第二章『流星、隣国の騎士と出会う』
1
王都へ行ってから約二年。
騎士叙勲を受けた私は正式に騎士となっていた。騎士の仕事は、主に王族の警護、罪人の逮捕、魔獣の討伐などだ。それらが無いときは比較的自由に過ごせる。今日は王族の警護に当たり、フリーデン王国第五王子であるテセウスのもとへ向かったのだが───
「そなた、隠さずとも良い。余は知っておる」
「───」
「そなたが、余のことを好いておるとな!」
「あ、あの、殿下?テセウス殿下?」
「かまわぬ!仲良くしていこうではないか!」
いや、かまわなくない。
完全に思い込みだ。リィはテセウスに敬意しか抱いていない。侍女たちの、どこか同情した視線を浴びながら、この状況を好転させるため努力しようと───
「殿下、私はそのような───」
「そのように恥ずかしがるな」
「ですから、私は───」
「よいよい。遠慮などするな」
無理だった。諦めた。
長い一日になりそうだった。
2
「た、大変です!王都に魔獣が大量発生しています!」
その知らせが入ってきたのは昼過ぎだった。
私は知らせにきた衛兵に魔獣の数を問う。
「五百を軽く超えているかと・・・‼」
「・・・っ!」
五百を超える魔獣。到底、この国の戦力ではたりない。
現在、騎士団の人数は二十。いくら前世で騎士の位についていても、王都にきて二年の小娘がそうやすやすとなれるものではない。───つまり、人数が足りないのだ。前世でも思ったことだが、この世界は戦闘に長けた人間が少ない。衛兵たちも、あまり期待出来ないだろう。
「我が国では対応できない。すぐに、隣のリーシア王国に救援をもとめるんだ!」
「はっ‼」
「救援が来るまでは、私達で防ぐしかない。───行くぞ!」
「はっ!騎士長!」
だから、私のような人物が騎士長になってしまうのだ。
3
斬っても斬っても、敵はわいてでてくる。おそらく、ここにひしめく魔獣の魔力に誘われて、どんどん集まってくるのだろう。王都にも村同様結界が張られているはずだが、越えてきてしまったのはしょうがない。やるしかないのだ。
魔法を使っている者はほぼ全員だが、派手な魔法を連発するせいで魔力切れが近い。
剣を持って戦っているのは───衛兵隊と私。
この世界の騎士達は、魔法が使えるというだけで叙勲を受けた者だ。衛兵隊は逆に独学で覚えた剣技で入ってくる。
私のように、魔法も剣も使える人間は、非常に珍しい。
「はああああっ」
白熱して輝く剣にふれた魔獣の体が、燃えて灰すら残さずに消えていく。火と陽の魔法の応用で、剣に魔力を流し込み、美しい光とは裏腹に対象を焼き払うのだ。
だが、多勢に無勢。避けきれずに負う傷が増えてゆく。まだなのか。まだ、救援は来ないのか。未だ魔獣の数は二百を超える。対しこちらは魔力切れと負傷者が多数でている。
「くうっ!」
脇腹を魔獣の爪が掠める。次の瞬間レイピアがその魔獣を貫く。右から殺気を感じ、剣を振り抜こうとするが間に合わない。魔獣の爪は致命的な深さで私の体を切り裂く。せめて目はつぶるまいと───
横から割り込んだ影があった。
直後硬質な音が響く。
目が覚めるような青い髪の人物は、爪の襲い来る軌道を剣でそらし、風の魔法で多くの魔獣を吹き飛ばして見せた。その衝撃で絶命したものも多い。
「あ、あなたは・・・」
「僕は、レイルという。リーシア王国から救援にきた者達の代表だよ」
救援。来てくれたのだ。
「私はリィ。あなたは、風の魔法を使えますね?ならば、やりたいことがある」
隣国からきた騎士達が、魔法で魔獣を寄せ付けぬようにしてくれている。能力は我がフリーデン王国と似たようなものだが、数が多い。これなら、数分はもつだろう。
火の魔力を練る。私は火と陽にしか属性がない。だから火と陽の魔法以外は使えない。───でもそれは、一人の場合だ。
「レイル!こちらは準備できました!いつでもいいです!」
「了解!」
二人の呼吸が合う。同時に、お互いの練った魔法を身近に感じるようになる。その二つの魔法を、ひとつに融合させていく。ゆっくりととけあい、そして───
炎を纏う風が、魔獣達に吹き荒れた。
それだけで、あれほどいた魔獣は消滅していた。
4
「終わった・・・」
レイピアを鞘におさめてから、私はレイルに向き直った。
「救援に来てくださり、感謝しております」
