~新たな剣~
1
カァン、カァンという音が一定の速さで響く。
真っ赤に焼けた鋼がハンマーによって細長くのび、成形されてゆく。
───リィの新しい剣が生まれようとしていた。
2
その前日。
休憩時間、リィは騎士達に質問していた。
「ねぇ、誰か良い鍛冶屋知らない?」
「あぁ、王都にあるって聞いたことありますけど・・・でも、そんなの騎士長のほうがよく知ってるんじゃないですか?」
「いや、全く知らない」
絶句する騎士一同。
「え、じゃあ今までの剣は・・・?」
一体どう説明したものか。
レイルのほうをちら見すると、あろうことか寝ている。リィの視線をたどった騎士達はレイルの様子を見て同時にため息をついた。
リィはエイスという名の騎士に声をかける。彼はほとんど喋らないことで有名だ。冷たいわけではなく、時々話すと面白い。無言で近付いてきたエイスは何も言わなくても氷を生成した。彼の属性は火と陰で、氷を作るのに長けている。
「ありがと」
礼を言って氷を受け取り、レイルの服の襟を持ち上げて溶けかけの氷を──
奇声をあげて飛び起きたレイルは、あたりをきょろきょろと見回す。その顔の机に触れていた部分が赤くなっていて・・・
「副騎士長、額赤い」
ぼそっと呟いたエイスの言葉で、必死に笑うのを堪えていた騎士達の我慢が限界に達し、笑い声が響いた。
ようやく笑いの衝動が落ち着き、リィはレイルを見た。何の話をしていたかを説明する。
声をひそめて、
「どうしよう・・・」
と言うと、
「別に言ってもいいんじゃないかな。もし言ってもリィのことを忌避する人達じゃないと思うよ」
レイルの言葉で覚悟が決まった。
───どのみち、いつかは言わなければと思っていたのだ。
「前の剣は・・・リピアの使っていたものなの」
「リピアって・・・騎士長と同じように流星って呼ばれてた人ですよね?約二十年前に亡くなったっていう。それを何で騎士長が・・・?」
思いのほか知られていて、頬が少しひきつった。リィは一度目を強くつぶり、顔を上げると言った。
「私、リピアの生まれ変わりなの」
3
皆、驚愕の表情を張り付けていた。
いち早く立ち直り、声を発したのはロートだった。
「騎士長が、リピアの生まれ変わり・・・?どういうことですか・・・?」
記憶の結晶化について簡単に説明すると、騎士達の驚きは色濃くなった。
話を終え、リィは僅かにうつむいて皆の反応を待った。
ロートが口を開く。顔は見れない。多分、嫌悪を瞳に宿し、低い声で───
「ありがとうございます、話してくれて」
その言葉が信じられなくて、リィはゆっくりとロートを見る。
「騎士長が俺達に話してくれたってことは、俺達を信頼してくれているってことでしょう?」
まわりを見る。皆、穏やかな笑みを浮かべていた。
「あ・・・」
透明な雫が、頬を伝って落ちた。幾つも、幾つも。
「き、騎士長・・・⁉」
目の前の騎士達があわてたような声をあげるが、気にしていられない。
なんで、リィの周りの人達は、こんなにも優しくしてくれるのだ。ここまで信じて、微笑んでくれるのだ。
テセウスに、レイルに、騎士団のみんな。
リピアのときは、もっと避けられていた。こんな風に接してくれることはなかった。
不意に、ヴェールが口を開いた。
「騎士長。ひとつ分かったことが」
「───」
「騎士長があの有名なリピアの生まれ変わりでも、涙を流す一人の少女でもあるってこと」
「───っ!」
「ちょっ、そんな涙目で殴らないでください!」
部屋に笑い声が弾け、リィは涙を拭った。
「それで、鍛冶屋の話」
皆忘れていたことをエイスが指摘してくれた。目的を果たさずに解散するところだった。危ない。最終的にヴェールが案内してくれることになった。
部屋を出ようとドアを開けると。
ガンッ。
なにかにドアが当たった。顔をドアから出す。
「なっ・・・!テセウス・・・殿下⁉」
4
「いや、昨日のトーナメント戦の戦いは良かったとリィに言おうと思って、騎士控室まできたのだ。そうしたら何やら聞き捨てならない話が聞こえてな」
「きたのだ、って・・・テセウスは第五王子なんだから、もっとこう・・・」
テセウスとリィのやり取りを聞きながら、騎士達は思っていた。
騎士長、言ってることとやってることが違う!
第五王子なんだから、って、敬語は!どこへ消えた!
レイルを除く騎士達の心の中での叫びがきこえたわけでもないだろうが、
「リィには敬語を使うなと言っている」
と返されてしまえばしょうがない。
「えっと、テセウスはいつから聞いてたの・・・?」
「リィが、リピアの生まれ変わりだというところから。だが、気にするな。余は別にそれで何かが変わるとは思っていない」
後半をやや早口で言ったテセウスに、リィは微笑みかけて、
「ありがとう、テセウス。・・・みんなも」
5
騎士達とテセウスとのやり取りから一週間後。
リィは作成を頼んだ剣を受け取りに鍛冶屋へ向かった。
出てきたのはフェッロという初老の男性だ。無愛想だが、腕は確からしいとヴェールに聞いた。
「あの、剣を受け取りに来たんですけど・・・」
リィの言葉が終わらないうちに、フェッロは背を向け、ひとつの細長い包みを取り上げた。剣を優しくテーブルにおく。包みから剣を取り出した。
「わぁ・・・」
光の加減で青みがかって見える金属は細く鋭く尖っている。鞘ごと持ち上げると、ずしりと心地よい重さが手に伝わってくる。
フェッロは剣を暖かく見つめている。それによく似た視線を、どこかで見たことがあった。
「ね、あなたの父親は、フィートさんじゃない?」
名前を言った瞬間、フェッロの目が見開かれた。───やっぱりそうだ。
フィートは、先日折ってしまった剣を作った人だ。リピアはリィとして、フィートの息子であるフェッロに剣を打ってもらった。こんな偶然があるだろうか。
「何故、その名を?」
その質問に微笑んだだけで答えず、代金を払うと、
「また、来ますね」
そう言って店を後にした。
外に出て、剣を腰の剣帯に差し込む。包み紙は折り畳んで、脇に抱えた。
沈みかけた夕日を反射した新しい剣が、まばゆく輝いていた。




