼吸が落ち着き、リィは再び横になった。
そのあとは、どれだけ目を瞑って寝ようとしても、眠りの波はやってくることなく、朝を迎えたのだった。
2
「・・・騎士長」
ぼんやりと天井を見ていると、声がした。
そちらに顔を傾ける。部屋に入ってきたのはロートだった。
「ロート・・・何か用?」
ロートはその質問に答えず、椅子に腰をおろした。
「騎士長、隈が濃いですよ。眠れてないんでしょう?」
顔を背けたリィをじっと見つめ、ため息をつくと、
「俺は何も言いません。騎士長を責めることもしない。騎士長には騎士長の考えがあるでしょうし」
「───」
「でも、もし」
「もし───一人で悩んで辛くなったら、少なくとも俺は相談にのりますよ」
「な、んで」
「騎士長?」
「なんで・・・どうしてそこまでしてくれるの・・・?」
「決まってるじゃないですか」
ロートは失望した様子を見せず、それどころか唇の端を持ち上げて言った。
「騎士長が───リィが、俺達の大切な仲間だからだよ」
リィと呼び、敬語を使わずに。今この瞬間は上司ではなく、対等な関係の仲間として。
一体、何度リィはロートに、仲間に救われてきたのだろう。
自分が何故、周囲に頼ることを避けたのか、ようやく理解した。
「ありがとう、ロート。───今、レイルがどこにいるか分かる?」
3
リィとレイルは、庭園に座っていた。奇しくもそこはテセウスがサクリに真意を語った場所だった。
「話って、何だ?」
レイルは気まずさからリィの顔を見れなかった。地面の花を見つめ、話を促す。
「レイル。・・・私が頼らなかったのは、レイルが頼りないからじゃない」
「・・・じゃあ、何で」
「私は、充分すぎるぐらいに・・・私なんかに勿体ないぐらいに、皆に救われてきた」
「貰ったたくさんのもの、まだ全然返せてないの。だから、自分で出来ることをやろうと思ってた。・・・それがレイルに・・・仲間に嫌な思いさせてたなら、ごめんなさい」
レイルは息をのむ。
僕だ。
救われてきたのは、僕だ、と思った。
レイルが苦しいとき、いつだってそばに寄り添ってくれて。
それを返したくても、リィが頼ってくれることはほとんどなくて、感情を制御できずにリィにひどい言葉を浴びせた。
───二人とも、同じ思いだったのだ。そのことに気付かず、すれ違っていただけで。
驚きと後悔が入り交じり、自分が今どんな顔をしているのか分からない。
「私にとってレイルは・・・気軽に話せる仲間で、心の内を言える友人で───最愛の人だよ」
リィは頬を染め、真っ直ぐにレイルの目を見て言った。
全身を、訳の分からない衝擊が駆け巡る。
何なのだ。この感情は。
熱く、激しく、そして決して不快なものではない。
万感の思いがこみ上げ、まともな声が出ることを祈りながら、震える口を開いた。
「僕も同じだ、リィ。───愛してる」
二人は顔を近付け、熱い口付けを交わした。
静寂の中に、二人の鼓動だけが強く響く。
二つの体が融合し、ひとつになるような感覚。
唇を離し、至近距離で互いを見つめる。
ああ、やっぱり自分は。
リィが好きで好きで仕方ないのだ。どうしようもないほど。
リィを胸に引き寄せ、逃がさないよう抱き締める。
彼女が苦しくないように、肩の傷に当たらないように、加減して。
───庭園で、十一輪の赤薔薇がリィとレイルを祝福するように咲いていた。




