~ONE-on-ONE BATTLE~
1
「どうしてこうなった・・・」
訓練場には騎士達が勢揃い。
「どうしてこうなった・・・」
もう一度呟く。
もともとは、騎士の実力を上げるために何かイベントをしようとリィが言ったことがきっかけだった。そこからリィの知らないうちに話が進み、気が付いたら───
「これより、騎士トーナメント戦を開始します!」
───何故か、トーナメント戦になっていた。
2
リィの初戦の相手はヴェールだった。
リィとレイル以外の騎士は武器を使えないので、魔法のみの戦いとなる。
ルールはいたって単純。
どちらかが動けなくなる、もしくは負けを認めると勝敗が決する。防御魔法の類は使ってよいが、結界は禁止されている。
ヴェールの属性は風。もうひとつの属性は分からないが───
試合開始直後、ヴェールの体から闇が溢れだした。それはたちまち、リィ達のまわりを取り囲む。視界は暗闇に支配され、何も見えなくなった。恐らくヴェールは視界を潰し、一撃を与えるつもりなのだろう。普通の人は何も分からないうちに気を失うはずだ。
───これを仕掛ける相手が、ただの魔法使いであったなら。
目を閉じたリィは、体を最小限の動きで傾け、飛来してきた風の刃をよけた。
ヴェールが息をのむ音が聞こえる。その行動が、曖昧だった彼の位置を明らかにした。
振り返ったリィは炎弾を放つ。同時に陽魔法で闇を払った。
視界に入ってきたのは炎弾が直撃してのびているヴェールの姿。
「勝者、リィ!」
訓練場の端のベンチに腰をおろし、他の戦闘を眺める。リィと同じく初戦でロートにあたり、勝利をおさめたレイルが戻ってきた。
その後の戦いを消化し、あっという間に決勝戦になった。もちろん、リィとレイルの二人だ。
多くの騎士達はこの二人の戦いを心待ちにしていた。
決勝戦は、レイルもリィも剣を使えるので、第一戦は魔法、第二戦は剣で戦うことになる。
二人が少し距離をとって向き合い───始まった。
リィの炎弾をレイルは僅かな動きでよけ、合間に風の刃を飛ばしてくる。レイルの攻撃をリィも華麗によけ続ける。
やがて、二人はぴたりと止まった。
「やっぱりすごいな、リィ」
「ありがと。レイルもね」
二人顔を見合わせ、笑う。
レイルから、闇の波動が広がる。だが、ヴェールのように視界を遮るわけではない。漆黒の闇はリボンのようになり、リィの手と足を縛り上げる。リボンは全く緩まない。後ろ手に縛られ動けないリィに、風の刃が迫る───
リィの全身が、眩く輝いた。光を纏っているわけではない。リィ自身が光っている。
闇のリボンが溶けるように消えた。リィは刃をよけ、光を維持したまま炎弾を撃った。これまでとは比べものにならない大きさの炎弾をみたレイルが咄嗟に闇で防御しようとするが、リィの光に触れ解けて消えてゆく。無防備なレイルに炎弾が直撃する、直前。
レイルの数センチ前で、炎弾が停止した。見れば、レイルは降参の意を示している。
「け、決勝第一戦、勝者リィ!」
わあああっ、と訓練場が湧いた。
3
そのまま、決勝第二戦が始まった。
リィはレイピア。レイルはバスタードソード。どちらも真剣の立ち合いなので、寸止めで行う。
レイピアが凄まじい速度で突き出されるのを、レイルは的確に弾いてゆく。また、レイルの剣の軌道をリィはレイピアでそらす。レイピアとバスタードソードが交錯し、動きが止まった。剣にもの凄い力がこめられているのは明らかだ。これがどちらも片手剣なら、互角だったかもしれない。だが、レイルの持つバスタードソードは両手持ちが可能なのだ。
リィは吹き飛ばされ、壁に打ちつけられた。
「く・・・」
衝撃が大きすぎて、すぐには立てない。腕を赤い液体が伝った。今の衝撃で癒えきってない肩の傷から再び出血したようだ。真っ白なワンピースが、赤く染まっていく。リィはそれを無視して立ち上がった。
流れるような剣舞が始まる。剣戟の音が絶え間なく響き、淀みない動きで舞うリィとレイル。
───美しい。
ときどき剣が掠め、二人の体には傷が増えていく。それでも、二人の速度が落ちることはない。
いつの間にか、騎士達とともに第五王子が戦いを見ていた。本来であれば、一人でこのような場所に来ることを咎めなければならない立場だったが、誰も声を発さなかった。ただ、光の舞に目を奪われていた。
キイィィィン!という音が響き、片方の剣が半ばから折れ、砕け散った。
剣が、首筋に当てられる。
レイルの剣が。
リィは折れた剣の柄から手を離し、両手を持ち上げた。
「第二戦、勝者レイル!よって、決勝戦は引き分けとなります!」
4
「つーかーれーたー」
寝室のベッドに腰掛けると、この家に滞在しているサクリがかけよってくる。このまま横になりたい気分だが、傷の手当てをしなければならない。肩の傷は血は止まったが、服に血が染みこんでいるため、真っ白いシーツに横たわったら大惨事だ。自分一人では包帯を巻けないのでサクリに手伝ってもらう。
「しかし・・・折れちゃったなぁ・・・」
あの剣はリピアだったときから使っていたものだ。大切に保管しておいたので、鋭さはかつてのままであり、今も使っていたのだが。
包帯を巻き終え、服を着る。リビングへ向かうときに、レイルがいるのが見えた。衝動に負け、ゆっくりと気配を殺し、近付いて───
ばちーん。
「な・・・何で叩くんだ・・・」
背中を思い切り叩かれ、振り返ったレイルが聞いてくるが、
「知らなーい!」
とだけ答えてその場を立ち去った。
大切な愛剣を見事にへし折ってくれたのだ。これくらいしても許されるだろう。
───そのかわり、剣を折られたことは水に流すから。
その夜。
「あのさ、リィ。その・・・リィの剣のことなんだけど」
ばちーん。
「痛っ!」
「もう!なんで掘り返すの!」
最後に、そんなやり取りがあったことをここに記しておく。