「そんなに堅苦しくなる必要はないよ。僕と君は同じ騎士の立場なんだから。───話は聞いている、『流星』」
リィの戦い方はリピアのときと同じだ。そのため、リィも『流星』と呼ばれている。まさか、隣国にまで伝わっているとは。それはいいとして、彼の言葉に甘え、普段の口調に戻る。
「レイルの剣技と魔法は素晴らしかった。フリーデン王国では両方使える人が他にいないし」
「リーシア王国もそうだ。お互い、共通の話題もありそうだね。僕はしばらく、この国の騎士団に滞在させてもらうよ。結界について、話し合えと命を受けているからね」
「よろしく、リィ」
5
「騎士団に滞在する間は、通常業務を行ってもらうわ。初めてで、いろいろとわからないこともあるだろうから、一週間は私とともに業務を行って」
「了解。・・・今日の仕事は?」
「今日は・・・テセウス殿下が私を呼んでいるらしいの」
あの戦いから三日。戦後の処理をおえて、ようやく通常に戻ったところだ。
レイルをつれてテセウスの居室へむかう。
ドアをノックし、
「殿下。リィです」
扉が勢いよく開かれる。
「おお、よくきたなリィよ!さあ、入るが良い!・・・む?」
テセウスはリィの横に顔を向ける。
「お初にお目にかかります、殿下。騎士団に滞在しております、レイルと・・・」
「リィ、そなた・・・」
「余という愛するものがいるにもかかわらず、別の男といるとは・・・許せん!」
「あ、あの殿下?私は殿下のことは・・・」
「二度とリィには近づくな!リィは、余だけのものだ‼」
私は唖然として何も言えなくなる。その表情を見たレイルは、
「殿下、恐れながら」
「なんだ!」
「リィは、誰のものでもありません。彼女は、彼女自身のものです。───失礼します」
「殿下、私も失礼させていただきます。───私は、殿下のものになった覚えはありませんから」
不敬ととられかねない発言だが、リィはそんなことは微塵も考えていない。頭にあったのは、レイルのことだけだった。
取り残されたテセウスは、膝をついた。
「余は・・・」
6
退室したレイルを追いかけて、リイは王宮からとびだしていた。人混みの中、レイルの青髪を見つけ、叫ぶ。
「レイル、待って‼」
彼はぴたりと動きを止めると、こちらを振り返った。
混雑している通りをぬけ、路地に入る。
「何故、追いかけたんだ?」
「あなたに、お礼を言うため」
「お礼・・・?僕はお礼をいわれるようなことは何もしていないよ」
「殿下の前で、私は誰のものでもないって言ってくれたわ。───この言葉が、すごく嬉しかった」
「───」
「だから、ありがとう」
「私、もう行くね」
背を向けて、歩き去ろうとしたその時。
温かい感触が背中を包む。
「え・・・」
レイルに後ろから抱きしめられたのだと気づくまでに少し時間がかかった。
頬がかああっと熱くなる。でも、不思議と嫌な気分ではなかった。
リィは微笑むと、体をあずけた。レイルは驚いたように一瞬体を強ばらせ、すぐに力をぬく。
二人は長いことそのままでいた。
7
「第五王子が、行方不明⁉」
翌朝、舞い込んできたのはテセウスがいなくなったという知らせだった。
「リィ、僕は陰属性ももっている。だから、見つけられるはずだ」
「・・・!分かった!すぐに始めて‼」
レイルの手から、紫色の靄が放たれる。それはある方向へ向かっていき───
「リィ!ついてきてほしい!」
二人で靄を追いかけて、二十分後。
「隠れず、出てきて下さい、殿下」
テセウスは貧民街の空き家に隠れていた。
「殿下・・・何故お逃げになったのですか?」
「余は・・・少し一人になりたかった」
「レイルとリィに言われて、初めて余は思い違いをしていたことに気がついたのだ」
「余は、そなたに已の想いを押し付けていた。───すまぬ」
「殿下・・・顔をあげて下さい」
「───」
「謝らねばならぬのは、こちらなのです。───私は、あなたの想いに応えることができない。なぜなら」
「私が・・・レイルを愛しているからです」
レイルのほうを見て、微笑む。
「すみません、殿下」
テセウスは無言だ。
やがて、顔をあげると、リィではなくレイルを見て言った。
「・・・リィを・・・不幸にしたら許さぬぞ」
「は。もちろんです、殿下」
「レイル・・・いいの?」
「いいに決まってるよ」
「リィ」
「はい」
「これからも・・・よろしくな」




