~戦う理由~
「リィ、事態の収束、ご苦労だった」
「もったいなきお言葉」
「そなたらには苦労をかけるな」
「いえ、これが騎士の務めですので」
微笑んで答え、リィはその場から退出した。
国王陛下に謁見した帰り、リィはテセウスの居室をたずねた。
テセウスには「いつでもたずねてきて良い!」と言われていたが、いちおう第五王子だ。最低限の礼儀は守らねばならない。
「テセウス殿下、リィです。入ってもよろしいでしょうか?」
ノックをし、声をかけるとドアが内側から開いた。
「リィ、よくきたな!」
ソファーに向かい合って座ると、侍女が紅茶を入れて持ってきた。テセウスが一度外に出るように言うと、部屋の中は二人きりになった。
「先日の魔獣の件、リィが活躍したと聞いたぞ」
「活躍なんて。一番頑張ってくれてたのは騎士と衛兵達よ」
肩をすくめると、テセウスの目が見開かれた。あわてて服の襟をなおすが、もう遅い。服がずれ、肩の包帯が見えてしまった。
「・・・その傷」
魔法で治療もできるのだが、負傷者が多く、リィの魔力はあとわずかだ。サクリからもらうのも非常時以外は避けたい。そのため、リィは肩の傷をそのままにしていた。
わざと明るく声を出す。
「ああ、これ、治りかけてるの。痛みもないし───」
言葉が途切れたのは、テセウスが急に顔を近付けたからだ。
「───嘘であろう?」
テセウスの瞳から逃れることができずに、リィは頷いた。テセウスはため息をつき、ソファーに座り直した。
暫し、沈黙が落ちる。
先に口を開いたのはテセウスだった。
「リィ・・・すまない」
突然の謝罪に驚くリィを見て、
「いつも危ない戦いをさせているのは、王子である余にも責任がある。・・・そなたらに命をかけさせておいて、余は安全な王城にいるのだ。それで、もし・・・もしリィが」
「テセウス」
テセウスの言葉を遮った。他に人がいれば不敬ととられかねない態度だが、気にせず言う。
「私は、もう死ぬために戦ってないよ」
テセウスがはっと顔をあげる。
「今までは違った。でも、これからは」
「守りたい人を守って、その人の隣にいるために戦うの」
「───」
「皆が笑顔でいるために、笑顔をそばでみるために戦うの」
「私は死なない。死にたくない。だから───大丈夫」
「そなたは───強いな」
リィは瞬きをしてから言った。
「強くなんかないよ。このことに気付けたのも、テセウスの言葉があったからだもん」
二人は顔を見合わせ、微笑む。
窓の外で、星がきらりと光った。




