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流星と寄り添う夜  作者: 璃依
本編
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22/92

~『騎士』のあり方~

   1


「どうしたんですか、副騎士長。元気ないですよ」

「ああ、ちょっとな・・・」

そう言って、レイルは何度目ともしれないため息をつくのだった。



   2

 

───事の始まりは、リィの一言だった。

「私、明日から三日間テセウスの護衛でリーシア王国に行ってくるね」

「えっ・・・。護衛は一人、か?」

「うん。レイルは今日夜勤でしょ?だから、テセウスが───」

「一人で行って、何かあったらどうするんだ」

「身を呈して、殿下を守るわ」

リィが毅然と言った。

「違う、殿下じゃなくて・・・」


「何かあったとき、殿下のほかに誰を守るの?」

「───」

「騎士は、王族を守る。そのために、命を捨てる覚悟をしなきゃいけない。───それが無理なら、騎士などやめた方がいい」


冷酷な目だった。普段の温かみなど全くない。冷気に似た戦慄が背筋を走る。

何も言えないレイルに背を向けると、リィは部屋を出て行った。思い切り閉じられた扉が派手な音をたてる。


───初めて騎士としての、誰かを守る立場の、リィを見た。



そのままリィはリーシア王国に行ってしまった。レイルに、何も言わずに。

夜、一人ベッドに横たわって、暗い天井を見上げた。布団の中、手を伸ばすが何も触れない。

何かに縋りたくて、レイルは枕を抱きしめた。温もりを探すが、命の無い枕は冷たいままだった。



   3


「リィ、そなた何かあったのか?申してみよ」

リィの顔を覗き込んだテセウスが言う。いつの間にか俯けていた顔をあげ、リィは苦笑した。

「・・・テセウスには、隠し事できないわね」

レイルとのやり取りをテセウスに話す。

テセウスは目を瞑って聞いていた。

話し終えても、テセウスはしばらく動かなかった。無言の時間が苦しくなってきたころ、ようやく口を開く。


「リィ。そなたの意志は気高く、美しい。───だが」


「余のためにリィが死するなら、余も自らの命を絶とう」

「そんな、そんなことしたら、意味が・・・」


「余にとっては、リィが死ぬことのほうが意味がないことなのだ」


頬を叩かれたようだった。今まで信じてきた『騎士』のあり方が、揺らいだ。

「それはレイルも同じだと思うぞ」

「わ、私・・・私・・・」



いつしか差し込む光がオレンジ色を帯びていた。

「テセウス」


「私・・・帰ったら、レイルと話をしてみる」



   4


 部屋の扉がノックされる。おそるおそる扉を開けると、リィが俯いて立っていた。


 三日ぶりに会うレイルの目の下には濃い隈が出来ていた。全く寝ていないのでは、と思わせるほどに。

「えっと」

「ただ・・・いま」

「───」


「レイル。私・・・っ⁉」

意を決して口を開いたリィはレイルの胸に引き寄せられていた。

「レイ・・・」

「良かった・・・良かった、無事に帰ってきて・・・本当に良かった・・・っ」

「ごめん・・・ごめんなさい・・・心配かけて・・・」

言おうと思っていた言葉も忘れ、リィはただただ謝罪した。

テセウスの言うとおりだった。レイルはリィを心配して、何かあったら、と聞いてきたのだ。それに気付かず、リィは護衛の任についた。

「良いんだ。無事だったから・・・」

不意に、レイルの体重がかかった。顔を上げると、レイルの目は閉じられ、すぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてきた。

最初に感じたとおり、寝てなかったのだろう。リィが無事だったのに安堵して、限界がきたといったところか。寄りかかって寝ているレイルの体を持ち上げると、寝室まで運んだ。

僅かに微笑んだ寝顔。じっと見続けていると、熱いものが頬を伝った。

───今なら、誰にも見られることはない。

リィは眠るレイルの手を握り、声を押し殺して泣いた。泣き続けた。

レイルの手がリィの手を握り返した気がした。



騎士とは、何なのだろう。守りたいものを守るために覚悟をし、自分の命を厭わない。騎士であるにはそれが必要だと信じてきた。

でも───そうではないのなら。

それを知りたい、と思った。

今はまだ分からないけど、いつか分かるようになりたいから。

涙をふき、前を向く。そして、真っ直ぐ進んでいく。

───夜空をかける、ひとすじの流星のように。

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