~友~
1
アスール村での戦いから一日。
まだ魔力が戻らず、動くことができない。魔力切れになったのなんて、いつぶりだろう。確か、リピアだったときだ。十歳前後の私は偶然魔法と出会い、誰もいない山で試し撃ちをしまくったのだ。魔法の知識など欠片もない。限界まで魔力を使い、ぶっ倒れた。
繰り返し放たれる魔法を訝しく思って山に入ってきた衛士がいなければ、そのまま死んでいてもおかしくなかった。『私』も『私』も幸運だった。
疲れているだろうに、動けないリィにかわってレイルは料理や洗濯をしてくれた。申し訳なく思いつつ、嬉しいとも感じてしまうのは、もはや仕方ないだろう。
王城に報告に行ったレイルをベッドの上で待っていると、表で音がした。窓まで見に行けない疲れ切った体を恨めしく思うが、どうしようもない。しばらくすると、寝室のドアがノックされた。
「はい」
返事をすると、ドアが開かれた。そこに立っていたのは───
「え・・・テセウス、殿下?」
慌てて起きあがろうとするが、ぴくりとも動かない。それでも必死に起きようとするリィをテセウスは手で制し、
「心配したぞ、リィ!そなたが魔力切れをおこしたと聞いていてもたってもいられず、来てしまった!」
騎士の家に足を運ぶ王族なんて、聞いたことがない。本来はあり得ないのだ。
「で、殿下、大丈夫なんですか?王城を出てきても」
「それについては気にしなくていいよ」
テセウスの後ろからレイルが入ってくる。
「騎士である僕がついているしね。それに」
「それに?」
「───友の家に行くのに、何の問題がある?」
答えたのはテセウスだった。
「私を・・・友と、そう呼んでくれるのですか・・・?」
「ああ。・・・そなたにはレイルがいる。ならば、余は友だろう。今まで、余のことを何だと思っていたのだ?」
「・・・わ、私は殿下を守る立場です。友だなんて・・・恐れ多くて・・・」
「リィ」
「───」
「友であるのに、身分など関係あるまい」
「心を許す相手が傷付いたと聞けば、足を運ぶ。それは普通のことであろう?」
自分を見つめるテセウスの目が、見開かれた。そこでようやく、自分が涙を浮かべていることに気付く。
ずっと、友などいなかった。
無意識だったが、私は友達を欲していたのだろう。気楽に喋れて、時には悩みを聞いたり、話したりできるそんな相手を。
───だから、テセウス殿下の言葉にこれほど心が震えてしまうのだ。
「殿下」
「リィ・・・テセウスと呼んでくれまいか?敬語ではなく、普通に話してくれると余も嬉しいのだがな」
「テセウス」
「あなたは、私の初めての友人よ」
2
───反則だ。美しい笑顔で、そのようなことを言われては。
恋心を、諦めたはずなのに。否、諦めてなどいない。諦められない。
今もなお、テセウスはリィを愛しているのだ。
友人でもいい。彼女と一緒にいられるのなら。
3
「ごめんなさい・・・ありがとう、テセウス」
薄暗く誰もいない寝室で、リィは呟いた。
テセウスの気持ちを知っていながら、友と呼ぶことの罪悪感と、友人という関係でいいから隣にいたいと思ってくれることへの嬉しさがないまぜになって、複雑だ。
眠れぬ夜、リィはテセウスの言葉を、何度も思い返していた・・・。




