~騎士の務め~
1
「サクリ、こっちにおいで」
「リィおねえちゃん、ほんよんでくれるの?」
リィは頷き、何冊かの本をサクリの前においた。
「どのお話読みたい?」
「えっとね、これ!」
サクリが指差した本を開き、読み始める。
2
「騎士長!大変です!また王都に魔獣が発生しています!」
「また⁉結界は⁉」
「それが・・・結界が破られそうになっています‼」
「数は⁉」
「百くらいかと!」
百ならなんとかなる、と安堵しかけたが、続く言葉がそれを許さなかった。
「ですが、一匹がもの凄く強力で・・・!」
「なっ・・・!」
魔獣達が強力になった。
自然に起こることではない。───人の手が入っている。
「まだ、結界は破れてないのね?」
肯定する騎士に叫ぶ。
「すぐに騎士と衛兵達を召集して!緊急会議を行う!」
「恐らく、誰かが力を与えている。それを止めないことには、勝てない」
「でも騎士長、その誰かを見つけられるんですか?」
「さっきから、強い魔力が溢れてるのを感じる場所があるの。そこにいる人が・・・元凶だと思う」
会議場が僅かにざわめくが手をあげてしずめ、
「私が元凶を止めにいく。みんなは、止めるまでの時間稼ぎをお願い」
3
「・・・みんな」
武器を持ち、今までにない激戦に征く仲間達が。
「みんな・・・無事で。無事に・・・帰ってきて」
祈りを込めて、目を閉じる。
「騎士長」
ゆっくりと目を開け、言葉を発した人物を見る。
「魔獣を倒して、人々を救って、皆で帰ってくる。───それが、俺達騎士の務めだ」
ロートが敬語を使わずに言った。
「死ぬその瞬間まで、俺達は足掻き続ける。全てを拾うために。───まあ、死ぬ気なんて毛頭ないですけど」
最後のほうは茶化すようにヴェールも言う。
───死ぬその瞬間まで、足掻き続ける。全てを拾うために。
今まで、私は自己犠牲を考えて戦ってきた。もともと引き延ばしてきた命、誰かを守るためにつかい、果てるのならと。
彼らは違う。死ぬつもりで戦うわけじゃない。
生きるために、守りたいものを救い出すために、戦うのだ。
「騎士長も───リィも、生きて戻ってこい」
「はい!」
一瞬レイルを見つめ、頷きかける。
「皆!生きて、もう一度ここに集まろう!必ずだ!」
「「「ああ‼」」」
4
「ここ・・・ね」
魔獣達を皆に任せ、リィは強い魔力を感じる場所へとやってきていた。
不意に冷たい冷気が背を撫で、リィは抜剣と同時に振り返った。
───そこにいたのは。
「サクリ・・・なの?」
リィの、末の妹だった。
「な、んで・・・ここに・・・?」
サクリが、私を見る。
その目に、生気はない。
サクリの体から、精神操作系の魔力を感じた。
恐らく魔獣に操られ、無理矢理強化させられているのだろうと直感する。
どうにかして、サクリ自身の意識を引っ張り出さなければいけない。
「サクリ・・・一緒に本を読んだこと、覚えてる?」
「ずっと帰らなくて・・・相手にしてあげなくて、ごめんなさい。だから」
「あのときの───明るいサクリに、戻ってよ──────‼」
───次の瞬間、後ろから襲いかかってきた魔獣の牙がリィの肩にくいこみ、血が飛び散った。
5
強力な魔獣により、ついに結界が限界を迎え、破れた。
爪の攻撃を受けた衛兵が、よろめく。そこをのがさず魔獣が───
風の刃が魔獣を吹き飛ばす。
手をのばしたまま、レイルは叫んだ。
「負傷者は一度下がって、回復を!魔力は必要な分だけ使うように!」
「「はっ!」」
───こっちは僕達に任せてくれ、リィ。
リィはリィの戦いを。
離れた場所で戦うリィに念じ、レイルは剣を振り上げた。
6
レイピアを後ろに突き出し、絶命した魔獣の牙を抜く。鮮血がふきだし、赤い雫がサクリの頬にはねる。
サクリの手がゆるゆると持ち上がり、雫をぬぐった。
手の赤を見つめるサクリが顔を上げる。
「お・・・姉、ちゃん?」
「サクリ・・・!」
サクリの瞳に、かつての光が戻っていた。
駆け寄り、自分より背の低い体を抱き締める。
「サクリ、何があったの?」
サクリはゆっくりと話し始めた。
結界のそばで転んでしまったサクリは、結界の外に出てしまった。急いで中に戻ろうとしたが、魔獣達に襲われ、意識がなくなったらしい。
これまで気付かなかったが、サクリは魔力量が通常の人より多い。だからこそ、魔獣に利用されたのだ。
「サクリ、魔獣にかけた魔法、とける?」
「うん。やってみる」
サクリの長い髪がふわりと浮き、魔法が解けたのをリィは肌で感じた。
気が抜け、途端に肩の傷は痛みを主張し始める。陽魔法で血は止めたが、完全な治癒にはいたっていない。
「急いで、レイル達のところに戻ろう。強化は解けたはずだけど、魔獣がいることには変わりはないもの」
7
───魔獣達が急に弱くなった。
リィは、果たしたのだ。自らの役目を。
空を見上げる。
太陽の光にまぎれて、金色の光がちかりと光った。
光はどんどん、近付いてきて───
「ただいま、レイル」
「おかえり。お疲れ、リィ」
リィの隣には、一人の女の子が立っていた。
「レイル」
「さっさと、終わらせよう」
にっこり笑ってリィはそう言った。
リィとレイル、サクリは宙に浮いていた。勿論、陽魔法のシャボン玉の中だ。
「サクリ、ちょっと魔力をわけて」
血縁者だから出来る魔力の譲渡を行う。
「いくよ、リィ」
リィとレイルは、金色の膜越しに魔法を行使した。二人が初めて出会ったときのように。
炎の風に触れた魔獣は蒸発し、消滅した。
8
「リィ、魔力強くなってないか?」
「えー、そう?」
ようやく今回の件が片付き、リィとレイルは休日を満喫していた。
「私はあんまり分かんないけど・・・やっぱり」
───己の騎士のあり方をしっかりと定めたから、だろうか。
口の中で呟く。
「やっぱり?」
「何でもない!」
全てを救うために、守りたいものを守るために。
これからも、戦い続ける。




