~暗闇の先で~
1
「レイル、今日の任務は王都から近い村の結界を見てくることよ」
「了解。・・・もしかして、リィも来るの?」
「うん。あと、ロートとヴェールも」
「あいつらか・・・」
ロートとヴェールは以前勘違いして、リィに告白させようとし、レイルの厳しい指導を受けた二人だ。レイルは大変そうだなと思いつつ立ち上がった。
2
「で、なんで俺たちが井戸掃除することになるんだろ・・・」
「それだけ平和だってことだよ。ですよね、副騎士長?」
副騎士長に問いかけるが返事がない。不審に思ったロートとヴェールが振り返ると、レイルは目を見開き、井戸わきで立ち尽くしていた。
「副騎士長・・・?」
レイルの肩を掴むと、微かな震えが手に伝わってきた。
「う、ぁ・・・ああ・・・」
「どうしたんですか、副騎士長⁉」
ヴェールの声に、先に準備しに行っていたリィが戻ってくる。レイルの様子を見るや、「あっ」と声をあげる。
「ごめんレイル、忘れてた!」
それからロートとヴェールのほうを見て、
「二人とも、悪いけど先にやっててくれる?」
言うやいなや、レイルを連れてその場から離れていった。
数十分後、戻ってきたのはリィひとりだけだった。
三人で掃除をしながら、リィは語った。
「レイルはね、井戸に落ちて溺れたことがあるらしいの。・・・そのときに、記憶を失ったって言ってた」
「───」
「多分、落ちたときの記憶はなくても、本能的に恐怖を覚えちゃうんだと思う。私、井戸掃除頼まれたときに深く考えずにやるって言っちゃって・・・」
「騎士長。───井戸掃除は俺とヴェールだけでできます。あなたは副騎士長の傍に」
「え、でも・・・」
「いいから」
リィは平静を装っていたが、内心はレイルが気になってしょうがなかったのだろう、一度礼をすると、後ろを振り返ることなく走り去っていった。
「・・・副騎士長に、そんな経緯があったとは・・・」
「大丈夫かなぁ・・・」
ロートとヴェールは顔を見合わせると、同時にため息をついた。
3
部屋を貸してくれた村人に声をかけ、ドアを開ける。
───レイルは、部屋の隅で蹲っていた。
「レイル」
名前を呼ぶとゆっくりと顔が持ち上がり、恐怖に彩られた目がリィを見る。レイルの目に痛々しさを感じ、隣に腰を下ろした。右手をとり握る。反対の手でレイルの背中を撫でた。
何も言葉が出てこなかった。だから、撫で続けた。
レイルの恐怖をわかると言ってあげられなくても、傍にいるんだと、ついていると伝えるために。
───井戸掃除を終えたロートとヴェールが様子を見に来るまで、ずっとリィはレイルに寄り添っていた。
4
「・・・リィ、ごめん。心配かけて。仕事も任せちゃったし」
「いいの。お礼はあの二人に言って。・・・私もお礼しなきゃだな・・・。井戸掃除頑張ってくれたから」
夜。家に帰ったリィとレイルは寝る支度をしながら話していた。
帰るときも、ロートとヴェールは井戸のことにふれず、終始明るく振る舞ってくれた。彼らには感謝してもしきれないだろう。
「それに・・・私が気付かなきゃいけなかったのに、気付かないで、レイルに嫌な思いさせて・・・」
「ごめんね・・・レイル・・・」
5
「「あ!副騎士長!おはようございます」」
昨日のことなどなかったように接してくれるロートとヴェールに挨拶をかえし、そのまま通り過ぎようとする二人を呼び止める。
「その・・・昨日は、すまなかった。ありがとう」
二人は驚いたように目を見開くと、ニッと笑って言った。
「心配してたんですよー。普段通りになってよかったです」
「ありがとう」
もう一度言って、席につく。
自分にとって恐怖を呼び起こす場所で、レイルは人の優しさを知った。終わりのない暗闇の先で、心配してくれる仲間を知った。
───それから、休憩時間に仲良く談笑するレイルとロート、ヴェールの姿がよく見られるようになったのだった。




